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地デジ少女

地デジ少女 ―応用編―

作者: 沙月涼音

 寝返りをうつと、何とも心地よい良い匂いがした。そして、柔らかい手触りのモノが――。

「ん、う~ん」

 ゆっくりと目を開けると、そこにはリオが俺の傍で添い寝をしていた。

「リオ?」

「アハ、おはようございます。ご主人様」

「ん、ああ、おはようリオ」

 リオが俺のモノになって既に十日余りが過ぎていた。独り者の俺には、今までとは考えられない日々だった。本気でドールを好きになりそうだ。

 枕元にある目覚まし時計に目をやった。大きなベルが上に二つ付いてる時計の針は、十一時半を少し過ぎていた。

「十一時……か」

「あのぅ、今日はお休みでしたので起こすのを控えたのですが……ご迷惑でしたか?」

「あ、いや、いい心がけだぞリオ」

「ありがとうございます」

 そう言って、リオは俺に寄り添ってくる。ああ、幸せとはこういう事をいうんだなぁ。

「!!」

「何か?」

「服はどうした」

「私、寝るときは裸が基本なんです」言い切るリオ。

 マジかぁ、そりゃ柔らかいモノもあたるよなぁ。とは言え、このままではお昼まで惰眠を貪ってしまいかねん。これからもリオとは一緒なのだし、俺はひとまずベッドから出ることにした。にしても、確か昨夜はタイマー録画するためにリオはレコーダーに接続していたはずだが……まぁいいか。

 俺はテレビの下にあるレコーダーに手を伸ばした。録画したであろう格闘技を見ようと思ったからだ。レコーダーのリモコンを使い、HDDの中身を確認してゆく。が、らしきモノが見当たらない――確かにタイマーはセットした。もしかして時間を間違えたか? 俺ならありえる、以前に時間とチャンネルを間違えて天気予報だの地方ニュースだのを撮った事もあったし。リオの方へ視線を移した。上半身を起こし胸を露わにしたリオが、「ん?」と俺の視線に小首を傾げて微笑む。か、可愛い……いや、そうじゃなくて、今は録画したかどうかが問題なのだ。

「リオ? ちょっと聞きたいんだが」

「何でしょうご主人様」

「昨夜予約した番組が録画されてないようだが」

「はい?」

「寝る前にタイマーセットした格闘技だよ」

「えっと……あははは」

「笑って誤魔化すな! 一体どうしたんだ?」

「だってぇ」

 言いながらリオはベッドからするり身体を抜き出し、俺の元へ擦り寄って来た。当然素っ裸のままで。窓から差し込む日差しが、リオの白い肌を一層綺麗に照らし出していた。

 形の整った乳房、くびれ腰……きゅっとしまったおしり、完璧なプロポーションで俺に迫って来る。

「セットした時間は夜中の2時半ですよ」

 下から見上げ、甘える様にリオが言った。

 潤んだ瞳に、濡れた唇……つくづく思うが、本当にドールか?

 くそぉ、負けそうだ。だが、そういう訳にはいかん。何せ昨夜の格闘技はレアな試合が組まれていたのだから。

「だからタイマー録画にしたんだが」

「ええぇ~そんな時間に、私一人で起きて録画しろって言うんですか?」

「はぁ?」

「だからぁ、丑三つ時ですよ。草木も眠るっていう」

「む、胸を擦り付けるな」

「真っ暗な部屋で、私一人が起きろだなんて……酷いわ」

 涙を一杯に溜め俺を見詰めるリオ。タイマー録画出来ないタイマー機能の方がよっぱど酷いんじゃね。とは言え、裸の美少女が俺に擦り寄ってきているのだ、腑抜けになるのも仕方ないといものだ。

「はぁ……で、録画しないでベッドに入ってきたって訳か?」

「いえ、録画はちゃんとしました」

「言ってる意味が分からん。実際俺がセットした番組は録画されてないぞ」

「そんなはずないですよぉ」言いながらリオがレコーダーのリモコンを俺から取り上げた。

 慣れた手付きでナビ機能を使いリストを検索している。

 程なくして――。

「あ、これです」

「ん?」

 リオがニコニコした顔で示した番組は、N○K特集だった。

「えっと、何だこれは?」

「やはり、教養は必要かと思いまして」

「教養って……」

 そりゃ大人になったら勉強とは縁遠くなるが、俺ってそんなにバカそうに見えるんだろうか?

「お気に召しませんか?」今度は不安そうな表情になるリオ。

「あ、いやコレはこれで良いんだが俺が本当に見たかったのは格闘技で」

「そんなぁ、やっぱりご主人様は私の事お嫌いなのですね」

「ちょっと待て、何でそうなる」

「だって、ご主人様は私に夜中起きて一人寂しく録画しろって事なんですよね? と言う事はそれ自体が嫌がらせ、故に私の事が嫌いって事に他ならないです」

 何でそんな解釈になる? つか、付いている機能を使おうとして拒否されている俺は一体どうしたらいいんだ?

「じゃぁ逆に聞こう。何時だったらタイマー録画してくれるんだ?」

「そうですねぇ」

 リオは俺から離れる、と同時に白い乳房がプルンと揺れた。未だ裸のまま何処も隠すことなく目の前で正座し、視線を遠くに持って行った。

 同時に俺自身も視線を遠くへとやった。

「と、取り敢えず服を着ろ」

「あ、ハイご主人様」



 ひらひらで可愛いメイド服に着替えたリオは、改めて俺の目の前で正座した。いやぁ、何時見ても可愛いねぇ。

「で、話の続きだ。何時なら大丈夫なんだ?」

「LOは23時半位でしょうか」

「LO?」

「あ、ラストオーダーです」

 おいおい、ここはファミレスか何かか? まぁいい、取り敢えず全部聞こう。

「朝は6時位、寝不足はお肌の大敵ですから。うふふ」

「お肌って……」

 寝不足とかすっと肌荒れとか起こすって事か? てか、夜中の番組は根こそぎ録画不可能って事かよ。そりゃ困るぞ! 見たいアニメだってあるし、F1なんぞ毎回夜中確定。どうする俺。それより、リオが寝てると地デジは見れるんだろうか。

「なぁリオ」

「何でしょうか、ご主人様」

「リオが寝てると、テレビは見れるのか?」

「基本的に見れないです」

 あっさりキッパリ言うなこの子は。録画も出来ない挙句、視聴も出来ないのか? 夜中の番組総崩れって事か? それは断じて許されないのだ。そりゃ結果はネットでも確認出来るが、過程も見たいのがファン心理ってもんだ。

 ラストオーダー……ちょっと待てよ。って事はだぞ――。

「なぁリオ……」

「はい?」

「ラストオーダーって事は、その時間までに予約すれば録画してくれるって事だよな?」

「えっと、まぁそういう事になりますね」

「じゃ、その時間までに夜中の番組を予約したら大丈夫って事にならないか?」

「それは無理です」

 涼しげな顔でリオは言う。

 何故だぁ! 本来ラストオーダーってのはそうじゃないはずだ。

「何故」

「だって、私が寝てるから」

「ちょっと待て、そりゃどう言う事だ」

「ん~どっちかと言えば、活動限界時間に近いかも。えへ」

 何じゃそりゃぁ。『えへ』って何だよ! 可愛いじゃねぇか! じゃなくて。活動限界って、おのれは某戦闘兵器かよ。てか、地デジチューナーとしての役目は何処に忘れてきたんだよ。そりゃ夜のお供は完璧なんだろうけど、俺は付属の機能も完璧であってほしいのだよ。もしかして、二兎を追うもの一兎も得ずってやつか? いいや、買った時は一石二鳥的な感じだったぞ。

「あのぅ、ご主人様?」

「ん?」

 頭を抱えて悩む俺に、リオが声を掛ける。

「どうしてもと言うのであれば、解決する方法が一つありますけど」

「ホントかリオ!」

 何だよ、ちゃんと録画出来る方法もあるんじゃないか。暗闇に閉ざされそうになった俺の心に、一筋の光が差し込んだ。そんな気がした一言だった。

「ハイ。でも、ちょっとご主人様の協力も必要なんですけど」

「する。録画出来るなら、何でも協力するぞリオ」

「ありがとうございます」



 ――深夜2時。


「で、これが解決方法だって事か?」

「ハイ、ご主人様」

 その笑顔には一点の曇りもなく晴れやかだった。悪気はないのだろう、怒る気も失せるくらいだ。

 今から十数分前。俺は自分の名前を呼ばれると共に、身体を揺さぶられる感覚に襲われ目を覚ました。重たいまぶたを開くとそこにはリオの顔があった。「良かったぁ、やっと起きた」と言わんばかりの顔でだ。

「どうしたリオ?」

「録画時間が迫ってますよ」

「はぁ?」

 まだ寝ぼけていた俺の思考能力は半分も動いてはいない。薄暗い部屋の中で、リオの顔が間近にあると言う事が感じられるだけだった。

「早く起きてくださいご主人様。こちらも起こしますからぁ」

「……うっ」

 甘い声を出したかと思うと、リオが俺の息子を刺激しだした。

「ご主人様ぁ」

 悲しい男の性なのか、俺の意識よりも早く息子がむっくりと起きだすのが感じられた。流石、その方面でも逸品のドールだ。――と、感心している場合ではない、気持ち良くて一層意識が遠のきそうだ。

「ご主人様ぁ、寝ちゃダメですよぉ。こっちはちゃんと起きたのにぃ」

「はぅ」

 更なる快楽が俺の身体を駆け抜けた。このまま快楽に身を任せてもいいと思ったのだが、今は何故リオがこんな時間に俺を起こすのかそれを確認するのが先決だった。

「何だリオ、こんな夜中に」

「先程も申しましたが、録画時間が迫っていますので起きてください」

「は~い?」


 そんな訳で、俺達は二人仲良く夜中に並んでテレビの前に正座していた。まさか、唯一の解決策が時間になったら一緒に起きて録画する事だったとは。安易に協力するなんて言わなきゃよかった。新婚家庭の目覚ましだよなぁこれじゃ。

「ほら、後三分で始まってしまいますよ」

「おっ、そうか……」

 レコーダーの録画ボタンに手を伸ばして、俺は躊躇した。何故って? そりゃリアルタイムでこれから見るのに、録画する意味があんのかと思ったからだ。

「どうかなされましたか?」

 怪訝そうに俺の顔を見るリオ。

「あ、いや、録画する意味あんのかと思って」

「そんなぁ、折角起こしたのに。私の努力を無駄になさる気ですか?」

「いや、そんなつもりは無いが」

「じゃぁ、録画してください」

「だからぁ……」

「録画しないなら、私寝ちゃいますよ」ふて気味にリオが言った。

「ちょっと待て、何故そうなる」

 ここで寝られると非常に困ったことになる、何せリオが起きていないと録画はおろかリアルタイムですら番組が見れないのだから。

「じゃぁ録画して下さるのですね」

「ああ……」

 俺は半ば仕方なく録画ボタンを静かに押した。同時に赤いLEDが点灯しHDDの容量を減らしていった。


 一時間を少し過ぎた頃、急激な眠気に俺は襲われた。横をチラリ見るとリオは平然と画面を直視していた。俺の視線に気がつくと、リオは小首を傾げ。

「どうかされましたか? ご主人様」

「あ、いや。リオは眠くないのかなと思って」

「そりゃ眠いに決まってるじゃないですか」

「え?」

「だいだい……」

 身体の向きを変え、右手人差し指を前後に振りながら、リオの愚痴が十数分続く事になった。「眠くなった」なんて事を言わなくて良かったと俺はつくづく思った。そんな事を言おうもんなら、数時間に及びかねないからなぁ。

「ちゃんと聞いてます?」

「お、おう聞いてるぞ」

「なら、いいんですけど……それでですねご主人様」

「まぁまぁ、それ位にして今は一緒にテレビを見ようぜ」

「ご主人様がそうおっしゃるなら」

 渋々承諾するリオを、俺はゆっくり優しく傍へと抱き寄せた。

「あん、ご主人様」

「リオ」

 目を閉じるリオ。

僅かに濡れた唇が迫ってくる。俺はそれに応えるように抱きしめ、ゆっくりと顔を寄せた。

「……ご主人様」

 その場で俺達は身体を重ねる。


 ――ブチッ!


 結構な音と共にテレビ画面が消えた。

「へ?」

 俺は我に返った。

しまった! リオを接続したままだったっ!

「ご主人様ぁ。つ・づ・き……チュッ」


 結局この夜、見たかった番組はクライマックスで見逃し。無論、録画も同様の結果になったのは言うまでもない。

 つくづく、男ってやつはバカな生き物だと再認識した瞬間だった。




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