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ベクトルマン  作者: 連打
130/189

鬱期のサナカ



そこまで落ち込んでる訳じゃない。

でも何か……最近の僕のメンタルはアベレージが低調だった。


「……」


ぎし、と姉のおかげで万年床を回避しているベッドに倒れこむように背中を預ける。ゴロゴロと身体を捩り天井を見上げてみたところで、まあ当たり前だがそこには天井しかない。

窓の外に視線を這わせてみても、閑静な住宅街のまばらな明かりとささやかな星空が見えるだけ。

どれもこれも当たり前、それがいけないのか?と問われても『いえ、別に』と新人バイトのような緊張感で答えるだけだ。


「……」


要はまったりとした憂鬱、である。

何も興味が沸かず、何もする気が起きない。


「周蔵、いる?」


コンコンと僕の部屋の扉をノック、一応プライバシーを考慮してますよ的な硬質の打撃音。イノシシは此処の所僕の部屋には顔を出さなかったのだが、最近になってまた頻繁に用事を見つけては訪問するようになっていた。


僕が扉を開けると姉は一枚の封筒を僕の鼻に突きつけて、まるで当然のように部屋の中に侵入。勝手に本棚のマンガを物色しだす。


「……」


僕は扉のところで立ったまま渡された封筒を眺める。長居されるのも遠慮したかったので扉は開けたまま。僕なりの無言の抗議であった。


「同窓会みたいね、中学の」


そのようである。

卒業してまだ半年も経っていないのに何が同窓会だ?しかも僕には『ヒサシブリー!元気だったか!』なんて見え透いたうっすい笑顔を貼り付けて外人みたいな握手を交わしたい友人など皆無!誰が行くんだこんなもん!?

かなりのレベルのバツゲームだろコレ!


「……行くよね」


はぁあ!?行くわけねえええええ!!

僕は自慢じゃないが友達ひとりも居なかった苛められっこだぞこのイノシシ!!なんでそんな苦痛を伴う修行しなくちゃなんねんだよコラ!!

僕はまだ徳は低くていいの!充分なの!


「最近あんたちょっとおかしいからさ。気分転換してきなって」


ベルセルク読みながら背中で語ってんじゃねえ。

あと、それ未完だからな!『続きはどうしたのよ!』ってキレられても僕のせいじゃないからな!


「あんた卒業間際ダイエットでほとんど学校行ってなかったし。ビシっと見せ付けてやんなさい」


ダイエットで学校行ってなかったのはあんたのせいだ。


……っていうか。


「行かない」


なんで僕がこんな偽善的イベントに顔を出すと思ったんだこいつは。かくいうこのイノシシもこの手のイベントは好きじゃなかったハズ。

『しらじらしい誇張された自慢話なんか聞くほど物好きじゃない』つって自分は行かなかったくせに!


僕は手にした封筒をゴミ箱に入れようと姉のうしろを通過した瞬間、姉の背中から陽炎が立ち昇るのが見えた。


「ウジウジウジウジ……いつまでそうやって春さん引き摺ってるつもり?」


そんなんじゃない。

そう言おうとはしたんだが、なんせこの迫力。なんでそんな怒ってんだイノシシさん?


「あんたはまたフラレたの!しっかり受け止めなさい!そんで同窓会行け!」


「ふふふフラレてないし!しかも、またってなんだよ!?!んで同窓会は関係ないから!」


「ほら!これ使い切るまでその日は帰って来たら許さないから」


姉は僕に一万円札を三枚突きつける。


「あ、でもオンナ関係はNGで。カナに泣かれちゃうから24時までには帰宅厳守。ちゃんと使ったか確認するからレシート持ってくること」


「聞け姉!行く前提でハナシ勧めるなよ!行かないって……」


イノシシは無言で立ち上がり訳の分からない迫力を纏って、僕にこう言い放った。


「決して人の夢にすがったりしない、誰にも強いられることなく、自分の生きる理由は自ら定め進んでいく者。そして、その夢を踏みにじる者があれば全身全霊をかけて立ちむかう。たとえそれがこの私自身であったとしても・・私にとって弟とは、そんな“対等の者”だと思っています」



「……」




意外と影響されやすいんだなグリフィス姉さん。



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