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ルベー村

2人は宿兼住居である建物の2階の、こざっぱりした部屋に通された。

普段のこの部屋の主である、マホスの3番目の息子が、荷物入れを抱えて慌ただしく別の部屋へと移っていった。

寝台の藁布団に客人用の上質な敷布を掛ければ、そこはもうソエとミンフの楽園である。

こんなとき、ミンフは寝台に腰かけて、その腿にソエが頭を乗せて寝転がることが多い。ミンフの身長が長すぎるので、寝れば大体はみ出してしまうからだ。

わかしはち(わたしたち)りたちなきと(みたいな人)いゆんだけぇ(いるんだねぇ)おおしそいねぇ(面白いねぇ)。」

ミンフが安心したように言った。自分たちと似た「お嬢様」が捜索されているので、自分たちは安全だと考えたのだろう。

ミンフの指が自分の髪で遊んでいるのを感じながら、ソエはケヤーシの話していたことの意味を考えた。

人探しをしている洒落た髪型の男というのは、おそらくヒシシウのことだろう。ソエの故郷の領主の手下だ。

汚れ仕事仲間として数回話したことはあるが、初っ端から見下されていたという印象と、やはり髪型を気にしていることがよく感じられる男だった。

そいつが探しているのはもちろんソエとミンフ――本名ニネリイとルーエラ――であり、お嬢様などではなく犯罪者である。



ニネリイがルーエラに触れたことで、劇団の主は早速「有効活用」の道を切り開くことに全神経を集中させたのだった。

様々な試行の後、ニネリイは普段から怪力であるだけでなく魔法が一切効かない体質であること、ルーエラは皮膚だけでなく抜けた髪や体液など、本体から離れた一部分だけでも生物や植物を殺す能力があることを確信した。

そんな能力など使い道は一つしかないし、この手の人間は無理矢理使い道を「作りたくなる」。

劇団の主は、当時その地の権力者の三番手辺りにいた男に接触した。その嗅覚は明敏に同類の臭いを嗅ぎ分けたのであろう。

またその頃、ニネリイの母親はちょうど病の床に伏せっており、生活費の殆どは少女が劇団の雑用で得られる僅かな賃金で賄っていた。父親はとうに亡くなっていた。

その値段を知れば、母は決して飲みはしないとわかる薬のために、ニネリイは魔法で封印された扉を破り、隠された財産を奪い、世間ではまだ未知の毒で権力者の敵を葬ってきた。

やがて男は領主の座につき、劇団の主も協力者かつ庇護者として華やかな生活に溺れていった。

その下で、ニネリイは悪事を重ねた。そんな生活が何年も続いていてもなお、彼女はまだ少女の年齢だった。

冬が終わって春になった頃。母親がもう眼を開くこともなくなった日にようやく逃げ出すことを思い付いた。

ミンフが安心しているところに水を差すようで悪いが、やはり事実を正しく認識させておくべきだろう。

ソエは、できるだけわかりやすいように説明を始めた。



ルベー村に来て数日が経った。

この村は思いのほか居心地が良い。こんな辺鄙な土地ながら宿の食事はとても美味しく、人々も気さくだ。

そして、ケヤーシが並外れてお喋り好きなのは村人の共通認識である。

すぐに村を発とうと思っていたのだが、日に日に気温が下がっており、雪が降りそうなので春まで逗留したほうがいい、と村人たちは言う。

ソエの故郷では降っても、ひと冬にくるぶしまで埋まるか埋まらないかという所だった。

それがこの辺では腰まで積もるのだという。

「でも、踏んで歩けばいいんじゃねぇの?」

疑問を口にしたソエに、周りから一斉に批判が飛んでくる。「無理無理!」「埋まっちゃうんだよぉ!」「油断しちゃだめだからね!」

大根の収穫を手伝いながら、ソエは情報を収集していた。

短い期間でソエの力持ちっぷりは知れ渡り、村人が申し訳なく思う暇も与えぬほど、ソエは水汲みなど力仕事に精を出した。

手間賃の為でももちろんあるが、人の役に立っているとはっきり判るのが嬉しい。

二人を村に引き留めておいて、裏ではヒシシウに連絡しているのではないか、という疑念は心にある。

最初にケヤーシの言っていた「領主が関わるなと宣言した」という言葉もまた謎のままだ。

余所者でお尋ね者の自分は、不信感を与えないようにどれほど質問しても良いものか。

ケヤーシといれば、訊かなくても一から十まで全部話してくれそうだが、あいにくそちらの人手(聞き手)にはミンフが赴いていた。

「おおーい!ソエー!大変だぞー!」

ミンフがいる果樹畑の方から走ってきた男が、大声でソエを呼ばわった。



現場では、想像よりも広範囲に枯れ枝が広がっていた。

ミンフが触れたのは樹木一本だが、支柱に支えられた枝で、四方に大きく伸びる立派な果物の樹だった。

緑の葉が空を覆い、果物が重たげに垂れ下がっている畑の一画が、網の間から空を覗くように明るくなっていた。

背が高いので、手袋をして果物の世話をするのに適していると思われたのだが、うっかり葉っぱか何かが剥き出しの顔に触れてしまったようだ。樹は瞬く間に萎んでしまったことだろう。

途方に暮れていたミンフは、駆け付けたソエの背後に貼り付いた。

ソエは盗賊から奪った金貨や宝石の中から、弁償に適した物を頭の中で計算していた。

予め、ミンフの「体質」を説明しておいて、気を付けるならとこの仕事をもらった。背が高いから収穫するのにはこれ以上もないほど適任だろうと、期待を一身に背負っていた。

どれほどの損失なのだろうか。冬が近いからやはりすぐ使える金貨が良いだろうが、何枚くらい必要か……

「おう、ソエ来たか。いま領主様に報告したらな、まぁしょうがないから気をつけろって言われたぞ」

普通に歩いてきたケヤーシが言った。

「は?」

「で、ミンフな、悪いけどこっちの手伝いじゃなくて干乾し造りの方へ行ってくれるか?」

やい(はい)!」

「この樹なぁ、まぁおいおい引っこ抜くか。この辺は十年前に拡張してあっちの端っこから順番に……」

「ちょっと!ちょっと待った。弁償の話はどうなんだ?」

「あん?」

今度はケヤーシが目を丸くする番だった。

「まぁ、あの人が何も言わなかったから気にするような損じゃねぇんだろ。『中央』で学問をやってらっしゃってこっちに帰って来た人でな、頭の出来が俺らとは違うからちゃんと考えておられるよ」

そして領主の経歴や人となりの話が始まるのだが、ソエの中には不安がはっきり形を成していった。

あまりにも待遇が良すぎる。

ソエは再びケヤーシの話を遮った。

「あのさ、領主様に会わせてもらうことってできる、できますか?弁償はなくても謝るくらいしないといけないよな?」

「まだ会ったことなかったか?じゃあちょっと訊いてみるか」

ケヤーシはまた領主の館へと赴き、数刻の後に何でもない顔をして畑に戻ったソエに報告しに来た。

「二人で明日の夕飯食いに来いっておっしゃってたから、誰かに仕事を言い付けられたら断るんだぞ。特に干乾し場の……」

そしてまたお喋りが始まり、ケヤーシは奥さんにどやされて追い払われていった。












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