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剣士は行く  作者: 彩川 彩菓
1/1

第一話 それ故に少年は聖剣士を目指す。


 エアステア王国は、巨大大陸の東側ほとんどを支配する巨大な王国である。

 雄大な自然と、大地に力強く鎮座する巨城。活気あふれる人々。

 そんな美しい国の最東に位置する街、ソウディア。剣技が盛んな巨大都市である。

 石で作られた美しい街並みは活気にあふれている。街中を走る水路のせせらぎは住民に安らぎを与える。

 こんな美しい街並みも、『聖剣』の加護があるからこそだ。

 太陽の光が降り注ぐ、空は高く、青い。ほんのり冷たい風が吹き抜ける感覚が実に心地いい。

 ほんのり感じる冷たさのにおいをかぎながら、シオンは体を伸ばした。

 冷戦中とは言ったものの、ほとんど隣国との境界線にあるソウディアは平和そのものだ。そんな平和が何年も続いていれば、眠たくもなるという話だ。 街を一望できる丘の上、昼寝をするのには最高の舞台だと、シオンは思った。

 剣の修行をさぼるのもまぁたまには悪くない。何てったって天気がいいのだから。

「またサボり?」

 突如として聞こえてきた声にシオンはぎくりと体を震わせた。体を起こして、背後に視線をやる。木陰の下、見慣れた少女は堂々とそこに立っていた。

 つやのある黒い髪は肩にかかるほどまで伸びている。ロングスカートにシャツ、そして宝石のついたネックレスという比較的おとなしそうな恰好でありながら、表情は実に少年らしい、なんとも活発そうだ。

「別にいいだろ、ミア。僕がどうしてたって、関係ないじゃないか」

「関係はあるでしょ。幼馴染なんだから。それに、こんな場所で寝てたらきれいな白髪が台無しだよ?」

「どうでもいい」

「ふーん、そういう事言っちゃう? へー、そっちがそういう態度ならシオリおねえさんに……」

「おい! それはまずい!」

 ニヤニヤとしたもの言いに、シオンは体を起こしてそれを静止した。ミアは想像通りのニヤけ面をこちらに向けている。なんとも腹が立つことだ。そんな感情を抑え込んだシオンは、ミアにジッと抗議の視線を送った。

「まったく。あの聖剣士様の弟が訓練もサボってぐーたらと。周りがどう思うか~とか考えないの?」

「姉ちゃんが聖剣士だろうが何だろうが関係ないだろ? 大体、こんな平和な時期になに子供の訓練とか言いだしてるんだか……」

 シオンは今年でまだ十二を迎えたばかりである。

 だというのに国はやれ来るべき時に備える。だとか、やれ子供のうちから優秀な兵士をだとか。

「ホントに馬鹿らしいな、付き合ってらんねぇ」

「もう、シオンは成績はいいのにそういう事言っちゃうでしょ。そんなんだからみんなから……」

「あーあー! 全部言わなくてもわかってるって」

 ミアの言葉を途中で遮ると、シオンは再び草のベッドに体を預けた。

「シオン余計なお世話かもしれないけどさ、やっぱり真面目に訓練とかに参加したら……」

「やる気が起きない」

「でもさ、好成績を残したら王都の最高位騎士団、ゴールデンドレイクへの入団資格も……」

「それも興味がねぇな」

 そう、シオンに言わせればそれもどうでもいいことだ。王国騎士団への所属も、聖剣も、やりたい人間が勝手にやればいい。なぜならば自分は剣の腕が周りに比べてほんの少し強い程度の一般人でしかないからだ。

 特別な人の弟、そんなポジションが自分、しかしながら、別にそれで困ってはいない。それでいいじゃないか、シオンはそう思っていた。無理に主役に躍り出る必要などないのだ。なぜなら空はこんなにも青いのだから。

「何それ……私、頑張ってるシオン、す……、嫌いじゃないのにな……」

「え、それって……」

「別に! はぁ! 私、用事あるからもう行くね!」

「あぁ、ちょっと!」

 勢いよく駆け出したミアを止めることもできず、シオンは情けない声をやっと絞り出した。

「……はぁ、なんかなぁ」

 草の上に体を投げ出したまま高い空を見上げる。どこまでも青く、広い空は、争いの気配を全くと言って感じない。なんとも平和だ。それでいいはずなのに。妙なざわめきが胸中から消えない。

「なんなんだろうなぁ」

 自分でももちろんわかっている、とっかかりはミアの後ろ姿だ、そして最後に言いかけた言葉。

別に特別になどなれなくともいいというのに。別にある程度普通に生きられればそれでいいのに。

「はぁ、僕の普通にはミアが必要だよな」

 ゆっくりと体を起こす。訓練も、最高の騎士団へ所属する名誉も、どうでもよくても、譲れない部分くらいはある。

 シオンは体を伸ばすと、木に立てかけておいた訓練用の剣を腰に差して、小高い丘を駆け下りた。


 風がうなっている。磨かれた石が積み重なって出来たこの街は知らぬものが歩けば迷宮のように感じるであろう。

 これは昔から剣士の多かったこの街で切りあいが起きないようにこんなつくりになっているらしい。聖剣士にはこんなつくりなど意味がないのに……。と、考えながらシオンは慣れ親しんだ通路を進む。

「ん?」

 そして、通路の先に影を見て、シオンは足を止めた。大柄で、顔を隠したいかにも不審な男。腰に差しているのはサーベルか、ともかくここらでは見ないような形をした剣だった。

 心の中に小さなひび割れのように生じた違和感は、次の光景を見た瞬間、別の感情に変った。

 男の後ろを歩くのは、両手を縛られた……

「ミア!!!」

 怒りの混じった声を聴き、縛られ、猿ぐつわをかまされたままのミアが目を見開いた。

 それを認識するよりも先に、シオンは駆け出す。狭い路地を吹き抜ける風のように走り抜け、男に向かって飛びかかる。

「!?」

 シオンの小さいながら鋭い拳が男を打ち抜く。はずであった。

 しかしながら、シオンは、男の行動を視認して目を見開いた。腰に携えられたサーベルが引きぬかれる、この狭い通路の中で。

「ッ」

 振るわれたサーベルに、真上から訓練用の剣をたたきつけられたのは、偶然でしかあるまい。

 軽い火花が飛び散って、シオンは距離を取った。

「相当の手練れ。みてぇだな。ただのガキではあるめぇ」

 大柄の男は言葉を区切るような独特な口調をしていた。黒装束に口元を隠す布、そして、サーベルを握る右手には『月とオオカミをかたどったタトゥー』

「そういうお前もな。そのシンボル、月狼盗賊団<げつろうとうぞくだん>か」

「ご明察。中々敵をよく見ている」

 布の下で男が笑った気がした。余裕ある態度に内心怒りを覚えつつ、シオンは刃の部分がつぶされた剣を握りなおした。

「通った後には草の一本すら残らない盗賊団。そんな犯罪者がこの街、いや。ミアに何の用だ?」

「聞かせる必要は。あるまいて。おい! お前ら! そいつはボスの所に。俺はこいつの相手をするぜ」

「へい!」「了解ですクリームの兄貴!」

 男の後ろから声が聞こえる、少なくとも二人、まだこの場にいるらしい。

「行かせてたまるか!」

 シオンは腰を低くして飛んだ。

「狭い路地でここまでの太刀筋。じつに見事。だが」

「!」

「俺には傷一つつけられめぇ。お前ごときは俺の敵にすらなれんのさ!」

 サーベルの切っ先に阻まれて、全体重を乗せた一太刀がこれ以上進まない。いや、それどころか全衝撃が跳ね返ってくるような。まるで壁を殴ったような感覚。

(強い……!)

 はじかれるように飛びのいて、シオンはその場に膝をついた。

「!」

 腹部に重たい衝撃が走る、空気の塊を吐き出しながら、壁にぶつかってようやくけられたことを自覚した。立った一発の蹴り、それだけでわかる、この男とシオンの間にある、絶対的なまでの差が。

「ガキがよ。チョット周りより強い程度じゃあこんなものさ」

 嘲笑とたたきつけられたような衝撃。背中を踏みつけられて、シオンは何度も咳き込む。強い、届かない。勝てない。

「ぅ……ぐぅ……」

 どれ程力を入れようと、立てない、これが自分の限界、悔しい、白くなっていく視界とほほを伝う熱いもの。体から空気を搾り取られる感覚に、シオンは喘ぐ。

「ザコが。道端の小石にも及ばん」

 重たい感覚が、腹部に走る。シオンの意識はそのまま、虚空に引きずられて落ちていった。


「ッ……」

 目を開けてシオンは、最初に腹部に走る痛みを自覚した。

 ズキズキと、うずくような痛みは収まらない。

(あぁ、そうだ)

 思い出す。何があったのかを。そうだ。

「ミア……ッ!!」

 痛みを押し殺してシオンは何とか体を起こす。ミアは、ミアは何処か……? 最悪の結末と今までの思い出が交互に現れてシオンは駆け出した。

「ミア! ミアァ!」

 叫んだところで返事はない、すっかりオレンジ色に染まりつつある街並みが、シオンの焦燥感を煽る。

「! そうだ! あそこなら!」

 一人呟いて走り出す。目指す場所は昼寝にいつも使う丘、あそこならば街が一望できる。

 あそこなら……。

「ミア!」

 朱色に染まった空のもと、ほんのり赤ののった丘を、シオンは駆け上がった。

「シオン!?」

 幻覚かと思った、探し人、ミアが変わらない姿でそこに立っている。瞳を潤ませて、朝と変わらぬ姿で。飛びついて、抱きしめる、温かい、体温が伝わってくる。あぁ、幻覚じゃないんだ。心の底から湧いてきた安堵が、シオンの涙腺を緩める。

「ミア……ッごめん……ッ、僕、僕……!」

「シオン……! シオン……! 良かった……生きてた……!」

 人目はない、二人は涙を流しながら抱き合って、互いの無事を喜ぶ……。互いの体温をたっぷりと、数分間感じてから、二人はどちらから、というわけでもなく離れた。夕日の中、二人はしばし互いを見つめあう。

「ミア……。ごめん、僕、何もできなかった、僕、弱くって……、僕……」

「シオン。違う、私もそう……。私だって、何もできずに……、私、シオンからもらった大切なネックレスも、取られちゃった……」

 そう言われて、初めてシオンはミアがいつも付けていた物がなくなっていることを認識した。

 確か姉にねだって遠くからとってきてもらった宝石をプレゼントしたものだったはずだ。自分が情けない。シオンは自虐的な笑みを浮かべてミアの手を握った。

「ミア……。僕、決めたよ。僕、聖剣士になる。聖剣に選ばれるくらい強くって、ミアのことも守れるくらい、強くなるよ」

「シオン……。うん、私も、決めた。私も、シオンとおんなじくらい強くなる。女の子だからって、みんなは言うけど、やっぱり私はシオンの隣に立っていたい」

「ミア……」

「シオン……」

 手をつないで、互いの体温を伝え合う、温かい、心地いい。二人の顔は真っ赤であった。二人の顔を夕日が照らす。太陽の熱が、二人に上った別の温度をかき消した。

 シオンは思う。二人ならば、何が起きても立ち向かえると、必ずミアを守って見せようと、必ず、強くなろうと。

 夕日の中で決意した。そう、これは、一人の少年が、強くなっていく物語。










 遠くで重たい音が響いて、世界が揺れた。

「「ッ!!!」」

 悲鳴を上げる余裕もなく二人は互いの手を強く握った。長く続いた振動が、次第に小さくなっていく。

「ぅ、な、何が……大丈夫……? ミア……?」

 固くつないだ手の先に、シオンは目をやった。

 その先には、誰もいなかった。

 白く細い手は、変わらずにシオンと絡み合っている、しかし、その先には誰もいない。手の先には、誰もいない。

「ぇ……」

 漏れ出した、熱い液体と、ようやく絞り出した声で世界が鮮明になっていく。

「ミ……ァ……?」

 嫌だ、見たくない。

 それでも視線は、地面を辿る真っ赤な後を追い掛ける。

 へし折れた木が転がっている、吹き飛んできた岩が、草をえぐってそこにある。真っ赤な血潮が張り付くそこにあるのは、明確な、命だったものの、残り香……。

「あぁぁ……」

 絡みつく手が、固まって来ていて離れない、なのに明確に冷たくなっていく、そこに意識はない、反射的な動きに過ぎない。

「ウアァァァッァァァァァアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!」

 締め付けるような両手を振り払って、シオンはそれを地面にたたきつけた。

「何が!? なにが!!???」

 巨大な岩は、数メートル以上はあるだろう。なぜ、こんなものがどこから飛んできた? なぜ、こんなことに。なぜ、何故、ナゼ。

 疑問が渦巻き纏まらない、土を何度掘り返して岩をどけようとしても子供一人の力ではどうしようもない。

 オオォォォォォォォォォォ……

 遠くから聞こえた方向に、シオンは肩を震わせた。沈む夕日の、手前側、アカネ空のその向こう。巨大な何かが……いる。

 遠くにいるはずなのに、ハッキリと姿が見える……。

 山のように巨大な体。大木のように逞しい首、すべての光を遮る程に巨大な翼。黒いうろこに包まれた体、その姿、間違いない、伝承に語られる、破壊と滅亡をもたらす災禍の化身。

「ドラゴン……」

 その声が、脳内で繰り返されたものか、それとも口に出したものか、解らなかった。

 そして気が付く、街から登る煙、破壊の痕跡、点と点をつないで、打ち震える。これを、あのドラゴンが……?


 オオォォォォォォォォォォ……


 遠くでドラゴンが口を開いた。遠くから聞こえる鳴き声が、シオンの体をしびれさせる、吹き飛ばされそうな圧力、それでもその場に立っていたシオンは見た。

 光の中にいるドラゴンの口に、更に深い光が収縮していく。純白の閃光が、引き絞られて、放たれた。

「!!!!」

 凄まじい破滅の一閃が、街を薙ぎ払い、丘を吹き飛ばす。

 凄まじい崩落音を聞いたのは街中の水路に運よく叩き落されてからであった。

「ミアァァァァァァッ!!」

 水路が波を生んで暴れ狂う、暴力のような水面に顔を出して、シオンは叫ぶ。

 美しく積まれた石は崩れ、道はひび割れている、あたりで聞こえる悲鳴が、これは夢ではないと自覚させる。


 オオォォォォォォォォォォ……!


 先ほどよりも巨大な音が響く。

 「来る」そう身構えた時にはもう遅い。安定した街が轟音とともにゆるがされて、シオンは水路から弾き飛ばされた。

「なんだよ……! どうしてドラゴンがいるんだよ! 有り得ない! こんな事……!」

 重たくなった体を引きずり、シオンは歩く、確かこの先には大広間と町の出入り口が、慌ただしいあわただしい声、引っ張られるようにシオンはその光景を見た。

 阿鼻叫喚の地獄絵図。逃げまどい、叫ぶ人々、剣士たちがおびえ逃げ出す、それほどまでにドラゴンは雄大で、恐ろしい、それを倒せるものたちがいるとすれば……。

「ゴールデンドレイクの飛空船だ!」

 誰かが叫んで、シオンも空を見た。空中を悠々と進む船が一つ。そしてその船が掲げるのは金色の旗。龍と剣のレリーフを掲げるのは、王国最強の騎士団。

 ゴールデンドレイクドレイクがいれば安心だ、誰が言い始めるでもなく皆が口々に叫ぶ。

「ゴールデンドレイク……ってことは姉ちゃんも」

 シオンの姉、シオリもあの船に乗っているはずだ。

 空を行く船が、突如として空中で静止した。そこから、何かが飛び出した。

 その何かが、誰かであると認識した瞬間には、すべてが終わった後だった。

 悲鳴と血しぶき、そして風圧、街の人々だったものが、あたり一面に広がっていく。

「うわぁぁぁぁ!!!」

「バカな!? 何でゴールデンドレイクが俺たちを!?」

「いやぁぁぁ!!! 誰か! 誰か助けて……!」

「一人たりとも逃がすな。シオン・ソーラ以外は殺せ」

「了解っス」

 惨劇の広場に立っていたのは、二人の人物、一人は黄金の鎧をまとった人物。顔はうかがえない。もう一人は灰髪人物、性別は分かりにくい。その二人に、シオンは見覚えがあった。

「ゴールデンドレイクの隊長と副隊長……? ってことは、これは……」

 王国直々の……。

「ぼ、ぼくを……狙ってるって……」

 確かに聞いた。シオンは、ゆっくりと後ずさって。

「うわっ!」

 血に足を取られて転んだ。

 顔を上げると、この惨劇を引き起こした二人と目が会った。恐ろしく冷徹な瞳。体が凍ってしまったという錯覚を覚える程に恐ろしい……。

「みーつけた!」

 突風のような素早さで、初めに動いたのは性別不明の人物だった。その人物が掲げるのは恐ろしく細い細剣。

「!!!」

 凄まじい気迫に、シオンは一瞬死を覚悟した。しかし、それはやってこない。恐る恐る目を開ければ、そこには、白髪の少女が立っていた。

「姉ちゃん!」

「シオリ……!」

 シオンの声と、相手の怒りに満ちたような声が重なった。シオンの体が持ち上がり。どこかにおろされる。

「はぁ! はぁ!」

 過呼吸気味になりながら、あたりを見回す、暗い路地のようだ。まだ、被害の及んでいない街中だと、シオンはすぐに悟った。

「シオン! 落ち着いて!」

「……! 姉ちゃん!? 何が!! 何が起きてるんだよ!」

「……ごめん、今は説明してる時間はないの、シオンいい? 絶対に死んじゃダメだよ?」

「いきなり何言ってんだよ! 姉ちゃん!」

 叫ぶ。シオンに、シオリはそっと何かを差し出した。さやに入れられた一本の剣。美しく装飾の施された剣をシオンは握る。

「その聖剣は、この世界の希望。この絶望的な世界を、あなたなら覆せる……!」

「待てよ! ちゃんと説明してくれよ! 姉ちゃん!」

 遠くで、爆音が響いた、それがドラゴンのなしたものか、それとも件の二人によるものか、シオンにはもうわからない。剣を抱きしめるように抱きしめて、姉に説明を求める。

「この国は……」

 言葉を遮るような轟音が響き渡った。先ほどよりも大きい、すなわち近くで轟く音。本格的に終わりが近いらしい、焦げるにおいとむせ返りそうな血の匂い。

「ごめんなさい、もう時間がないみたい……」

「ねえ……」

 言葉はさえぎられる。シオリは、優しくシオンを抱きしめた。温かい。

「愛してるわ」

 最後の言葉シオリはシオンから離れると、銀色の剣を地面に突き立てた。かたどられた鳥のレリーフが半透明な実態を持ってシオンをふわっと持ち上げる。

「姉ちゃん!!」

 姉が、街が、どんどん遠ざかっていく、煙が上がる街が小さくなっていく、崩落した日常は遠く、普通が遠ざかっていく。

「!」

 大陸のように巨大なドラゴンと、目が合った。気がした。

聖剣の精霊である剣はシオンを遠くに運んでいく、国境を越えて、何処かここではない場所へ。

夕日は沈み切り、空には三日月と星が輝いていた。

普通はある日、とつぜんに崩落した。巨大なドラゴンと、救いであるはずの王国騎士団。それらはすべて敵だ。

姉の顔、ミアの顔、見慣れた街。もうそこには何もない。それ故に。

 暗闇の中で決意した。そう、これは、一人の少年が、復讐のために強くなっていく物語。







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