「楽園へようこそ!」
村から少し歩いた所に大きなドングリの木がある。
今は実のない時期なので特に用はないのだが、ハンミーヤはこの辺りが好きでよくお供のフシエを連れてここへ遊びに来る。
花を摘んだり、イチゴを探したり、することは色々ある。
ハンミーヤは村の首領の娘である。16年間産まれ育った村以外に人が住む場所を見たことがない。フシエは数年前に村へやってきた。
ハンミーヤは村が好きだ。
以前、父がそろそろ娘も結婚を考えるべきだと言って男を連れてきたことがあった。
逞しい顔と体を持った、好ましい男だった。良いかもしれない、と彼女自身も思った。
だがしばらく会話してみて、この男は自分を「外」へ連れていきたがっていると感じた。都会へ。見たことのない世界へ。
それに気付いたハンミーヤはその男を捨ててしまった。
契りを交わす前に男の本性を見破った娘を、父は大いに褒めた。
ここは素晴らしい村なのだ。
真面目に働けばちゃんと家と食べ物が与えられる。
どんな女もしっかり働くなら夫になる男があてがわれる。
それは、目の前にいる醜い女も例外ではないだろう。
ハンミーヤはさほど多くの人間を見てきたわけではないが、それでもこれは不細工だとわかる顔だ。
飛び出た巨大な鼻の下で、そのソエという女は歯を剥き出して卑屈な笑みを浮かべている。行く当てがないので村に迎え入れてもらえるなら何でもすると言う。
もう一人のミンフという長身の女も、知恵が足りないぶん素直によく夫の言うことを聞くだろう。
嬉しい収穫にハンミーヤの足取りも軽くなる。フシエは黙ってその後に付き添い、辺りを見回す新入り二人がそれに続いた。
石垣に囲まれた村の入り口にいる見張りの男二人が、居住まいを正して娘たちを迎え入れる。
ハンミーヤは誇らしい顔をして言った。
「さあ、今日からここで働くのよ!」