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暗闇にてフシエの思うこと・2

読んで下さりありがとうございます。

投稿した後で修正を思い付くことが多くて、自分でもどうにかならないかと思いますがどうかお付き合いください。m(_ _)m

ハンミーヤの召し使いにはなったものの、フシエのできることには限りがある。

だが、この主も元々は父親の側女の手が空いたとき僅かに世話してもらう程度だったので、大体は変わらず自分でやっていた。

髪を梳くときなど、足で櫛を持ったフシエが椅子に腰かけ、ハンミーヤが床に座るというあべこべな状況である。ハンミーヤはこれをずっと面白がって毎朝かかさない。

6年間の中で、フシエの他にもう一人召し使いがいたことがある。

3年ほど前、やはり拐われてきたケイルヒという女。歌と踊りに優れた、華やかな容姿をしていた。

その時ケイルヒの仲間はおらず、1人で広間の中央に立たされたが、それでも全く物怖じせず自分の芸を披露してみせた。

娯楽のない屋敷に、花火があがったかのように明るく魅了される舞い。ハンミーヤは当然、夢中になり、自分の側に召し抱えることとした。

話術も巧みな女だったが、「外の世界」のことを話題にしてはならない、と最初にコルハクーから命じられていたのはハンミーヤの預かり知らぬところである。それでもケイルヒは様々な話と歌舞とでお嬢さんを楽しませたのだった。

だが、徐々に歪みが生じはじめた。

村は、屋敷の全面に広がる森を切り開いて小屋を増やしつつあった。

その中に入るのは拐ってきた女たちと、どこからか集まってきたコルハクーに従う男たちである。

コルハクーの側女たちは、抵抗する気持ちを削ぐために片腕を切り落とされている。そして、屋敷から出ることは許されなかった。

フシエは常にハンミーヤに付き従った。

敷地内を自由に移動できて、体に何の不自由もないのは、ただハンミーヤとケイルヒの二人だけ。

気前のいい彼女は、男たちが集団でいるのを見ると近寄っていって踊ってやり、拍手喝采をもらうことも度々あった。

ケイルヒが傲慢になるのも当然と言えば当然だろう。フシエや側女たちを見下すような態度を取るようになっていった。

ある日、フシエが屋敷の外にいるハンミーヤにハンカチを持っていく途中、ケイルヒが話しかけてきたことがあった。

その態度は友好的なようでトゲを含んでいる。

「お嬢さん、転んじゃったんでしょ?誰も受け止められなかったのねぇ?」

「…………」

「お詫びにアンタの脚も切っちゃったら?足りなくても何とかするでしょ」

フシエは口に咥えていたハンカチを自分の肩に置き、平静な顔で相手に向き合った。

「お嬢さんに飽きられないように、お喋りの練習してるのね。いい心がけよ?」

「ハッ、どっちが飽きられるって?」

憎々しげに吐き捨て、お嬢さんを待たせるのも得策ではないと理解しているので、敵はその場を立ち去った。

ケイルヒの言葉は、フシエが漠然と感じていた不安をはっきりと形にしてみせた。

ケイルヒは一層大胆になっていく。ハンミーヤの目の前で側女を蔑むような言動をしても、少女は何も言わないどころか便乗する気配さえある。

いつ自分が屋敷の前の小屋に押し込められてもおかしくない。

しかしある日、事件が起きた。

午後の軽食の時間のことだ。入り口を開けた側女が持つお盆に、青い容器が載っているのを見て少女は歓声をあげた。

「なんですの?あれは」

「たまに来るの、他の村からの献上品(・・・)よ!すっごくおいしいの!」

こんな村に献上品などあるわけがないが、ハンミーヤの世界に対する認識を是とすべしと周囲の人間はただうなずく。

側女は入り口の側の棚に一旦お盆を置き、扉を閉め、慎重にまたお盆を持ち上げる。

「はーやーく!はーやーく!」

お嬢さんは待ちきれず、拍子をつけて到着をせかす。それは、無邪気な時間だった。

「もう、早くしなさいってば!」

ケイルヒが勢いをつけて立ち上がり、半ば引ったくるようにしてお盆を奪い取った。それが予想より重かったのか軽かったのか。青い容器は床の上を跳ね、中の汁が多く柔らかいおやつが周囲に飛び散った。ハンミーヤの足元にも数滴とび、汚れてしまった。


罰として地面に落ちた物だけ食べるようにと、ケイルヒは木に繋がれた。

数日辛抱すれば許されるだろう、と彼女は考えていたのだと思う。

だが、ハンミーヤはもうその時点で木の下の人間に興味をなくしていると、フシエは気付いていた。



コルハクーがこの村を作り始める前に何をしていたのかはわからない。軍人か、ひょっとしたら政治の人間かもしれない。

男の目的は自分の国を作ることだろうか。その統治は恐怖と隷従によってのみ成されるのだろう。

抑圧されているのは女だけではない。首領に従い悪事を働く男たちもまた、満ち足りた状態とはかけ離れている。

コルハクーとその周囲の数人だけが好きに飲み食いできる。

その他の者の食事は屋敷の厨房でまとめて作られ、欠けた器に入れて配られる。

男たちの仕事は通行料の徴収や、動物に人間も含めた狩り。大工仕事もある。

女たちの仕事は、木柵のはまった窓の側で刺繍などの工芸品を作るか、持ち回りで畑に出て、太陽を浴びながら働くことが許される。

この農作業と、共用の便所に用を足しに出るときだけ、女が他の女と顔を合わせられる可能性がある。だからといって何度も出ていけば、見張り台の男の気分次第で罰が与えられた。

そして、女たちは夜になればまたおぞましい仕事を強要される。

フシエはハンミーヤのお陰で、一度としてそれを求められたことがない。

自分より下の者がいるのだから、と満足できるような人間だったらよかっただろう。これ以上求めるのは贅沢だ、と小屋を見下し現状から目を背けられれば楽だったろう。

頭で抵抗の方法を考えながら、しかし常に自分は悪夢のような檻にいつでも落とされる立場なのだ、という恐れに足がすくむ。

ここに来た当初はコルハクーと言葉をいくつか交わすこともできたが、次第に首領は下々の者との隔たりを強くして威圧感を増していった。

そうして日々は過ぎていく。

フシエの思考はまたソエの裸に戻っていった。ミンフもその場にいたが、あまり記憶にない。

それにしても見事な体だった。

触れると一体どんな感触なのだろう。とはいえ自分には腕がないので、豊満な胸の間に顔を埋めることになると思う…………

妖しい気分になりかけていた所で、ふと、外で物音がしているのに気付いた。男の話し声、いや、叫んでいるようでもある。

屋外に面した扉から外に出た。屋敷の側面から正面に回るうちに、正面の地面が魔法で青白く発光しているのが見えた。何か、大規模な魔法が発動しようとしているのか。その辺りに数人の人影が見える。顔の大きさほどの板を先端にくくりつけた杖を掲げているのがタミーウンだ。

次の瞬間、矢のように駆け寄った人影がタミーウンの頭を掴み、地面に叩きつけた。

頭蓋骨の砕ける音と、中身の潰れる音がフシエの耳にも届いた。




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