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Killing & Shooting Star

「ヨクン?誰だそれ」

突然現れた醜い女の目が鋭く光り、ミシニは全身が一気に冷えるのを感じた。

自分は言ってはいけない秘密を漏らしてしまったのだ、と。

ミシニは二年程前にこの地へ拐われてきた。故郷の街から隣の街へと、何度も通った道を馬に乗って歩いていた矢先のことである。

わけのわからぬまま男たちに弄ばれ、小さな小屋に閉じ込められ、このまま絶望して終わってしまうのかと思われた。

しかし、ミシニの夫と定められたヨクンという男は、怯える女に一切手を触れることはなかった。

寡黙で無骨な雰囲気だが、ミシニを気遣う気配があった。

それから数日後、村の不味い食事が食べられず体力の落ちていくミシニにヨクンは独り言のように語りかけた。

この集団からは抜け出すのが困難なこと。外部との連絡は頻繁にはできないこと。少しでも不信感を持たれれば粛清されること。

「でも、いつかなんとかなる」

詳しいことは何もわからなかったが、それでもミシニは勇気づけられ、生きる力が湧いてきたのだった。

それからも二人の肉体に接触はないが、心は信頼によって深く結びつけられていった。むしろミシニは浮かれてさえいたかも知れない。

農作業の最中や、手洗いに出かけるとき、泣き腫らした仲間の顔を見ると、何度となくその耳に囁きそうになったことか。

「もうすぐ私の夫が助けてくれるわ」

そしてヨクンが出かけているこの夜、謎の女が小屋に入ってきて「助けに来た」と言ったものだからミシニもつい喋ってしまった。

「ヨクンの仲間ね!」

それに対する女の返答は、舞い上がった心を地面に叩き付けるようなものだった。

この女の言葉は裏切り者を炙り出すための罠だったのだろう。僅かなランプの明かりの下で、女の形相は悪鬼の如く凄まじさを増していく。

「おい、誰か反乱する気か」

唇を引き結び、膝を折ってミシニは床にひれ伏した。この女がコルハクーの部下ならばヨクンが夫だとわかる筈だが、これ以上喋らなければまだ大丈夫かも知れない。

この場で自分の身を投げ出すことに躊躇はなかった。

そんなミシニに相手は舌打ちし、さらに無情な言葉を投げ掛けた。

「わかった。喋らねぇなら隣の赤ん坊を連れてきて絞め殺すわ」




この村に造反者が数年潜んでいたとして、今、役に立つだろうか。ソエの邪魔とならなければ良いが、心変わりしている可能性も十分にある。

ヨクンという男は、黒髪を後ろで縛って口の周りに髭が生えていると聞いた。

そんな男を既に手にかけたような気がする。

ともかく、ここに住んでいる者には期待できない。

屋敷の前の見張りを始末したソエは、まず屋敷の近くの小屋に侵入した。扉には鍵がなく、静かに押し開けると小屋の中央に男が陣取って高いびきをかいていた。

ひと足飛びに近寄りその頭を掴んで、胸を踏み首を一回転させた。

ソエは自分がどうしてこんなに残酷なのか、不思議になることがある。

部屋の中を見回すと、隅に丸まって眠る女がいた。

「……おい、おい、ちょっと起きてくれ」

声を潜めて揺り動かすと、女は初めて聞く声に驚いて小さく叫んだ。

「静かにしろ……この村のこと、教えてくれねぇか。屋敷の罠とか首領の弱点とか」

知っているわけがなかった。

男の死体を小屋の隅に移動させて、次はその隣の小屋に滑りこむ。

暗いランプを掲げて、男だと目星をつけた方に飛び掛かりさっきと同じように首をへし折る。

同じく隅で寝ている女を起こそうとしたが、その傍らに幼子の寝ている頭を見つけたので黙って出ていった。

そして三軒目。ミシニを脅してわずかばかりの情報が得られた。

男たちは朝から夕刻まで仕事で小屋にはいない。夕食の後も少し仕事か、日によって屋敷の中で賭博が許されている。

ヨクンが今いないのは、昼辺りに見張りか賭博を命じられたからであろう。

夜は男も無駄に出歩けば罰を受ける。

最も、手洗い以外に出ていく用事などないし、動き回る気力もここの生活の中で失せてしまっている。

ミシニは喋っている内に、ソエを信用し始めたようで、口が滑らかになっていった。

「ありがとうな。助かったわ」

「……気をつけて」

「ああ」

小屋を出て、四軒目。男がいる。上手くいった。

五軒目。ここも上手くいった。扉を開けた途端、

ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!!!!!!!

けたたましい金属音が眠っている空気を切り裂いた。見張り台の鐘を誰かが乱打している。

「賊発見だ!!中央道にいるぞ!!」

――――もう見つかったのかよ。

辺りの扉が一斉に開き、暗闇の中、大量の血走った目が一点に集中した。

『大して明るくないな』そう思いながら下げていたランプが実はめちゃくちゃ明るかった件。~敵に囲まれたからと放り投げてももう遅い~

ソエは小屋の扉をもぎ取り、水平に振り回して近くの人間をなぎ払った。壁に当たるので邪魔だ!

さらに扉の枠木を毟り取って角材にする。飛び掛かってきた者の頭に全力で叩き付けると簡単に折れたので、針状の断面を敵の顔に突き刺した。その後ろから迫ってきた別の男の脇に潜り込み、流れるように背後に周り首を折る!

一瞬の気配を察して後ろに飛びすさると、その場に飛来した矢が突き刺さる。どこだ!?

月のない方、暗い空を背にして屋根の上に弓を構えたものがいるのを瞬時に見つけ、死体の腕を千切り取ってぶん投げた!地面の矢を掴み、背後に気配のある人間の股間に向けて、振り向きざまに下から矢で突き上げる。

ソエはこれほどの人数を相手に戦うのは初めてである。今まで大体は不意打ちで、敵が向かってくることは殆どなかった。それなのにどうしてこんなに動けるのだろう。

―――――まるで体が知っているようだ。

何も考えぬまま、体は激しく舞うように殺戮を繰り広げ、辺りを血に染めていく。自身の四肢はばらばらに千切れんばかりに破壊へと突き進む。

気が付けば、村のあちこちに松明が灯り、互いの姿が視認しやすくなっていた。

館のほうに男が四人並んでいる。立ち姿から察するに弓を構えており、一斉に射つ気なのだろう。避けるために左右の小屋に飛び込んでしまっては袋の鼠だし、中には女と子供がいる。だが屋根に飛び乗る余裕はない。

ソエに迷いが産まれた、その時。

突然、周囲は真っ白い光に包まれた。ソエの背後で巨大な光が弾けたようだった。何だ、これは?

「閃光弾だ怯んでんじゃねぇ!!」

硬直が解ける。敵の怒鳴り声にソエも鼓舞され、光で目が潰れたらしい弓の部隊に襲い掛かり、素手で顔面を殴りつけた。汚く溢れる血に拳が熱くなる。

センコウダンが何かは不明だが、たぶん害はない。

ミンフの毒の髪の毛を隠して暴力を展開するソエの中に、時おり冷たい水のように思考が流れる。

――――楽しんでないで、体力を温存しておけ。

そういえば、目的はコルハクーだった。

その辺の死体の手から剣を抜き取り、敵の胸へと突き立てる。

その剣を抜くのも面倒くさいので体を突き刺したまま剣を振り回せば、敵の頭と頭が衝突した!!頭蓋の砕ける手応えに全身の血が沸き立つ。殺せ!!自分は首だけになろうとも獲物の喉笛を喰い千切ってやる!!


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