絢の世界
近未来、家庭用ロボットが普及していた。そのロボットは、ほぼ人間と同じ事ができた。言葉を話し、字を書き、歌を歌い、踊りを踊る。小説家はロボットに作品を書かせ、作曲家は曲をロボットに歌わせた。創作活動をする人たちのために専用のロボットの開発は進み、必要とする機能は次々と足された。新しい物を好む者はいつの時代にだって、一定数、存在する。要らなくなったロボットは簡単な作業をするものや介護用にリサイクルされた。
創作活動をする者の中には、ロボットとひたすらに向き合い続けなければいけない状態に耐えきれず、壊れ、精神病棟へ運ばれる者もいた。その主な世話を担当するのも介護用とはいえ、ロボットだった。
※※
世界は僕が萌音と過ごしていた間に変わってしまった。今までの四季が巡るような、太陽と月が交互に昇るような、煩わしくも美しかった世界はもうどこにもない。まるで、始めからこうだったみたいだ。
僕はこんなところで何をしようと……?
あぁ、そうだ。萌音はそばに居てくれてる。それでいい。僕には、萌音さえ居ればいい。
僕は、確か、曲を作ろうとしてた……? どうすればいいんだっけ。
ねぇ、萌音。僕は何も分からないから、歌を歌って。いつも歌ってた、あの綺麗な歌。
萌音の歌う歌は綺麗だな。もうこの世界にはないけれど、全てを照らす太陽みたいだ。君は、僕の、希望だ。
萌音、たまには外に出ようか。うん、ベランダいいから。あれ? この街は、こんなに暗かったっけ。夜だから? う〜ん、もうちょっと明るかったはずなんだけど……。まあいいや。街の光なんて無くても、僕には萌音がいる。
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ん? ああ、どうしたの、萌音? 玄関に立って。どこかに行ってたの? どうしたの、萌音? なんで涙なんか流して……。
あれ? 「萌音」って誰だっけ。
ああ、そっか。「萌音」は家庭用ロボットだよね。じゃあ、なんで君は泣いているの? 『君は僕のロボットなのに』
萌音、どうやら僕は寝てたみたい。うん、わかってる。
ねぇ萌音、君が泣く夢だったよ。夢の中の君はなんで泣いていたのかな。現実の君に聞いてもわからないよね。
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ねぇ、萌音。あれ? ……萌音? ……萌音! どこに行ったの、萌音?
萌音!君がいないと僕は……。
ねぇ、萌音、どこにいっちゃったの……。萌音がいないと生きられないよ……。
萌音……そばにいて。いつものあの歌を歌ってよ……。
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