めぐり逢い①
この話は、亡くなった妻との出会いを思い出しながら語った、小さなめぐり逢いの記録です。
映画のような出来事ではありませんが、今思えば不思議な縁だったように感じています。
亡くなった妻との出会いは、映画やドラマのような出来事ではない。
けれど今思えば、あれほど静かで不思議な巡り逢いもなかったかのように思う。
コロナ禍になる少し前のことだ。
僕は小学校以来の友人と、久しぶりに酒を飲んでいた。
その店は駅前の通りから一本入った細い路地の奥にあった。知らなければ通り過ぎてしまうような小さな扉のショットバーで、柔らかな間接照明が木のカウンターを淡く照らしていた。店内には低く静かなジャズが流れ、グラスの触れ合う音だけがときおり小さく響いていた。
僕たちは並んでカウンターに座っていた。
そいつとは何でも話せた。
子どもの自慢をし合い、仕事の愚痴を言い合い、お互いに連れ合いができた時には喜びを分かち合った。
「もう二度と付き合わない」と思うほどのケンカも何度もした。けれど気がつくと、いつも仲直りしていた。
今となっては、僕に残された数少ない、かけがえのない友人の一人だ。
その日も、取り留めのない話を続けていた。
氷の入ったグラスを傾けると、かすかな音が響いた。琥珀色の液体がゆっくり揺れるのを、僕はぼんやり眺めていた。
話題が途切れかけたころ、そいつが口を開いた。
「なあ、映画とかドラマであるやろ」
「何が」
「図書館でぶつかって本取り違えたりとかさ。毎日通う弁当屋の女の子と仲良くなって恋が始まったりとか。ああいう出会いって、本当にあるんやろうか」
僕はグラスを指先で回しながら答えた。
「あるんじゃない? だから映画やドラマになるんやろ」
そいつは納得がいかない様子で小さく唸った。
「うーん……そうかなあ」
しばらく考え込んだあと、ふと思い出したように顔を上げた。
「そういえばさ」
「何」
「お前、亡くなった奥さんとどうやって知り合ったん?」
思いがけない質問だった。
「誰にも話したことないやろ」
「そうだっけ」
「秘密主義者やきな、お前」
そう言って笑う。
確かに、ほとんど話したことはなかった。
隠していたわけではない。ただ、わざわざ話すほどの出来事でもないと思っていただけだった。
その日は少し酔っていたのだと思う。
柔らかな灯りの中でグラスを傾けていると、亡くなった妻と出会った日のことが、ゆっくりと浮かんできた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
続く後編では、亡くなった妻との出会いをもう少しだけ詳しく書こうと思います。




