2の1 再び飛び立つっ!
俺視点 〜 街道付近の森 早朝 〜
身を刺すような寒さに目が覚める。
まだ朝日は顔を出していない時間帯、白い息を吐き出すと大きく身震いし、羽毛の中の空気を入れ替える。
(寒いのは嫌だけど、汗とかでベタ付くのはもっと嫌なんだな〜)
もう一度ブルッと震えて羽毛が立ち上がり、外観がふんわりと丸くなる。
季節は《春先》だが、朝晩は非常に寒い。 しかも、現在地は山地に当る地形。下手すれば雛鳥なんて簡単に凍死してしまう。
(寒ぅ〜 今更ながら山賊のいた洞穴内は暖かかったなぁ… まだ、充分に周りが見えないし、 行動はもう少し温まってから〜 )
そうボヤいて数十分──
(さて、 まずは飯の調達に向かいますか。)
昨日、都合良く見つけた樹のウロから顔を出す。
薄く霧のかかった早朝の森はただ静かで、風に揺れる枝葉の音がするのみだった。
(……物音ナシ! 気配ナシ! )
羽ばたき音を極力出さないように意識しながら飛び立つ。 そして樹の周囲を哨戒する。
この辺り… というか、ぶっちゃけ崖下の森なんてほとんど気にしていなかったため、どんな生き物がいるのかなんて全然知らない。
まぁ、その為の”哨戒”なんだけど。
梢に一匹のリス(と、思われる小動物)を発見。 向こうもこちらを視認したようだ。 警戒させないように近くの梢にとまる。
『おはよう、 突然だけどそこの木の芽はおいしいかな?』
リス(?)の側には最近芽吹いたと思われる若芽があり、リス(?)はそれを手に取ろうとしていた。
『……… 』
言葉が通じないのかリス(?)は少し首を傾げたあと若芽をひと齧り、数回の咀嚼の後、眉間にシワを寄せペッペッと吐き出した。
くぅおぉ〜…
よほど苦かったのかシッポの毛は逆立ち、中々にスゴい表情になっていた。
リス(?)も首を左右に振った後、前脚を顔の左右で広げる。
(あ~ダメダメ… ってヤツか。 って、感情表現豊かだなぁ!)
予想以上のリアクションに思わず突っ込むが、リスは下の方を指している。 ちょうど真下に赤色の実が成った低い木がある。
リス(?)のオススメってヤツかい?
『ありがとう、 さっそく行ってくるよ。』
片翼を上げて返事をすると梢から急降下する、脇目で見るとリス(?)は再び不味かったと思われる若芽を齧り、吐き出していた。
(なんで不味かったのをまた齧るん?)
気にしてもしょうもない事なので、気にせず赤い実を付ける木に降りる。
──うん、以前に食べた実と同じ種類の様だ。
葉っぱの形、実の成り方、前に採ってきた物と酷似してる。
ひと齧り、すると馴染んだ酸味が広がり、気分が冴える気がした。
(……兄弟姉妹で食べたのを思い出すなぁ… )
あの襲撃から丸と二日過ぎたが、母からも姉からも連絡が無い。(ついでに兄も)
と、言っても、こちらとて捕われていた身の上、入れ違いがあったのかも知れない。
食べれるだけ食べて、幾つかを《羽毛収納》に仕舞う。
さて、捕らわれていった妹の情報収集だ。
まずは話を聞いてくれそうな相手を探さなくては、声をかけた途端パクリは洒落にならない。 相手の見極めが大切だ。 (なるべく肉食系は避けよう)
赤い実の木(勝手に命名)から飛び立つと、別の木の若芽を齧るリス(?)を見かけた。
くぅおぉ…
アイツ、まだやってるのか?…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
やま けむり もくもく
うま はこ がらがら
とり ばたばた もくもく
にんげん こんがり ざまぁ
とり けもの ばたばた
りす むしゃむしゃ くおお〜
森の中に住む色々な獣達に昨日の事を聞いてまわった。
中には理解出来ていないのか、変な事を言うのもいた。
比較的、話の通じやすい方々に聞いたのだが、やっぱり朱雀大鷲とニンゲン達の戦闘が一番の大事件だった様だ。
聞くところによると、母は山の中腹の広場一帯とたくさんのニンゲン達を焼き払い、ニンゲン達に討たれるも屍をニンゲンに晒すことなく、大きな火柱となって消えたそうである。
その後の山火事は翌朝まで燃え続けたそうな。
母… 短かったけど今まで育ててくれてありがとう。 妹を連れ帰ったらキチンと挨拶に行くから……
その中で《馬車》について”見た”という、カラフルでオシャレな鳥マダム達にお話を聞いている。
同じ樹に集まっているが、みんなそれぞれ派手な体色だ、 さすがオバちゃん… と感心する。(←無関係です。)
これまでの経緯を話すと、オバちゃん達も興味本意なのか色々と喋りだす。
親切なマダムが言うには、
朝早くから赤い大きな鳥がニンゲンと戦っていた事。(←一昨日の母だな。)
昨日たくさんの洞穴から煙が立ち上った事。(←俺は知らない。)
この先の道沿いに進むとニンゲンの街があること、その途中で馬車が派手に事故を起こした事。 (街…… )
馬車か… 雛鳥を捕えるって言うからには何処かへ連れて行くのだと思う。
まずはその事故った馬車を調べにいった方がイイかも。
一羽のマダムがそっと頭を側に寄せる。
おおきい かあさん いない ……へいき?
(………… )
母程では無いが、大きな大人の鳥に撫でられる。
そして、二羽、三羽と側に寄ってくる。
できない たくさん とうぜん
(出来ない事が多いのは当然って事?… )
おおきく なる だいじ
(確かにまだ、雛鳥だけど… )
むりする すぐしぬ
(……… )
『ありがと、 ……でも兄妹の事心配。 』
(((……… )))
『……無理しない程度で頑張る。 皆さんお元気で!』
身体を寄せて励ましてくれるマダム達にお礼を言うと、事故った馬車の確認に、ニンゲンの街の方へと向かうのだった。
行動範囲が広がり、ようやく活躍出来そうな主人公です。
しかし、彼はまだ【弱者】です。
成長を見守って下さい。