旅で生じる問題
股の間から例のものが溢れて流れ落ちた。
その感触に、ソエはため息を吐いた。
数日前に下腹に痛みが走ったので、そろそろ来るとは予想していたアレが、来た。
ソエとミンフは現在、山の中の古い街道を歩いている。それは昔あった集落から繋がっていたが、現在も使用するのは獣くらいのものである。
ソエは木立の中を見回し、立っている中では一番太そうな木の根元に身を寄せた。
誰も来るはずはないのだが、心情としては、なるべく隠れていたい。
背嚢から、この為のボロ布を取り出す。何度も汚しては洗ってを繰り返しているので、可哀想な程くたびれているが、まだまだ頑張れるとソエは信じている。
布で太ももを伝った経血を拭い、股に押し付ける。そして長い布で腹から股の下を通して尻を覆い、腰紐で長い布が落ちないように縛りつけた。
背を向けて側に座っていたミンフは、心持ち得意げな顔をしている。
ソエが真っ赤なものを流していても、これだけは慌てることではない、と覚えている自分が誇らしいのだ。
ミンフには月経がない。
2人が出会って5年ほど経った。その間にソエは成長し、身体は女の特徴を現してきた。
対して、初対面のときに20代くらいかと思われたミンフに変化はない。
むしろ幼さが増していくように思えるのは、ソエの見え方が変化しているからだろうか。
身繕いを終えて、2人はまた道とも言えないような道を歩き出す。
ソエはこのことで腹が痛くならないので、旅には有利である。ミンフもなぜか「疲れ」という感覚を覚えることがないので、頑丈な2人はずっと歩き続けられる。
ずっと歩いて、野宿する夜も多い。
夜中は交代で火の番をして、盗賊から奪った金品で買った食料を少しずつ齧り、木の実を見つければつまんで腹を満たす。
穏やかに流れる時間を、半ば旅の目的を忘れるほどに満喫してしまっているが、今、秋が来て冬が訪れようとしている。
2人が故郷を逃げ出したのは、前の冬がそろそろ終わろうという頃だった。
外で迎える初めての冬は、どれほど凍えるのだろうか。どこかの集落に身を寄せられたら良いのかも知れないが、一つ所に留まるのは危険な気がする。
歩きながら、ソエは違和感を感じ始めた。だがここはもう進むしかない。
やがて山の端の切り立った場所に出て、やはりその違和感は正しかったと確認した。
眼下には広い谷があり、建物の並んだ集落が見える。収穫期の畑には働く人影がそこここにあり、建物からは竈の煙があがっていた。
ソエの持っている地図には、この谷も集落も載っていない。元々それほど広範囲が載っているわけでも、詳細なものでもないが。
まず出発したのがあの町で、この太い道を使わないようにこっちに来て、こっちから見えるのがあの山で…………
地図の下部をよく見ると、紙の端で途切れている街道に「至る:ヂンス谷 ルベー村」と書いてあるので、これがあそこなのかも知れない。
南にある「中央」へ、直線で行っては危ないだろうと思って、地図を見ながら右側へ、南東へと迂回しながら向かっているつもりが、結局直進していたことになる。
とは言え、「中央」はまだ影も形も見えない。
ソエは唸りながら両手の平で己の鼻――筒のように飛び出ている鼻――を挟んで、空を仰いだ。
「悪い、道に迷った」
ミンフも同じように自分の顔を挟み、目を見開いてソエに共感の意を示した。
「まっ、しゃーねーな!あの村で宿取ろうか」
「んっ!」
「久しぶりに魚食いたいなー、あそこにあるかな」
「はるかなー、おさたなあるかなー!」
谷へと降りる経路を探して、2人はまた元気に歩き出した。




