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ベクトルマン  作者: 連打
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〔ハル編〕そんな気がする



墓参りを無事に済ませ氏原さんに電話番号とアドレスを教えた僕は次の日朝から登校していた。

穏やかな喧騒の中代わり栄えのしない光景を横目で見つつ、最早全く違和感の無くなった一番後ろの席へ。



「おはー」



「……そこ、僕の席なんだけど」



「知ってるし」



大金の入った財布を落としたとしてもこんな仏頂面が出来上がるんだろうか?

智香は頬を限界まで膨らませ、僕の席で踏ん反り返っている。


なにやら良くない予感が頭をよぎったので、僕はかばんを机の横に静かに引っ掛けるとニヒと愛想笑いをしてみた。



「わたしの出番は?」


「……へ?」



愛想笑いは完全スルー、智香はふくれっ面のまま器用に僕に向けて喋りだす。


「藤崎なんて『僕はもう知らない』なんて言いながらちゃっかり見せ場やったらしいじゃんか。古都先輩もカナ先輩も大活躍だったって聞いたんだけど」


「大活躍?」


「まあ、ソレはカナ先輩が言ってるだけで古都先輩は知らん顔だから真相は怪しいけど……でもそれにしたって」



おおう。

智香は僕の机にぺたんと上半身だけ倒れるようにのしかかると、僕の机ごとがたがたと揺らし始めた。



「なんで?なんで私だけのけ者にするかなあ!?」


「って、智香?」



がたがたがたがた。


智香は電動で動く数多のエログッズをまねてその場でひとり震源地を楽しんでいる。

クラスの目は当然僕らにあつまり、朝のゆるやかな喧騒は一転、静寂の中にがたがたという音だけが響き渡る異常事態。



「何度も言うけどさ智香?僕とこんな風に……」



イチャついては非常によろしくないって事は智香だって承知してるだろうに。

脂汗を垂らしながら小声で話す僕の身にもなってくれないか。



「まだそんなコト言ってんの周蔵くん」



智香は全く意に介した様子を見せず、依然がたがたと貧乏ゆすり継続中。そして次なる声はあらぬ方向から投げられてきた。




「あんまり彼女泣かしちゃダメだよ新木君」


「……は?」



彼女?

ってか、誰だあんた?

智香(つまり僕の席)の席の隣に座っている女性徒は、やけに生ぬるい視線で僕に声を掛けた。



それに答えるように智香は言う。

きっちりと、だぞ!

ちゃんと隙間無く否定するんだぞ智香!



「最近冷たいんだー。ケンタイキかな?」




は?



なぜ?

なぜ智香は彼女発言を肯定するような言葉を吐く?

僕は目を見開いた。そりゃあもうカッっと。

キテレツな言葉を発した智香の意図が全く分からない。

ケンタイキ?

カーネルサンダース的な?



僕がその場で混乱し立ち尽くしていると……歪な笑みを浮かべた智香は可笑しそうにこちらを見る。

悪意がある。

この顔は、邪悪だ。

そう確信した。



「私と周蔵くん付き合ってるから」



「……」



なな。

何を言ってるんだこの三次元は?



「別に周蔵くんを男としてどうこう思った事ないけどさー。強いて言えば嫌がらせ?のけ者にしたバツってことで」



よろー。

そういいつつ再度僕の机の上に突っ伏してしまう智香。



「ともちゃん新木君のことずっと心配してたんだから、全シカトじゃそりゃいくら付き合ってても怒っちゃうよ?フォローは大事なんだから」



「だからあんた誰だ!?なにニヤニヤしてやがる!?あと、付き合ってないから!!」



なんだこの隣の席の新たな3次元は!


「ずっとクラスメイトなんですけど……まあいいわ。黒髪ストレートの学級委員、綾でーす」


「知らないからこの新キャラ!さらっと自己紹介してんじゃねえ!引っくり返すぞこのガリ勉が!」


こう言えばこの学校の殆どの生徒への罵倒語になるだろう。



「引っくり返すって……私新木くんにどうされちゃうんだ?」


「想像力で羽ばたけよJK!聞けば答えが貰えるなんて甘えは断固阻止してやる!」



ふふ、と顔を崩し隣で突っ伏している智香の背中を叩きながら、学級委員は



「いやぁ期待以上。やっぱおもしろいね新木くんって」



と、そういってもう一度僕を見て笑った。


「でしょ?みんな誤解してるんだってば。ちゃんといいヤツだしね」


「……」



智香はひょっとして。

僕が他のあらゆるものが目に入らずテンパッていた時期に、僕のクラス内での立場をなんとか改善しようとしてくれていたんだろうか?


『私も助けるから』


そう言った智香の言葉をかみ締める。

周囲に目を向けると……以前とは少しだけ趣が異なる視線が僕と智香に集まっていて。



「にしてもさ周蔵くん」


「ん?」


「なんか前と変わった?なんていうか堂々としてるっていうか」


「そうかな?」


そんな気がする、と智香は笑った。

自覚は全く無いが僕が変わったのだとすれば、せめていい方にであってほしいものだ。

もう散々、バカは晒したんだから。



「……」


僕も少しはハルみたいに出来るかな。



あんなふうに明るく。




少しでも、前へ。





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