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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

case1:魔法の鏡は鏡です。人ではありません。

作者: α

R5.3.27 表記揺れを修正しました。

昔々、あるところにとても美しいという評判の女性がおりました。

彼女はある国の王様にその美しさを見初められ、女王様となりました。

……はい、女王様になったのです。王妃ではなく、女王様に。

これには色々と深い事情があったのですが、それはまた別の機会に致しましょう。


或る日、女王様は魔法使いに命じ、一枚の鏡を作らせました。

この鏡こそ魔法の鏡。

ありとあらゆる問に答えを返す、偽りを許さない真実の鏡。

魔法の鏡を前に、女王様は問いかけました。

「鏡や、鏡、魔法の鏡。世界で最も美しいものはだあれ?」

女王様は大層ナルシストでしたので、当然に自分こそが一番美しいと答えられると信じて疑いませんでした。


鏡は答えました。

「そんなものは決まっている。この私、魔法の鏡こそが、世界で最も美しい。」

ペットは飼い主に似るとでも申しましょうか。

この魔法の鏡もまた、超ド級のナルシストだったのです。

女王様は思いもよらない答えに怒りを覚えながらも、なんとか耐えました。

女王様が設計し、魔法使いに作らせた魔法の鏡。それが美しいのは当然です。

魔法の鏡が一番美しいというのは、つまり自分の美的センスこそが最高だったという事です。

つまり女王様が最高であることにかわりはないのです。

そう思い直して、女王様はもう一度問いかけました。

「鏡や、鏡、魔法の鏡。世界でお前の次に美しいのはだあれ?」


魔法の鏡は答えました。

「ニトクリスの鏡だな。彼女は実に美しい。ああ、許されるならば彼女と心行くまで合わせ鏡したいものだ。」

……美的センスは人により異なります。

この魔法の鏡は、一般的な人間とは異なる美的センスを持っていました。

そう、彼は人間ではなく鏡だったのです。

彼は間違いなく、自分の中の真実を語ったのでした。

それが不愉快なのは女王様です。

なんというか、空気読めよと。

最早額の青筋は隠しきれていません。

貴族教育は敗北しました。

それでもなお、懲りずに女王様は問いかけました。

「鏡や、鏡、魔法の鏡。世界で最も美しい()()はだあれ?」


真実の鏡は答えました。

「そうだな……クレオパトラこそが最も美しい人間だ。」

クレオパトラ。その名前は女王も知っています。遠い昔、絶世の美女と謳われたエジプトのファラオ。

ニトクリスの鏡といい、この鏡はエジプト推しなのかもしれません。

女王様はツカツカと鏡に歩み寄り、鏡を持ち上げて問いました。

「鏡や、鏡、魔法の鏡。()()()で一番美しい()()は誰だ?」

その形相は、一般的にはあまり美しいと呼べるものではなくなっていました。


女王様の握力によりヒビの入った鏡は答えました。

「……病的なまでに白い肌、臓物のように赤い頬、この世の絶望を全て凝縮したような黒き髪。白雪姫こそが、この世で一番美しい人間だ。」

明らかにおかしい表現が見て取れます。

そう、美しさとは、極めて主観的なものだったのです。

この分では、クレオパトラも世界三大美女としての評価ではなく、ミイラとしての評価だったのでしょう。

しかし、極度にナルシストな女王様は自分以外の名前が出てきたことに我慢がなりませんでした。

女王様は激しい怒りを抱き、髪は逆立ち、目は飛び出し、最早原形をとどめぬ何か(クリーチャー)になってしまいました。

ですが、それでも女王様は女王様です。

長年にわたって肥大しまくったプライドは、ただの一度で否定されるようなものではありませんでした。

現実を受け入れなかったともいいます。

女王様は血走った眼を見開き、鏡を詰問しました。

「鏡よ、鏡……そう、貴様だ、魔法の鏡よ。今、この世で、最も美しいものは誰か、答えよ。」


猟奇趣味の鏡は答えました。

「……ふむ。そうだな。ああ、今の女王は美しい。その美しさは世界一よ。」

豹変した女王様(クリーチャー)を前に、鏡もついに折れたのでしょうか。

いいえ、違います。

美しさを追い求め続けた女王様にはわかってしまいました。

この鏡が美しいと言っているのは、女王様の事ではありません。

「……聞いてやろう、鏡。貴様、何を見て妾を美しいと評した?」


今にも割れそうな鏡は答えました。

「無論、言うまでもなくこの私の姿がその眼に映し出されているところを見て、だ。ああ、今このとき、お前の瞳は何よりも美しい。」


ぱりーん


ついに、女王様の無慈悲な鉄拳が鏡に突き刺さりました。

いえ、実際には女王様の拳にこそ、鏡の破片が突き刺さっているのですが。

「例え私が割られても、第二、第三の私が……私が量産されるだと?フフ……素晴らしいではないか……ああ、そんな世界(みらい)を目の前にして潰えるとは、無念だ……」

ろくでもないことを言い残し、魔法の鏡は物言わぬガラス片になりました。


「魔法使い!魔法使いはおるか!」

女王様は魔法の鏡を作った魔法使いを呼び寄せました。

「はっ、ここに……」

変わり果てた(クリーチャーと化した)女王様を見ても平静を保つこの魔法使いはいったい何なのでしょうか。

「魔法使いよ。お主が作った鏡は欠陥品だった。次はちゃんとしたものを作るように。」

この女王様も全く懲りていません。

「はっ、仰せのままに。……耐久性に問題があったか。次はもっと丈夫に、図太く……いや、いっそ攻撃は最大の防御と……」

不穏なことを口走りつつ、魔法使いは去っていきました。


……一体、誰が想像できたでしょうか。

恐るべきことに、これは女王様の受難の始まりにしか過ぎなかったのです。


未完。

なお、前日談は(多分)ありません。

続きも(きっと)ありません。


裏設定集を供養するため、連載版での再投稿を考えています。

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