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百年に一度の花

作者: 千葉しげる

世の中、うまい話などないということ。

昔、ある山里に 一人の男の猟師がいた。獣を撃っては、町へ運び金に変えたり、その皮を売ったりして生活していた。

ある日、男がいつものように山に入ると、一人の山伏が倒れていた。

どうやら足をくじき、身動きができずに行き倒れのようになっているようだった。見かねた男は、助けてやり、家へ連れ帰り看病してやった

山伏は、七日間程で傷も癒え、また旅立つことができるようになった

別れの朝、山伏はお礼として祈祷をしてくれた。そして祈祷が終わるとこんな話をして去っていった。

なんでも、山伏仲間では知られた話であるが、春から秋にかけての満月の夜に、山で芳香がする時は、獣たちはその匂いのする方角へ一斉に群がり、その芳香の元となる大きな花のまわりに倒れこみ、皆朝まで寝てしまうとのことだった。その花は、毎年咲くような誰でも知っている花ではなく、まさに百年に一度しか咲かぬような大きな立派な花であるとのことだった。 

その話を男は、山で働くものでありながら全く知らなかった。おそらく山伏仲間だけが知る秘密であったのかもしれない。

人助けもするようなこの男であったが、これはうまい儲け話ではないかとすぐに思った。

花はいつ咲くかは分からない。だが、獣たちが花を中心に輪になって群がるような場所は特定出来る。あとは芳香のする満月の晩を待てば良い。

花の周りに眠り込んでいる獣たちを次々と仕留め、翌朝になってから山から引きずり出せば大儲けができる。と、この男は考えた。まさに濡れ手で粟である。

山伏と別れてから数ヶ月が過ぎ、山伏から聞いた話など忘れかけていた頃、果たして山に芳香のする満月の夜がやってきた。男は、はた、とあの話を思い出し、女房の止めるのも聞かず火縄銃と弾をたくさん持ち、月の明かりを頼りに目をつけていた場所へと向かった。

山に入り、だんだんと匂いが強くなってくるのが分かると。これはたまらぬ、急がねば。と、男は足を速めた。

獣たちが匂いに誘われて、群れをなして一方向に走って行く、男はその後を追った。木のない開けた場所は、やはり男が目をつけていた場所だった。

見れば人間の背丈ほどもあろうかという大きな金色の花が、霧のような匂いの元となるものを吹き続けていた。

その花の周りには無数の獣たちが倒れ込み、みな寝っているようだった。

男は獣たちを仕留める前に、鼻に栓をして、口からも芳香を吸い込まぬように手ぬぐいを口に当て、後ろで縛った。

そして、次に火縄銃に弾を詰め込み、息を殺して獣たちに銃口を向けた。

その瞬間、一本だった巨大な花の両脇に新しい花が出現して、すごい勢いで芳香を放し始めた。そのため辺りは白い霧で覆われたかのようになり、何も見えなくなってしまった。

男は。しまった。と、思った時はすでに遅く、めまいが始まっておりそのまま倒れこんでしまった。

時が過ぎ、男が目を覚ましたのは夜であった。男が見たものは夢だったのか、それとも現実だったのか、立ち上がって周囲を見回しても花が咲いていた場所には何の跡もなく、獣たちも一匹すらいなかった。

空にはこうこうと月が照っていた。ただし、満月ではなかった。月は幾分かけていた。男は数日間そこで眠り込んでいたのだと後で分かった。当然火縄銃の火種も消えていた。

これは現実であったのだと男は思った。自分が獣たちを撃とうとした時、まるでそうはさせまいと現れた二本の花、男は大きな過ちをしないで済んだと悟った。

男は山を降りて家に戻った。女房は泣いて喜び男を出迎えた。女房の話では五日間も家を留守にしていたことがわかり、よく飲まず食わずで死ななかったものだと、つくづく山の神様に感謝した。

男は反省した。欲に目がくらみ、魔が差したのかと思ったが、もう二度とこのようなことはするまいぞと誓った。

人間、欲をかいてはいけないということ。

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