〔ハル編〕GoGo悪だくみ(姉サイド)
「古都っ!!」
あー。そりゃあそうか。
むしろ遅かったくらいだよね。
カナは目を血走らせて私の教室に飛び込んできた。目指すは私の席、そりゃあもう一目散である。ガタガタと自分の進路上にある机を乱暴に弾くカナ。どうやらあのコには私の席以外は全て障害物に見えるらしい。
「どうすんだよ!!周蔵クラスで浮きまくってんじゃんか!!藤崎のヘタレは頼りになんねえし!!」
いよいよ本格的に無視が始まったようで、智香ちゃんによると机なんてあからさまに遠ざけられ以前よりハッキリ拒絶の空気が漂っているらしい。
「なんとかなんねえの!?なあ古都!」
「んん。そうねえ」
ま、ヒトゴロシの友達なんて誰も関わりたくない。当たり前である。
しかもあのバカは雑誌について何の説明もしないし、殺人自体を擁護したとも取れるインタビューについてもスルーしているらしい。
そんなヤツがクラスにいたら私だって気味が悪いし、積極的に関わろうなんて思わないだろう。
つまり。
自業自得、なのだ。
「ねえカナ」
「なに!?なんかいい案あるの!?」
目をキラキラさせ私の袖をぎゅっと掴み口を一文字に結ぶ。
期待を裏切ることを言うのが少しだけ、心苦しい。
「周蔵は私にもなんの相談もしてない。梶君にもカナにも。藤崎君や智香ちゃんにもね」
「う、うん」
「じゃあ、しーらない」
私は両手を軽く上げ『お手上げ』のゼスチャーをする。
「……はぁあ!?な、何言ってんだよ古都!あんた姉ちゃんだろ!?姉弟だろ!?」
「あいつの性格は知ってるよ。根性ナシの癖に頑固で、ヘタレオタクのくせに自分の意見は曲げない」
「……うん」
「『話さない方がいい』って判断したんだと思うんだ。関わる人間を増やしたってどうなるものでもないって」
問題は学校内の事ではない。報道の様子では近いうちに刑事事件にまで発展するだろう。なにせ命の問題なのだから。ふんわりした着地なんて許されない、法律の上での裁きが何らかの形で下る。
そんなところにただの高校生が首突っ込んだって……なにも変わらない。
「心配じゃ……無いわけないよな。ごめん古都」
「いいよ。こっちこそバカが心配かけてごめんね」
教室内での無視はもう大した問題じゃない。周蔵の考える着地点が全く分からないのが問題だ。
こんなものにゴールなんて無いだろう。
聞けば、その殺人者と表されている女の子は病気でもう長くないらしい。やたらとピースがこんがらがっている。分かりにくい。
「でもさ。このまま何にもしないってのも……なんにも出来ないってのは分かってるんだけどさあ」
腕を組み、首を傾げ、眉間にはシワを寄せるカナ。
本当に周蔵のことが心配なんだなあ。
今となってはカナのトレードマークであるブランドの財布も過剰な化粧ですら微笑ましく見えてくるから不思議なものだ。
「……あのさ、カナ」
「え?」
「周蔵の件とちょっとだけ関係してるかも知れないんだけど、やることあるんだよね。乗る?」
「乗る!なにすんの?」
即答って。
「後悔しないでよ?」
「しない!で、なにすんの?」
考える前にとりあえず返事するカナのまっすぐ振りにちょっとだけ彼女の未来に不安を覚える。くだらないオトコとかにころっと騙されてものすごい借金とかしないでしょうねこの子は。
「矯正というか……地ならしというか」
「わかんないよ古都!もっとわかりやすく!」
「世直し」
しっくりくるのはこんなところか。まあどうなるか分からないけど、どうせ周蔵の件は眺めるしかないし……やってみようと思う。ハッキリ言って鬱憤晴らし、もっと端的に言えば八つ当たりである。だれも得しない、嫌がらせの類の話だ。
「古都……笑顔、怖いよ」
「そう?」
知らず知らず。
嗤っていたか。