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ベクトルマン  作者: 連打
105/189

〔ハル編〕ため息(梶サイド)



いつまでも明るい。

ここは変わんねえなあ。


俺は微かにしか見えない夜空の星を探すように、顎を突き出し空を見上げダラダラと街の中を進む。

ぬるりとした空気、毒々しいイルミネーション。意味なんか無いであろう喧騒の隙間を縫いつつ、1階がコンビニになっている目的地のビルの前でため息を付いた。


コンビニの脇の細い路地から少し奥に進むと、ビルの外壁に張り付いた非常用階段を登る。ひとつ路地を曲がるだけで光は届かなくなったが……くせえ。

飲み屋やコンビニのゴミの集積場がやたらと存在感を放ってやがる。

いつもはこんなトコ通らねえんだが、まぁ今回はしょうがねえ。顔見知りに声を掛けられたくねえからなあ。


だからわざわざ夜中になるのを待って顔出したんだが……


「ん?梶か?」


さっそく見つかってりゃ世話ねえな。


「まったく……久しぶりに連絡寄越したと思ったら、お前辞めるんだってな」


なれなれしく俺の肩に腕を回したこのカマヤロウは、俺がこの事務所に出入りするようになった時にはすでにトップに君臨していた。男性トップモデルなんて恥ずかしい肩書きを欲しいままに振り回すその精神のタフさだけは賞賛に値する。


「私物取りに来ただけなんで、すぐ消えますよ」


「つめてー!俺ってばライバル失うの悲しんじゃってんのによー。張り合いねーわー!」


満面に貼り付けた軟弱な笑顔は営業用のソレと全く同じ。

薄い。軽い。つまんねえ。

正直俺はモデルなんてガラじゃねえし、撮影に参加したのも単にバイト料が破格だってだけだ。


非常用階段でじゃれあうヤロー2人、寒気が全身に回る前に退散するか。


「俺事務所で社長待ってるんで」


それは本当であった。

ハナシを聞く気なんざねえが『話し合おう』と電話で懇願されたからには行かないわけにもいかない。少なくない給料も貰っていたし、俺を撮影に起用するため社長が尽力していたのも知っていた。一宿一飯のオンギってやつだ。


「そっか!まあ偶には電話ぐらいして来いよな!飯でもおごってやるからよ!」


てめーの電話番号なんざ知らねえよ。


先輩風を吹かせて気が済んだのか、はたまた商売敵のドロップアウトが嬉しくて仕方がねえのか……カマヤロウはカマみてえな笑顔でカマみてえにくねくね階段を降りていく。


「ああそうだ梶!?」


なんだようるせえな。

俺もオトナだ。表情だけでそう言った。


「柚木ちゃんってお前と同じガッコだったよな、なんかヘンサチ高そうな」


階段の下から俺を見上げる形でニコニコしながらカマは意外な名前を口にした。カナは事務所こそ違うがこの辺りではもう有名人、コイツと面識があってもおかしくはねえが。


「カナすか?」


「そーそーカナちゃん!あのコも辞めたのか?」


そんな話は聞かねえな。まあアイツの場合事情も入り組んでっから俺みてえにすんなり辞めるなんて出来ねえはずだが。


「なんかよ!駅前で演説してたのツレがみたらしいんだなー。事務所の売り出し方なんかね?」


「……演説?」


少しだけ嫌な予感が脳裏をよぎる。


「隣にもうひとり、やけにガンリキ鋭い姉さんとセットだったみたいなんだけどよ。そのコも美人だったらしいからコンビで売ってくつもりなんかねえ?」


「さあ?なんにせよ俺にゃあ関係ないっす。じゃあ」


おう、とカマの階段を降りていく足音を背中で聞きながら、今日2回目のため息を吐いた。



まったく。




なにやってんだよ新木サン。



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