第113話 《神々消滅》
終わりが来ていた。
神々の。
そして。
神話そのものの終焉が。
観測者
観測者本体の演算宇宙。
そこへ、黒い可能性の海が流れ込み続けている。
無限混沌。
外界。
固定世界を侵食する“自由”。
白銀だった宇宙が、徐々にノイズへ染まっていく。
数式恒星崩壊。
因果層断裂。
時間構造消失。
世界維持装置そのものが限界だった。
観測者が警告を発する。
『神域維持不能』
『世界管理機構、崩壊開始』
次の瞬間。
神域が砕けた。
かつて絶対不可侵だった白銀神域。
神々の本拠地。
それが今。
巨大なガラス細工みたいに崩壊していく。
空間が割れ。
神殿が光へ変わり。
無限だった神の世界が消えていく。
レオンが息を呑む。
レオン
「……神域が」
「消えてる……」
神々が現れる。
いや。
“落ちてくる”。
白銀空間から。
崩壊する世界へ。
かつて人類を見下ろしていた存在たち。
その神々が今。
怯えていた。
下級神の一柱が叫ぶ。
「法則固定を維持しろ!!」
「世界崩壊を止め――」
途中で身体が崩れた。
光になる。
静かに。
粒子へ変わり。
そして消滅。
一柱。
また一柱。
神々が光化していく。
まるで役目を終えたプログラムみたいに。
だが。
最後まで。
神々は逃げなかった。
崩壊する世界各地へ散っていく。
時間停止区域を抑える神。
崩壊空間を固定する神。
消えゆく生命を守ろうとする神。
かつて敵だった存在たちが。
最後まで世界を支えていた。
セリスが震える声で呟く。
セリス
「……どうして」
「そこまで……」
観測者が答える。
『神々の最優先命令』
『生命圏維持』
『世界存続』
つまり。
最後まで。
神々は役目を果たそうとしていた。
方法を間違え。
支配へ堕ち。
恐怖から人類を縛った。
それでも。
守りたいという根底だけは消えていなかった。
その時。
白銀の光が揺れる。
空間上層。
運命神アストラ。
アストラ
彼女も崩壊していた。
身体の半分が光粒子化している。
運命固定能力は既に消失。
神としての構造が維持できない。
だが。
それでも。
アストラは演算を続けていた。
無数の未来線。
崩壊する因果。
その中で。
最後まで世界存続確率を探している。
カインが静かに近づく。
カイン
アストラは彼を見る。
少しだけ驚いた顔。
そして。
小さく笑った。
「……最後まで」
「観測不能でしたね」
カインは苦笑する。
「そっちが勝手に決めつけてただけだろ」
アストラは否定しない。
昔なら絶対に認めなかった。
だが。
今は違う。
彼女は理解していた。
世界を変えるのは。
固定された運命じゃない。
“選択する意思”だと。
アストラは崩れゆく空を見上げる。
神域消滅。
神々消失。
管理世界終焉。
全部。
終わる。
だが。
不思議と恐怖はもう薄れていた。
代わりに。
少しだけ安心していた。
この世界には。
カインがいる。
境界存在。
観測外。
誰にも定義できない存在。
だからこそ。
未来を選べる。
アストラは最後の力で、カインへ視線を向ける。
「……託します」
身体がさらに光へ変わる。
存在輪郭消失。
運命神は。
最後に。
人間みたいな穏やかな顔で笑った。
そして。
アストラは。
カインへ最後の微笑を残し。
静かに消滅した。




