ちかくてとおい、ものおもい。
縁あって参加したサークルに寄稿したものになりますわ。
普段の書き物が書き物なので『片想い』なんてお題の時点で投了もやむなしかと思われましたが一応形にはなりました……、なりましたかね……?
「ねえ……その、さ……小夜にしか言えないんだけど、あたし……好きな人、できたかもしれないんだ」
「そうなんだ……誰なの?」
当たり前のようにあなたの部屋、一通り勉強も済ませて、珍しくひなたのほうから持ち込まれた悩み事。うっとりした顔でどこかを見るあなたは、恋に教科書があるとしたら、そのまんまの表情をしていて……頭から、離れそうにないや。どちらかというとかっこいい顔のあなたが、夢うつつのような顔をしていて。
「二組の三原くん、バスケ部の……みんなには内緒にしてて」
「うん、分かったから」
……その瞬間だったんだ、私の奥で、鼓動が熱を持ったのは。それが『恋』という感情と結びつくには、案外時間がかからなかった。
幼馴染で親友で、お互いの特別。ささやかで、でも何にもかえられない幸せ。あなたが夢を見つけた瞬間、わたしは叶わない夢を見てしまった。ズキって、胸の奥が切なく痛む。
「それでさ……教えてほしいんだよね、いろんなこ。頭いいし、本もよく読んでるから知ってると思うし……いいかな」
「いいよ……私だって知識だけだから、ちゃんとアドバイスできるか分からないけど」
本当は嘘。今、ここで気づいちゃった。鼓動と同じタイミングで、ズキズキと胸が痛む。恋の病、知識で知っているのより、ずっとずっと熱くて痛い。よくあるラブストーリーみたいに、幸せに包まれてるわけじゃないんだ。恋に気づいた瞬間に、想い敗れたことに気づかされたせいかもしれないけれど。
「いいのっ⁉ ……ごめんね、こういうの頼ってばっかで」
「いいよ、わたしもこんなぽわってしてるひなたといると調子狂っちゃうもん」
そんなとこで恋を自覚したくせに……いや、だからこそ。幼馴染で、特別で、親友で、でも、ひなたはそういうの興味なさそうだったから、それだけで済んでたのかもしれない。じゃあ、もしもひなたのこんなとこ、もっと先に知ってたらどうだったかな。そしたら、こんなことにならなかったのかな。それとも、こうなるのが、早くなっただけかな。
「もー、それってどーゆーことなの?」
「ひなたっぽくないなって……誰かのこと、好きになるとか」
「あたしらだって高校生じゃん、シシュンキってやつだよきっと」
「……まあ、それもそうだね」
名は体を表すというけど……本当に、からりとした人だから。恋なんてしっとりした感情とは縁がないって思ってたのに……でも、そうだよね。いい加減、高校生になって、そういう浮ついた話だって耳にするもの。
「それより、小夜こそどうなの? 好きな人いる?」
「うーん……私はまだかな、特に探してるわけでもないし」
「そっか……小夜なら見つかるよ、素敵な人も」
「ありがと……ひなたは優しいから、きっと叶うわね」
言葉の裏側に見つけちゃった棘が、心の奥に刺さる。こんな嘘、つきたくなかった。でも、こうする以外の何かを、見つけられる気はしないけど。
誰かとひなたが一緒になるなんて考えられなくて、でも、一番の特別だから、応援したい気持ちもあって……だから、せめて、このままでいさせて。わたしも、できるだけ変わらないでいるようにするから。だから……どうか、気づかないでいて。こんな気持ちになんて。この恋が叶うなんていうのは、望みすぎていることは分かっているから。
「えへへっ、もう、小夜の方が優しいよ」
「もう……。そういうのさらって言うとこ、ひなたらしいな」
ちゃんと、いつものわたしでいられてるかな。そんなことばっかり考えてる。そんなとこが好きとか、ついこぼしてしまいそうになる。壊してしまうのが、どうしても怖くて仕方ない。
「そういうとこ、大好きだよ」
「ふふっ、しょうがないわね、ひなたは」
こんなに甘ったるいのに、抱きついてくれるのに。今はその『すき』が痛い。体温は同じ温度になっていくけど、言葉は、同じ温度にはならない。ひなたが言ってくれる言葉もあったかいけど、わたしが抱えてしまった気持ちは、それよりもずっと熱すぎて、ひなたの気持ちが冷たく感じてしまう。こんな気持ちを知ってしまったら、もう、同じ温度で交わることはない。
「小夜も見つかるよ、特別な人」
「……ええ、そうかもね」
それはひなただって言いたくて、言えない。だって、もう他の人を向いちゃっている。ひなたの幸せを奪えるほど、わがままにはなれない。張り裂けそうな心が、どうしようもないほど泣きたくさせてくる。
「……どうかした?」
「……なんでもない」
「なんでもなさそうにないから言ってるんだよ。いっつもそうやって抱え込むんだから」
背中をぽんぽんって撫でてくれるの、昔と同じだ。昨日までと変わらない態度に、逆に寂しくなる。ひなたにとって、わたしは特別かもだけど……恋にはなれない。そう言われてるような気がして。
「……ちょっと内緒にさせて、言いたくなったときに言うから」
「しょうがないなぁ、もう……約束だからね」
「……分かったから」
二人だけの部屋、今は何か壁でもできてるみたい。わたしが、勝手に作ってるだけなのは分かってるけど。今は、ここから離れられる時間をずっと待ちわびてしまう。空気すら、毒でも入ってるんじゃないかってくらいに苦しいや……帰りのチャイムまでの時間、こんなに長いって思ったことなかったのに。
「ところでさ、どうしてその人のこと好きになったの?」
「うぅ……訊きたい?」
「ちょっとくらいいいでしょ? 相談持ちかけてきたんだし」
話を続けるのに、こんなに苦労するのなんて初めて。普段なら、いくらでも話に花が咲くのに。ぐるぐると空回る頭、何を話してるんだか、言葉にしたとたんに抜け落ちていく。好きになったきっかけ、自分で訊いてるくせにぼんやりしか覚えられない。ようやく鳴り出した帰りのチャイムで、ひなたは、寂しそうな顔をする。そういうとこ、嬉しいのに切ない。
「じゃあ、またね」
「うん、またね」
次が来るの、苦しい。そんな風に、見えないでいるかな。短い帰り道、考え込みすぎて、迷う心配がないのだけはよかった……のかな。
一人の部屋、明かりは点いてるけど、なんかもう、全部が灰色に見える。鞄を机の脇に投げ込んで、ベッドに体を丸ごと投げ出す。枕に突っ伏したまま、さっきまでの話が、頭の中をぐるぐる巡って止まらない。
自分から明かしたくはないな、そうしたら、ひなたは立ち止まってくれちゃうから……気づいてくれたらよかったのに。八つ当たりだって分かってても、どろどろの感情がこぼれるのを抑えられない。
「ひなた……っ」
わたしの知らない内に、変わっちゃってたんだな。なんで、気づけなかったんだろう。好きな人がいるなんて。ずっと、近くにいたのに。きっかけなんて、その前にもあったはずなのに。ひなたって、わかりやすいのに。
「ねえ……?」
好きになった理由はもう訊いてる。そうじゃなくって……じゃあ、何だろう。そんなのも、頭の中が真っ黒に塗りつぶされちゃって分からない。ただ、暗闇だけがある。何もかも全部投げ出して、楽になれたらいいのに。抱え込んだ感情も、捨てられたらよかったのに……そんなこと、できないのなんて知ってても。
最初から気づかなかったら、なんて……そんな『もしも』も、もう過ぎた話だけど。知識でしか知らない感情だけど、それがとても重くて熱いものだっていうのは知ってる。それが叶わないことの冷たさも痛みも切なさも。分かってたつもりなのに、それが全部一緒に来て、心の中がぐちゃぐちゃになりそう。
「ひなた、ねぇ……っ」
わたし以外と隣にいて、笑いあって、触れ合って、それ以上の特別なことも……なんて、想像するだけで、胸の奥を握り締められる感じがする。痛い。苦しい。でも、あんなに頼ってくれるの、どうしたって断れるわけがない。ずるいよ、他の人に恋なんてして。こんなとこに恋させたくせに。八つ当たりだって分かってても、止まらない、止まれない。
「どうして……?」
どうして、わたしにあんなこと教えてきたの。どうして、あんなかわいい顔してたの。どうして、恋なんてしたの……どうして、わたしじゃなかったの……ごめんね。今は、顔を見たらひどいことしか言えなくなりそう。
ぐちょぐちょになった枕の感覚、心の中も土砂降りになってる。さすがに、そろそろ学校の準備しなきゃな。机に向かって……ダメだな。全部、ひなたのことで頭がいっぱいになっちゃってる。
ルーズリーフを引っ張り出してきて、思いの丈を吐き出すように書きなぐって、紙吹雪みたくなるまで破いて捨てる。わたしの心がこれ以上引き裂かれないように……ただ、ひなたが幸せになるのを願えるままでいられるように。
……沈み込んだ気持ち、その日のうちに泣き腫らすくらい泣いたら少しは落ち着いた。これなら、普通にいられる、かな。まだ、自信は持てないけれど。これなら、なんとかなる……はず。
いつも通り、お互いの家に遊びに行くタイミング。勉強したり、お菓子をつまみながらだべったり。そんな時間の中に、あの時からはひなたの恋愛相談が入ってくるようになった。知識でしか知らないから、月並みな答えしか返せてなくて。それでもひなたは好きな人と、ちょっとずつ距離を縮めてってるのがわかる。もうすぐ、こんな日々が始まってから一月。その時は、お互い何か言うわけじゃないけど、ベッドに隣同士で腰掛ける。
「ねぇ、聞いて……?」
「どうかしたの?」
日に焼けてるのに、ひなたのほっぺが真っ赤になってるのが分かっちゃう。それを隠すみたいに手で押さえて、ぎゅって縮こまって。こういうかわいらしい仕草、ひなたから好きな人の話をする度に見るようになった。一緒に話しただけでドキドキしちゃったとか、帰り道途中まで一緒に帰ったとか、話してくる中身もまるで少女漫画みたいで……ひなたのそんな女の子っぽいとこ、全然知らなかった。小っちゃい頃から、私が怖くてできないこともできちゃうから。進み方さえ分かれば、簡単に進んじゃうのも分かってたけれど。
「廊下ですれ違ったとき、『話がしたいからどこかで会えるか』って言われちゃって……っ」
「へぇ……絶対それ告白する気でしょ」
「やっぱ、そうだよね……っ」
もう、そんな風になっちゃったんだ。ひなたのこと、一番知ってるのはわたしのつもりだったのに。わたしが知らない間に、どんどんひなたはオトナのオンナっていうのに近づいてく。
「へぇ、よかったじゃん。……」
「うん、ありがと、小夜のおかげだよ」
屈託のない笑顔。そんな顔してたら、そりゃ、誰だって惚れちゃうよね。とっくに知ってたはずなのに、恋をしてるって自覚してるだけで、そんなとこまで目が行っちゃうんだ。
「どうかした?」
「ひなたって、こんな可愛かったんだなーって」
恋をしたら大人になるなんて、誰かが言ってたっけ。最初に会ったときなんて、男の子みたいだなって思ってたし。じゃあ、わたしは、……うらやんで、ひがんで、むしろ子供みたいになってく……ダメだな、わたし。どうして、気づけなかったんだろうな、わたし。
「もー、それってどういうこと?」
「わたしの知ってるひなたは、かっこいいから」
「そっかな……」
「うん、もしひなたが男の子だったら惚れちゃってたかも」
……もし、ひなたが男の子だったらな。そしたら、もっと早く『好き』になってたのかな。真面目に恋して、そのまま、二人で結ばれて……なんて、ありもしない妄想が頭をぐるぐるする。わたしじゃない人に恋する姿に恋をしたくせに、未練がましいけれど。
「もう……そんなことないって」
「そうだよ……ほら、ずっとわたしのこと大事にしてくれたでしょ?」
「小夜がかわいいからだよ……そういえば、そっちは好きな人いるの?」
「んー……いるけど、内緒かな」
それこそ、幼稚園のとき……初めて会ったときから。ひなたは私のこと大事にしてくれて、それが嬉しくてしょうがなくって……そのときの気持ちも、恋だったのかな。もし、その時にそうだって気づけて、気持ちを伝えられたら。もうどうしようもない『もしも』を考えて、余計に自分が嫌になる。
「えー? お礼にさ、あたしも小夜の恋のこと応援したいんだけどなーっ」
「いいって、別に……っ」
ずいっとわたしのすぐ目の前に顔を寄せてくる……顔も、なんとなくきれいになったような。惚れた弱みなのか、本当にそうなのか分からないけど。唇をすぼませてるの、子供っぽくて、ひなたはひなたなんだなって安心する……それよりも、そんなはずないのに、なんか、キスされるの、想像しちゃって……そんな関係でもないのに。ひなたがそんなことする相手は、他にいるのに。
「……ダメ?」
ずるいよ……誰も幸せになれないから隠してるのに。そんな顔でおねだりしてこないで。もし、言っちゃったら、ひどい選択をさせないといけなくなるかもしれないから。
「ダメじゃないけど……別にいいでしょ?」
「もう……いっつも小夜は一人で抱え込むんだから」
逃げ道、塞がないで。この気持ちを隠してるのは、ひなたのためなのに。それなのに、そんな顔。逆らえるわけないのに……ずるいよ。いつもは嬉しくてしょうがない優しさが、今はうざったくてしょうがなくなる。ひなた……ごめんね。わたしが悪いのに、一人で勝手に感情がぐちゃぐちゃになっちゃってるだけなのに。
「あたしも小夜に聞いてもらったから楽になれたんだからさ……ほら」
急にくる、優しい声。これ以上口を開いたら、これ以上何か伝えようとしたら、多分、ひどいことしちゃいそうで。ねえ、止めて……頭の中で、何か糸が切れるような音がするから。
「……ひなた」
この口、今すぐ塞いで。この体、このまま抱きしめて。そうしてくれなかったら、わたし、自分のことが止められないから……ねえ、何かしてよ。じゃないと……。
「小夜?」
戸惑って、動けなくなってる……ごめんね、分かってるのに。腰掛けてるベッドの上に乗って……いつもなら見下ろされる視線に、今は見上げられてる……ほんのりうるんだ目、きれい。こんなの、ずっと見れちゃうんだ。わたしがひなたの好きな人なれないこと、今更なのにうらめしくなる。
「幸せになってほしかったから内緒にしてたのに……ひなたのせいだよ」
「……小夜?」
きょとんとした顔、分かんなさそうに首をかしげたのをいいことに、唇を押し付ける。漏れる吐息、色っぽい。わたしの知らない声、聴かせないで。もっと、恋しちゃうから。
「「……んっ」」
唇、しっとりしてて柔らかい。ひなたも同じ女の子なんだって、今更みたいに思い出すみたいな。初めてなんて、こんな風に奪いたくなかったのに。でも、どうしようもなく溢れちゃって、ぐちゃぐちゃになる。
「好き……ひなたがその人に持ってるのと、同じくらい」
「ぇ、小夜……っ」
見開いた目に、吸い込まれるようにもう一回。ねえ、好きになって。好きにならないで。本気になって。練習だって思って。反対の気持ち、一緒に頭の中に浮かんできて、最後は、『すき』が勝つ。
「……ちゅ……ちゅっ、ん……っ……はぷぅ……ちゅぃ……ぁむ」
「……ん……ぅ、ぁん、は……さやっ……あっ……んぅ……っ」
とめて、とめないで。されるがままになってるの、らしくなくて、かわいい。こんなとこ見せられちゃったら、止められるわけないよ。ごめんね。でも……すき。
「ちゅ……ちゅぃ、ひなたぁ……ちろ、るりぃ……」
「……は、ん……、ぁ、はぁ……、んぅ、てろ……」
こんなの、知ってるはずないのに。唇、軽く舐める。ねえ……応えないでよ。なのに、それなのに、ぎこちない動きで応えてくれる。こんなの、好きな人としてほしいのに、奪いたくなっちゃって仕方なくなる。ひなた……好き。好き。好き、すき。頭の中、それだけになる。
「ちゅ……ぺろ……れる、れろ……ぴちゅぅ……んぁあ、んちゅ」
「……ん、はぁ……んちゅ、れる……んちゅ、あ……っ、んく、ぅん……っ」
……わたしのほうが息ができなくなって、離れる。……あのまま、息が止まっちゃえばよかったのに。その代わりか知らないけど、涙が止まらなくなる。魔法が解けたように、心の中、痛くてどうしようもなくなる。
「はぁ、ぁ……ごめん、わたし……っ」
気持ちよかったのが気持ち悪い。嬉しかったのが切ない。かわいいって思ったのが憎たらしい。痛くて苦しいのに、離れられない。止めたくない。ひなたの口の中、舌でぐちゃぐちゃにかき回して、わたしの心は、逆にかき乱されてっちゃって。
「小夜……?」
わたしに、体ごと向き合ってくれる。今度は、ひなたのほうが背が高い。怒られるようなことしちゃったのに、ただ、頭を抱き寄せられる。
「はじめては、好きな人がよかったよね……っ、なのに、わたし……っ」
「もー、それはもう今更だよ?」
「……ぇ?」
そんなこと、あったっけ。全然思い出せないや。痛み止めが切れた後みたくやってきた後悔と罪悪感で、体が痛くなる。
「あたしの初めては、小夜なんだよ、小学校の頃に」
「そうだっけ?」
「裏山に飛んでった帽子取りに行ったことあるでしょ? そのとき」
そういえば、そんなことあったな、確か、わたしのお気に入りの帽子が飛んでっちゃって、ひなたと二人で裏山のとこまでいって、怖がってたわたしにひなたが……そっか、あのとき……そんなことも、思い出せなかったなんて。はじめてを奪ったと思い込んでたときよりも自分が嫌になって仕方なくなる。
「うん……っ」
「それよりも、ごめんね? 気づいてあげられなくて」
抱いてた手が離れたと思ったら、今度は、思いっきり、体ごと抱きしめられる。ぎゅっとされるのほっとする。ひなた、あったかい。
「ううん、ごめんね、ひなた……っ」
「小夜のこと、どう思ってるのかなって考えてたんだ。ちゅーされるの、全然イヤじゃなかったから」
「ひなた……?」
「なんだろ、小夜と同じ感じの人って、誰にもいなくて……なんて言えばいいんだろ」
こんなことまで、考えさせちゃってるんだ、ダメだな、わたし。ただ、幸せになってほしかったのに、わたしが重荷にしちゃって。結局、自分勝手なせいで、全部ぶち壊して。いなくなっちゃいたい。ごめんね……最初から出会わなかったら、こんなに苦しまなかったのに。
「友達だし、幼馴染だし、家族みたいなもんだし、でも全部、そうだけど、そうじゃなくて……」
「もう、いいってば……」
「ダメだよ、ちゃんと言えなきゃ、どっか行っちゃいそうだもん」
「なんで……っ」
ずるいよ、こんなとこまで気づかないで。これ以上、好きにさせないで。一番近くにいるのに、こんなに、わたしのこと気づいてくれるのに……わたしの『すき』は、もう届かない。届いちゃいけない。だって、ひなたには、もっと大事にしなきゃいけない人がいて、わたしは、それを一番近くで応援してあげなきゃって分かってる……だから。
「どれだけ一緒にいると思ってんの? もー……しょうがないな、小夜は」
頭、ぽんぽんって撫でられる。昔から、ずっと変わらない感覚。あのとき、感情が変わってなかったら、ただ、幸せでいられたのにな。優しい声が、今は痛くてたまらない。
「ちゃんと言えてないかもだけど……好きだし、特別だよ、小夜」
「ひなた……っ」
救われたような感情と、それ以上になれない寂しさが混ざる。今更かもしれないけど、でも……いつもならわたしよりあったかいはずなのに、ひなたの体、涙で濡らした服のせいで冷たいや。
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