〔ハル編〕ならば無言
『あなたがこの件について真面目に対応する気が無いのは十分分かりました』
『……』
『これも放映されますけど異存は無いですよね?今回は顔も隠れているようですから足元映したりモザイク処理の必要も無さそうですし。手間が省けて助かります。お気遣いありがとうございます』
『……』
『倫理や道徳、そういった普遍的な価値を今のあなたは踏みにじっているんです。この放送を面白半分で見ていた視聴者の方々も、今回ばかりは我慢の限界というものを実感されることと思います。あなたに味方する意見も多少ですがあったというのに。残念です』
『……』
『結局あなたは人の気持ちが分からないだけの一介の高校生というだけ。物事の分別の付かない、頭の悪いコドモ。それがあなたです。異論あります?あるわけ無いですよね?だってそうなんだもん』
『……』
『この事件におけるあなたの立場なんかないのよ?そんなに目立ちたいの?あなたのつまらない自意識に付き合わされるこちらの身になってみてくださいよ』
『……』
『何かおっしゃりたいこと、若しくは反論があれば受け付けますが?まあ無いでしょうね。あなたは空っぽのチンドン屋、売るものの無い商店みたいなものなんだもの。あなたに主張なんて求めるのは間違ってる。この高校生を擁護する意見をお持ちの視聴者の皆さんは、今一度お考えを改めてみてはいかがでしょうか?』
『……』
『あなたが……あなた……』
『……』
『いいかげん……ソレ……取っていただけませんか?』
『……』
『……この……ガキ』
『……』
『……そのっ!!ふざけた被り物を取れって言ってんだよこのクソガキぃっ!!おとなをバカにすんのも大概にしときなさいっ!!』
『……』
『に!?……人参!?どこに持って……なにニンジン食ってんのよあんたっ!?これテレビなのよ!?ほんとふざけるのも……食べるのやめなさいって言ってんでしょ!?聞こえてるんでしょ!?』
『……』
『ぜっっったい許さないっ!!あんたこの私をどこまでバカにすれば気が済むわけ!?なんの抗議のつもりか知らないけど……って、ニンジン食べんなって言ってるでしょうっ!!もうぅぅあったまきた!!おい!……んなあに逃げてんだこのクソガキぃぃっ!!待ちやがれこの【ぴーーーーーー】!!あんた【ぴーーーー】が【ぴーーーー】のくせに【ぴーーーーーーーーーーー】』
「……っ!!」
病室で僕はハルとテレビを見ていた。
ばんばんと勢い良くハルは枕をベッドに叩きつけ、プルプルとお腹を抱え声も出さずに笑っている。
笑い事じゃなかったんだけどなあ。ものすごい形相で襲い掛かってくる女性の恐ろしさってのは男性の比じゃないのだ。纏わりつく『怨念』みたいなものがハンパじゃねえのだ。
それにしても……馬のかぶりものは、やりすぎだったと少しだけ反省。差し入れのハーゲンダッツを買いにコンビニに入った時、目に飛び込んできたニンジン(120円)を見た時にはイケルと踏んだんだが……レポーターの女性の情緒を著しくかき乱しただけのようだった。
馬ならば無言、ニンジンをただ無言で食す。
だってニンジンがあるから!そこにはニンジンがあるから!
無言で食す以外何があろうか、いや無い!(ばばーん!)
「シュールししょー!!テレビの電波でシュール撒き散らしてんじゃねーー!!」
んばん、ばん、と僕の顔面に飛んでくる枕を華麗に顔面でキャッチしながら……思う。
ヒヒン、くらい言ってあげてたほうが……。
…………。
いや!
やっぱ無言!あれでヨシ!!
馬だし!!ニンジンだし!!