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ベクトルマン  作者: 連打
119/189

〔ハル編〕目障りだっただけ(ハルサイド)



「気が付いた?」



今、何時なのか。

朝なのか、夜なのか。



「ヒナタ聞こえてる?」



意識がはっきり保てる時間は日に日に短くなっていく。

胡乱な時間に空虚な意識が溶けるように。



「珍しくいい夢でも見た?なんか笑ってたよ」



そうだったかな。

そういえばししょーと話していたような夢を見た気がしないでもない。



「よく頑張ったなヒナタ」



私はベッドに横たわったまま小さく頷いた。

不敵な笑みもオマケに付けた筈なんだけど、うまく笑えているかは全く自信が無い。



「なんかあったら言って。ずっと横にいるから遠慮すんな」



まーた休み返上して彼氏作る時間放り出してるのか。

ウジハラーはもう結婚とかあきらめてるのかねえ?



「ほんとに呼ばなくていいのか?」



しつこい未婚女性は嫌われるよウジハラー。

ししょーなら心配ない。



「月が出てるな。明日も晴れるか」



月。

今、夜なのか。



「場当たり的な対処だけしかしなくてごめんなヒナタ」



もう『治療』なんて意味が無い。

何度も説明されたし、今更そんなこといいよ。

痛みももう以前のように鮮やかな衝撃じゃないし。今はもっと……虚ろなカンジ?

なんか痛みがヌルってしてるから。

大した事無いから。



薄ぼんやりとした灯りが見えるけど、多分これって煌々と照らされてるんだろうな。



「他の病室の人たち廊下に押しかけてるけど、追い返していいよね?あんたまだまだ死なないし」



おおう。

厳しいなあウジハラー。『マダマダ』は言い過ぎでしょ。まあ追い返すのは賛成、みんなだってちゃんと睡眠取らないとだしねー。

わたしは布団の中から手のひらを滑らせて外に出すと『しっしっ』というゼスチャーをした。



「りょーかい」



ぱたぱたと言う足音。

むー、今日もか。

ウジハラーは仕事用の抗菌シューズじゃなく来客用のスリッパを履いてる。てことは非番なわけで。



「……」


他のみんなとウジハラーの廊下での話し声が聞こえてくる頃、わたしは頭の中を整理を始めることにした。



そろそろ閉店の短い人生の中で沢山の時間をここで過ごした。

きっと、いつか。

そう思って退院できる日を楽しみに過ごした時間はそう長くなかったような気がする。早い段階でわたしは知ってたんだろうか?



だからみんなを殺したんだろうか?



終わりを知っていたから、いや。

逆に言えば知らなければ出来なかったはずで。


だからさー、今ちょっと不安なんだよねー。

ホラ天国ってあんじゃん。メタボな体型の羽付いた子供がいるいけ好かないトコ。


困るー。そんなとこ退屈そうで行きたくない。


んー。



あ、そか。

わたし地獄か。

余計な心配して損したー。なんだよもー。


てか、死んで『無く』なっても『在る』ってなんだよ。意味ワカンナイ。


死んでもまだ

どこかに行って

何かに怯えて

嬉しかったり悲しかったりするのかな?



「……」



なんのバツゲームだよそれ!もういいってお腹いっぱいだってば!




――――ありがとう。――――



「……」



わたしが殺したのに……みんなわたしにお礼を言っていた。

ご家族なんかは丁寧に手紙まで感謝の言葉をしたため、わざわざ病室に持ってきてくれるのだ。


わたしはタダのヒトゴロシ、それ以上でもそれ以下でもないの。



――――ありがとう。――――



だからさー。


わたしはみんなが変わっていくのが見るに耐えなかっただけ。

実際目障りだっただけなんだってば。



――――ありがとう。――――



しつこいなー。

その『ありがとう』、ほんとに思ってる?わたしが殺さなきゃまだ一週間くらいは長生きできたかもよ?

わたしが殺したからあなた達は『家族に暴言吐いたり』『友人を罵倒したり』出来なくなっただけ。それだけ。


良かったことってそれだけしか無いんだよ?

嫌な思いを親しい人たちに与えずに済んだだけ。



そんなものが一週間の命より大事?

心からそう思ってしまうのは……頭がオカシイ人なんだってば。普通の人は命が大事でしょうがないし、本当はご家族だって同じ気持ちだよ。そうでなきゃ困るんだよねーわたし。


さあ恨んでくださいどうぞ呪ってください。



「……」




わたしも。


最期は。




いや、ダメか。




ありがとうって言う資格、わたし持ってないや。




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