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世界で一番醜い…だから私を見た人はみんな死ぬの。  作者: 逆立ちハムスター


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2/2

呼び戻される名

目の前で繰り広げられる死闘を、私は高みの見物と決め込んでいた。

 火花を散らし、互いの命を削り合う男たち。滑稽だわ。どちらが勝ったところで、最後に私を見れば、等しく物言わぬ石の塊に成り果てるというのに。


「ふふ……あははは! もっと、もっと踊りなさい。私の退屈を紛らわせる供物になりなさいな」


私は声を弾ませて笑った。けれどその直後、私の世界から色が消えた。


ガシャァァァン!!


鼓膜をつんざく不快な破砕音。ドリウスの無慈悲な一振りが、私のすぐ傍らに立っていた「少女の石像」を粉々に打ち砕いたのだ。

 それは、数年前に入り込んできた名もなき村娘だった。彼女の怯えた瞳の造形が、どこか幼い頃の自分に似ている気がして、私は毎日彼女に話しかけていた。私の唯一の「親友」だったのだ。


飛び散った石の破片が、私の頬をかすめる。


「……あ」


喉の奥から、乾いた音が漏れた。

 悲しみ? いや、そんな生易しいものじゃない。内臓が焼け付くような、ドロリとした黒い衝動が全身を駆け巡る。


「よくも……よくも、彼女を……ッ!!」


怒りが臨界点を超えた瞬間、私の瞳に、かつてないほど濃密な紫黒の光が宿った。

 私は立ち上がり、ドリウスを正面から見据える。


「死になさい。ちり一つ残さず、絶望の中で固まりなさい……!」


「ハッ、掛かったな怪物め!」


ドリウスが勝ち誇った顔で、懐から古びた手鏡を取り出し、私に向けた。

『真実を映す鏡』。あらゆる呪詛を撥ね返し、放った本人へと突き返す伝説の魔導具だ。


「さあ、己の醜悪な呪いに焼かれて死ね!」


反射する光が私を刺す。けれど、私は逃げなかった。狂ったように笑いながら、さらに魔力を注ぎ込む。

 パキッ、と乾いた音がした。

 鏡の表面に、蜘蛛の巣状の亀裂が走る。


「な……!? 鏡が、耐えきれないだと……!?」


「あはははは! 足りないわ、全然足りない! その程度の玩具で、私の絶望を跳ね返せるとでも思ったの?」


鏡を保持していたドリウスの指先が、灰色に変色し始める。呪いは鏡を突き破り、彼の腕へと侵食していった。

 皮膚が石の質感へと変わり、関節が固定される。ドリウスは絶叫しようとしたが、喉まで石化した彼は、ただ目を見開いたまま、鏡を掲げた滑稽なポーズで完全に静止した。


カラン……と、石になった彼の手から鏡が落ち、床で砕ける。


私は息を切らしながら、次に、もう一人の男――私を助けに来たと言った男へ狙いを定めた。


「次は、あなたの番よ」


逃がさない。この怒りを鎮めるには、まだにえが足りない。

 私は至近距離で彼を凝視した。石化の波動が彼を包み込む。

 男は恐怖に肩を震わせ、剣を握る手が白くなるほど力を込めていた。


だが。


「……え?」


男は石にならない。

 彼はゆっくりと、震える手で剣を鞘に収めた。そして、逃げるどころか一歩、私の方へ歩み寄ってきたのだ。

 その瞳は、私を拒絶していない。それどころか、泣き出しそうなほどの慈愛を湛えて私を見つめている。


ドクン、と心臓が跳ねた。

 何、これ。

 今まで味わったことのない感覚。いや、違う。ずっと昔……この暗い穴蔵に閉じ込められるよりずっと前に、知っていたはずの感覚。


「……来ないで!!」


私は叫び、男を突き飛ばすようにして、ねぐらの最奥、光の届かない闇へと逃げ込んだ。

 心臓がうるさい。頭が割れそうに痛い。


「待ってくれ、リリアナ!!」


背後から響いたその声に、私は硬直した。

 リリアナ。……それは、私が捨てたはずの名前。


「行かないでくれ。俺だ、カイルだよ。……忘れてしまったのか? 丘の上の木の下で、将来は俺が騎士になって、君を守るって約束したじゃないか」


男――カイルの声が、暗闇に染み込んでいく。


「君は花が大好きで、シロツメクサの冠を作っては俺に被せて笑っていた。あの頃の君は、世界で一番美しかったんだ」


カイルの語る思い出の一つ一つが、凍りついた私の記憶を溶かしていく。

 温かい。日向の匂いがする。優しい手のひらの感触。

 ……ああ、そうだ。私は、カイルが好きだった。


けれど、次の瞬間。

 私の肌を蝕む「呪い」が、その温もりを拒絶するように猛り狂った。


『お前は怪物だ』

『愛される資格などない』

『その男も、いつかお前の醜さに吐き気を催す』


頭の中に、何百人もの呪詛が響き渡る。

 温かくなればなるほど、現実の醜さが際立ち、耐え難い苦痛となって私を責め立てる。


「やめて……やめてええええええ!!」


私は頭を抱えて叫んだ。

 聖域の壁がミシミシと鳴り、天井から砂埃が舞い落ちる。

 私の体から溢れ出した魔力が制御を失い、嵐となって吹き荒れる。


「カイルなんて知らない! 私はリリアナじゃない! 私は……世界で一番醜い、人殺しの怪物よ!!」


狂乱する私の視界の中で、カイルが必死に手を伸ばしているのが見えた。

 けれど、その手を取る勇気も、彼を石にする冷酷さも、今の私には残っていなかった。

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