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ベクトルマン  作者: 連打
131/189

朝の風景(姉サイド)



「あー、そういやこの時期やったりするよな同窓会」


もはやカナが違うクラスである教室の私の席の脇にいる事に誰も違和感はないだろう。本日も私が登校するとカナは『おはよー』と爽やかな笑顔で迎えてくれていた。


「ちょっと高校慣れた辺りで『ヨソはどんなんだ?』ってさ。やったら気合入れてメイクとかして『昔とは違うアタシを見てー』って」


カナは身に覚えがあるのか、懐かしむような苦笑いで私に説明してくれる。一方私はと言えば同窓会など行こうと思ったコトすら無いので、カナのこういう表情はナニカ微笑ましい。

親戚のコの晴れ着姿をぬるく眺める感覚だろうか?


「あのバカまだ様子おかしいから刺激になればって思ってね」


「……やっぱ落ち込んでんの?」


「本人は無自覚。バカだから」



そっかー、と。

先程の微笑ましい笑顔を忘れ綺麗な顔にシワを刻み込む。直接周蔵に会って何か声を掛けたいのはヤマヤマなのだがいい言葉が思いつかないのだそうで……未だ挨拶程度しか交わしていないらしい。

カナは意外に『気にしい』である。


「んー」


カナは制服のポケットからデコデコしい煌びやかな電話を取り出し、手馴れた操作でどこかに連絡しているようだ。って、え?


「どうしたの?」


多分2、3回コールしたあたりで電話を切ってしまったみたいだ。


「あ、だいじょぶだいじょぶ」


とカナが手の平を私に向けフリフリしている間、廊下から足音が響いてくる。物凄い勢いで走っているらしく、その音はどんどん近づいてきて……


「お呼びですか先輩!!」


私の教室のスライドドアが反動で返ってくるほど勢い良く開き、息を弾ませまくった智香ちゃんが血走った目でこちらを見ていた。


「はやいね」


「先輩のお呼びとあれば!」


新人の海兵隊のような直立不動からの敬礼、まだ息は上がっているがカナへの視線は力の入ったものだ。って、なにコレ?


「最近どうかなアイツ。まだ凹んでるの?」


「そうでもないように見えます!普通です!」


間を置かずカナの問いに瞬時に答えを返す智香ちゃんは、敬礼こそ解いたものの直立不動は変わらず。教室の入り口での出来事なので登校してくる生徒達は『何事?』と訝しげな視線を智香ちゃんに送り、次に私の方に視線を寄越す。

私は小首を傾げるのみだ。


「普通に見えるのはアンタがちゃんと見てないからだと思うよ。現に古都は『様子がおかしい』って言ってるし」


「……そんなこと言われても、なぁ。カナ先輩が言ったんじゃないですかぁ『必要以上に近づくな』って」


カナに上目遣いでささやかな抗議を試みる智香ちゃん。そりゃそうだ。

クラスメイトというだけで気持ちを慮れと言うのは少々酷だし、ましてや相手はあのバカである。普通の生徒よりもその難度は高いと言わざるを得ない。


……近づくなって、なんだろ?



「なあ智香。てめえチョーシくれってと……」


「いやいやいや!違います違いますって!!決して先輩に異を唱えた訳では無いんですってば!!その顔やめてくださいよ!もう散々反省してますからわたし!!」



ドアの所でクネクネと身を捩じらせカナに対する異論は無いことを強弁する智香ちゃん。なんだろうこれは?

いつの間にカナと智香ちゃんの間にこんな主従関係が出来上がっていたのであろうか?


「……ま、いい。今後もちゃんと報告しに来いよな」


「えー……自分で行けば早いじゃないです……」


「……ぁあ?」


「迅速且つ詳細な報告を心がけてまいりたいと思います!!」



どうやら智香ちゃんはカナに何か弱みでも握られているのかな?

まあ……智香ちゃんなら大丈夫か。

このコ意外とキモ座ってるし、完全な支配下にはどうやったって見えないし。


よろしくなー、と軽く手を振り智香ちゃんを見送るカナ。

その際


「古都先輩も授業頑張って下さい!」



と、私にも定規で引いた線の様な敬礼を向ける智香ちゃん。


「……」



楽しそうだからいっか。



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