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ピタゴラ(デ)スイッチ

2022年7月24日、スペインで熱波にソエ(Zoe)という名前が付けられたそうです。英:ゾーイ

架空世界の名前のつもりだったのに割とポピュラーらしい名前でした。

「とんでもない熱波」と同じ名前で嬉しいです。


両目の端から端に映るもの全て、全員の状態を常に記憶し、次の行動を予測する。

振り上げられた剣の落ちる位置をギリギリまで引き付けて自分は横に飛べば、背後から迫ってきた者の胸から腹が一直線に切り裂かれる。その時にはソエは、飛んだ先に居た男の手から棍棒をもぎ取り、辺りの者を薙ぎ倒さんと台風のように回転していた。

手足はどこまでも伸び、酔っ払っているかのように楽しい。

どうしてこんなことができるのか、ソエ自身にも全く分からない。

今まで自分が手をかけたのは、最大で油断しきった盗賊の6人組。あとは汚い金を持っていそうな汚い男。()()()()()()()侵入した中で遭遇した数人の戦闘員たち。ソエたちを追跡する者。

戦闘の訓練や修行など、一切したことはない。

ミンフに出会うまで、魔法を無効化する能力があると自覚する機会がなかったのだから、これも同じことなのかも知れない。




また屋根の上から矢が飛んできた。棍棒を投げると一直線に飛んで、射手の顔面に吸い込まれるように直撃した。

そのとき、ソエは目にしたものによって膝を崩しかけたが、戦闘自体には何の影響もなかった。

ミンフだ。

ソエが今いる場所より遠く離れた小屋の陰から、フシエに先導されてミンフが現れ、屋敷の方へ、おそらく中へと走って行ったのである。

―――――あの馬鹿!

馬鹿、というのは動くなという指示を破りやがって!という意味だ。

だが、こうなるのも致し方あるまい。

ミンフの毒は無敵だが、当の本人は臆病で優しいので、襲ってくる相手に反撃できないのだ。そして長柄の武器など持ち出されたときはどうしようもない。

そこでどこかに潜ませることにしたが、小屋の中では逃げ場がない。夜なので屋根の上、それに身体が細長いので横木の振りをして、自分が離れた場所で暴れれば見つからないだろうというのがソエの目論見だった。

そう言えば寝る前、ミンフとの会話のなかで「フシエは信用できる」というようなことを言った気がする。

―――――相変わらず、盗賊たちは執拗にソエに襲いかかってくる。ソエは攻撃の手数は多いのだが、効率的に相手を無力化するための知識が薄いので、怪我を圧して立ち上がって来られる者が多い。

踊るように棍棒を振り回して、考える。

フシエが本当に味方である可能性だってあるのだ。ならば、屋外よりも屋敷の中の方が安全だと避難させたのかも知れない。屋敷内の罠も熟知していることだろう。

もし味方でなかったら?

…………どちらにせよ、早く合流したい。


「おらぁ!!」

積み重ねられている岩―――普通の男の胴体ほどの大きさだ―――を敵に投げつけた。岩はまっすぐ目標の胸元に飛び、一人の男を仰向けに倒し押し潰した。

もう一つ岩を、と手を伸ばしかけてその上に人がいるのに気付いた。―――とともにソエは十数歩後ろに飛びすさった。

周囲に気を配っているつもりだったのが、いつの間にか屋敷の正面、その前庭の一段低い場所に来ていた。投げた岩はその段の一部である。

そしてその上に屹立している人間とは…………誰であろう、首領のコルハクーである。

長髪を後頭部で一括りにして、耳環の一つも付けていない。

洗い晒しの長袖の上衣に手袋をせず、脚を覆い裾を紐で纏めたズボン。最低限の用をなすだけの鎧と革のサンダル。

先ほど見たときは、首領らしく金を持っていそうな服と飾りを身に付けた鼻持ちならない男だった。

今はこの村の大勢の三下どもと大して違いのない姿なのに、空間を圧倒するような存在感を放っている。

ソエは改めて対峙してみて、悪人ながらも威厳のある姿に、神経が僅かながら冷える思いがした。

全てを突き刺すような瞳に、感情は見えない。


ソエを追撃してきた盗賊たちも、お頭の姿に萎縮して、後ろに下がった。

―――――そのとき、突如として周囲は赤い光に照らされ、唸りをあげて熱風が押し寄せた。

見ると、村の入り口側に夜空を貫くような炎の柱がそびえている。あれはおそらく見張り台であったものだ。

あまりにも突然。

しかし、周りの男たちが、炎に戸惑う様子はない。そういえば先刻から、慌ただしくなぜかあちら側へ走っていく者たちがソエには見えていた。

推察するに、見張り台はもっと以前から燃えていたのだろう。

魔法で構成された炎が見張り台を燃やしていて、それがある時点で「普通の炎」に切り替わったので、ソエにも認知できるようになったのではないか。

つまり?

どういう魔法で何が目的なのか?知るか!

火柱からそれなりの距離はあるというのに、焼ける熱さはソエの身体にも纏わりついてくる。

少し、ソエは呼吸が乱れてきただろうか。

屋敷の前に伸びる幅広の道の上に、二人の焦熱の舞台が出来上がった。

コルハクーは動かない。視線はソエを飛び越えて火柱に注目している。

ミンフが人質となって後ろから引き摺り出されてくる様子は……無いようだ。

確かにコルハクーは背が高いが、ミンフと比べたら低い。手足も短い。そう思えば怖くない。

ソエがどう動こうか、と考えた次の瞬間、コルハクーは風のように走り、剣でソエのいた空間を裂いた。








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