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めぐり逢い①

作者: 森本有介
掲載日:2026/02/25

この話は、亡くなった妻との出会いを思い出しながら語った、小さなめぐり逢いの記録です。

映画のような出来事ではありませんが、今思えば不思議な縁だったように感じています。

 亡くなった妻との出会いは、映画やドラマのような出来事ではない。

 けれど今思えば、あれほど静かで不思議な巡り逢いもなかったかのように思う。


 コロナ禍になる少し前のことだ。

 僕は小学校以来の友人と、久しぶりに酒を飲んでいた。


 その店は駅前の通りから一本入った細い路地の奥にあった。知らなければ通り過ぎてしまうような小さな扉のショットバーで、柔らかな間接照明が木のカウンターを淡く照らしていた。店内には低く静かなジャズが流れ、グラスの触れ合う音だけがときおり小さく響いていた。


 僕たちは並んでカウンターに座っていた。


 そいつとは何でも話せた。


 子どもの自慢をし合い、仕事の愚痴を言い合い、お互いに連れ合いができた時には喜びを分かち合った。

 「もう二度と付き合わない」と思うほどのケンカも何度もした。けれど気がつくと、いつも仲直りしていた。


 今となっては、僕に残された数少ない、かけがえのない友人の一人だ。


 その日も、取り留めのない話を続けていた。


 氷の入ったグラスを傾けると、かすかな音が響いた。琥珀色の液体がゆっくり揺れるのを、僕はぼんやり眺めていた。


 話題が途切れかけたころ、そいつが口を開いた。


「なあ、映画とかドラマであるやろ」


「何が」


「図書館でぶつかって本取り違えたりとかさ。毎日通う弁当屋の女の子と仲良くなって恋が始まったりとか。ああいう出会いって、本当にあるんやろうか」


 僕はグラスを指先で回しながら答えた。


「あるんじゃない? だから映画やドラマになるんやろ」


 そいつは納得がいかない様子で小さく(うな)った。


「うーん……そうかなあ」


 しばらく考え込んだあと、ふと思い出したように顔を上げた。


「そういえばさ」


「何」


「お前、亡くなった奥さんとどうやって知り合ったん?」


 思いがけない質問だった。


「誰にも話したことないやろ」


「そうだっけ」


「秘密主義者やきな、お前」


 そう言って笑う。


 確かに、ほとんど話したことはなかった。

 隠していたわけではない。ただ、わざわざ話すほどの出来事でもないと思っていただけだった。


 その日は少し酔っていたのだと思う。

 柔らかな(あか)りの中でグラスを傾けていると、亡くなった妻と出会った日のことが、ゆっくりと浮かんできた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

続く後編では、亡くなった妻との出会いをもう少しだけ詳しく書こうと思います。

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