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【ユグドラシルが呼んでいる】~転生レーサーのリスタート~  作者: すぎモン/詩田門 文【聖ドラ改稿中】
セクター4

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116/195

ターン116 立ち塞がる痛車

 振り返った先にいたのは、整えられたおヒゲがダンディな中年男性。


 ニーサと同じく竜人族(ドラゴニュート)で、トカゲっぽい尻尾が生えている。




 ニーサの台詞から、この男性がお父さんなんだろうということは推測できた。


 ただ彼女と違い、頭髪はきっちり撫でつけられた黒髪。


 尻尾の色も黒い。


 恰好は紫色の襟付きチームシャツに、涼し気なスラックス。


 首には無線機のヘッドセットと、通行証(パス)ケースが掛けられている。


 ――ということは、どこかのチーム関係者だ。




「久しぶりだな、ニーサ」


「お父様。お元気そうで」




 ちょっと遠慮がちに話しかけてきたお父さんと、さらりとした口調で答えるニーサ。


 ケンカ中の父娘って感じが、あんまりしないなあ。


 普段の俺とニーサの方が、よっぽどケンカ腰だ。




「紹介しますね。こちらは、チームメイトのランドール・クロウリィ」


「ああ、知っているさ」


「ランドール。私の父、ガゼール・シルヴィアだ」


「初めまして、ガゼールさん」


「やめろ! (きみ)に、お義父さんなどと呼ばれる筋合いはない!」


「ひとっ言も、呼んでないんですけど?!」




 これはあれか?

 娘に近づく男は、皆殺す系お父さんってヤツか?


 うわ。

 スーパーめんどくさい。


 ウチのオズワルド父さんもコレ系だけど、よそのお父さんだとめんどくさく感じるもんだな。


 父さんにも、ほどほどにするよう言っとこう。




 ――にしてもガゼールさんは、何を誤解してるんだ?


 俺とニーサは、職場の同僚というだけのドライな関係だ。


 警戒されるようなことは、何も――




「妻から……ヴァリエッタ・シルヴィアから聞いているぞ? 君はニーサをたぶらかし、自分の部屋へと誘い込んで……。クッ! これ以上、私の口からは言えん!」




 ――してたな。

 

 だけど、事実は違うよ。


 仕方なく、ルームシェアしてただけだ。


 ヴァリエッタさんは、どんな風に報告したんだ?


 諸悪の根源は、あの人だろう?




「お父様。周囲から、誤解されるような言い方はやめて下さい。私とランドールは、そういう関係ではありません」


「な……ならばなぜ、同じ部屋になど……」


「お父様が、私を家から追い出したせいでしょう?」


「ち……違う! お前があまりにも聞き分けがないものだから、ついカッとなって……」


「出ていけと、言ったじゃありませんか」


「誤解だ! あれは、『この部屋から出ていけ』という意味で……。家から出ていけという意味では……」




 ガゼールさん、旗色が悪いなぁ。


 ニーサは気が強いし、ヴァリエッタさんは()()だし、家でも肩身が狭いんだろう。


 なんか、味方してあげたくなった。




「なあ、ニーサ。よその家の事情に口を出すのは、気が引けるけど……。仲直りして、家に戻ったらどうだ?」


 俺の助け舟に、ガゼールさんの表情が輝く。


 だけど――




「お父様は私に、『レーシングカーのシートから降りろ』と言っているのだ。そんな要求、吞めるわけがないだろう?」


「あ、そうなの? そりゃ、無理だ」




 期待に満ちた表情から(いっ)(てん)


 ガゼールさんはズドーンと落ち込んで、両手両膝をアスファルトに突いてしまった。




「ガゼールさんはなんで、ニーサをレーシングカーに乗せたくないんですか? ご自分だって、レース関係者なんでしょう?」


 本職は会社社長だって、前にニーサが話してたな。


 ――ということは、趣味でわざわざレースに関わっているレース大好きおじさんなはずだ。


 なのに娘がレーサーになるのを、嫌がるなんて――




「レーシングカー全部が、ダメというわけじゃない。ただ、速い種類(カテゴリー)のマシンに乗るのをやめて欲しいだけなんだ。娘が200km/h以上の猛スピードで走っている姿を見るなんて、私の心臓は恐怖に耐えられない!」


 おふぅ!

 なんてグラスハートなパパなんだ!


 心配する気持ちは、分からないでもない。


 けれども、あなたの娘は――

 どんなに大クラッシュしてバラバラになったマシンからでも、ケロッとして降りてきそうなニーサですよ?




「分かりました。では私は、GT-YDマシンまでしか乗りません」


「それは、世界最速マシンではないかっ!」




 GT-YDマシンはユグドラシル24時間と世界耐久選手権(WEM)で使用される、この世界(ラウネス)最速のレーシングカー規格だ。


 つまりニーサは、自重する気ゼロだってこと。




「なんで……なんでこんなに、速い娘に育ってしまったのだ……。ニーサよ……」


「それは、お母様に似たからですね。お父様の遺伝子がドライビングに全く影響してなくて、ホッとしています」


 ひ――酷い。


 遠回しに、「パパは運転が下手」と言ってるようなもんじゃないか。




「……どうしても、速いカテゴリーのマシンから降りてくれないのか?」


「嫌ですよ。TPC耐久クラス1マシンでも、まだ全然物足りない。私は『ユグドラシル24時間』で、GT-YDマシンに乗りたい」


「……ふっ、いいだろう。ならば私は、お前が上のカテゴリーに上がれないよう壁として立ちはだかるまでだ!」




 ちょうどその時だ。


 ガゼールさんの背後。

 2つ離れたピットから、スタッフ達に押されて1台のマシンが出てきた。


 長い鼻先(ノーズ)(くさび)型のテールランプが特徴的な、紫色のマシン。


 クワイエット社のスーパースポーツ、〈ライオット〉。


 ウチの父さんが、大好きな車だ。




 ドアの辺りには、アニメのキャラが大きく(えが)かれていた。


 勝気な緑の瞳と、長いストレートの銀髪が印象的な美少女剣士だ。


 あのアニメキャラ、どっかで見たことがあるような気がするんだよな~。




「あのアニメキャラ、どこかで見たことがあるような気がする……」


 ニーサまで、俺と同じようなことを考えていた。


 このキャラの瞳を見ていると、「あなた、大根役者ね」と言われているような気分になる。


 実際に周りからよく言われる台詞なんだけど、アニメキャラにまで言われる覚えはない。




 これはいわゆる、「痛車」ってやつだな。


 レース界にも、痛車は多い。


 お金を出してくれるんなら、スポンサーはアニメ会社だろうがなんだろうが神様なんだ。




「私達の〈エリーゼ・エクシーズライオット〉が、お前達の〈BRRレオナ〉を完膚なきまでに切り刻んでやる」


 ガゼールさんの宣戦布告に合わせて、紫色のレーシングスーツを着た2名のドライバーが姿を現した。




「久しぶりだね、ランディ」


「遠慮はしないぜ、覚悟しな」




 青い髪の犬獣人と、赤い髪の猫獣人。


 


 ――こいつらは!




「えーっと……。ゴメン、誰?」




 申し訳ないので、遠慮がちに尋ねてみた。


 それでもショックだったようで、獣人コンビは腰砕けになる。




「俺だよ! キース!」


「僕はグレンだ。まさか、名前を聞いても思い出せないとか言わないよね?」




 困った、マジで思い出せない。

 どうしよう?




 そこで気を利かせてくれたのが、メイドモチーフの衣装を身に(まと)ったレースクィーン。キンバリーさんだ。


 「シルバードリル」時代とは衣装の配色が変わっていて、ブルーがメインカラーの爽やかメイドになっている。




 キンバリーさんは謎の獣人コンビに、あるものを手渡した。


 彼らはそれを身に着け、香ばしいポーズを決める。




 蝶々仮面(パピヨンマスク)が似合う、彼らの正体は――




「裏切りモフモフコンビ!」


「当たりだけど、違うって言いてぇ!」




 やっと思い出した。


 俺が幼少期に所属していたカートチーム、「RT(レーシングチーム)ヘリオン」。


 そこを裏切ってシーズン開幕直前に移籍した、キース・ティプトン先輩とグレン・ダウニング先輩じゃないか。


 いつの間にかカートを卒業して、GTカーレースのドライバーになってたんだな。


 かわいいショタもふもふだったのに――


 背もすっかり伸びて、ワイルド系イケメンになってしまっていた。


 最後に会ったのは4年前。

 エリックさんの葬儀以来だから、そりゃ印象も変わるよな。




「ほう。キース君やグレン君と、ランドール君は知り合いだったか。だが知り合いだからといって、手加減などしないぞ? 実はこの2人に加えてもう1人、海外から腕の立つドライバーを呼んでいるのだ。……さあ! 自己紹介するんだ! ヤニ・トルキ君!」




 ああ、うん。

 自己紹介いらないや。




 でもニーサは、ヤニと面識ないのかな?


 それなら(いち)(おう)、黙って自己紹介を聞いた方が良さそうだ。




 ところが数秒待ってみても、(しゃく)(どう)(いろ)の肌をした女好き鬼族(オーガ)は姿を見せない。




 ガゼールさんも()(げん)に思ったらしく、キースとグレンに尋ねた。




「どうした? ヤニ・トルキ君は、どこへ行ったというのだ? グレン君、キース君、何か知らないかね?」


「あーっ。そういえばさっき、よそのレースクィーンの子とモーターホームに入って行ったっすよ」




 ヤニ・トルキ、平常営業。


 いやいや。

 よそのレースクィーンは、不味いでしょう。


 自分のチームなら、OKってわけでもないけど。


 面白そうだから、この件はルディに報告しといてやろう。

 

 


「なにぃ!? それは不味い! 相手はどこのチームのレースクィーンか、分かるかね?」


 ちょっと慌てるガゼールさん。


 対岸の火事だと思い、俺とニーサはその様子を生暖かく見守っていたんだけど――




「ランディ達のチームの子っすよ。キンバリーさんと、同じコスだったんで」




 全っ然対岸の火事じゃなかった!


 


 無言でモーターホームへと駆け出したガゼールさんの後ろを、俺とニーサも追いかける。


 今回ウチのレースクィーンは、キンバリーさんとあの子だ。


 チームの情報を(ろう)(えい)したりとかはしないだろうけど、これはスキャンダルだなぁ――




「ガゼールさん、この件は……」


「分かっている。そちらも内密に頼むぞ?」




 モーターホームの前に辿(たど)り着いたガゼールさんは、(いっ)(たん)俺達と顔を見合わせた。


 それから、ドアを強くノックする。




 しばしの間をおいて、ゆっくりとドアが開いた。




「おお、なんじゃガゼール監督。それに、ランディまで。久しぶりじゃのう」




 明るい口調で話しかけてくる長身の鬼族(オーガ)、ヤニ・トルキ。


 その表情からはレースクィーンを連れ込んで、変なことをしていた男には見えない。




 ――首から上は。




 首から下はどうなのかというと、足をプルプルと震わせていた。


 手すりにつかまって、必死に体を支えている。


 なんというザマだ。


 戦闘種族、鬼族(オーガ)の名が泣くぞ。




 そんな生まれたての子鹿状態なヤニの背後で、妙にツヤツヤした笑顔を浮かべている妖艶な少女がいた。


 おお、ヤニよ。

 お前も彼女に食われてしまったか。


 安心しろよ。

 俺の同級生男子の半分は、彼女の餌食になったらしいぜ。


 今日から彼らと兄弟だな。




「あらニーサ、ランディ君。あなた達も、混ざりたかったの?」






 相変わらずぶっとんだ発言をしつつ、淫魔族(サキュバス)のアンジェラ・アモットさんは妖しく舌なめずりをした。

 





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本作にいただいた、イラストやファンアートの置き場
ユグドラFAギャラリー

この主人公、前世ではこちらの作品のラスボスを務めておりました
解放のゴーレム使い~ロボはゴーレムに入りますか?~

世界樹ユグドラシルやレナード神、戦女神リースディースなど本作と若干のリンクがある作品
【聖女はドラゴンスレイヤー】~回復魔法が弱いので教会を追放されましたが、冒険者として成り上がりますのでお構いなく。巨竜を素手でボコれる程度には、腕力に自信がありましてよ? 魔王の番として溺愛されます~

― 新着の感想 ―
[良い点] 以前の感想返信は冗談だと思っていましたが、本当にヤニがやられてしまった件(笑) それにしても、アンジェラさんはレースクイーン衣装がすごく似合いそうです。 尻尾はあるけど、蝙蝠のような翼は…
[一言] 痛車の名前がまんまで笑いましたよ。 ヤニが出て来たと思ったら、何をしてるのか。 あ〜でも、なんかかわいそうなことになってる……。
[一言] 17歳美少女剣士から見て、小説家になろうって別に気持ち悪くないわよ?
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