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会談にて

阿知波少佐と青崎少佐の言い争いも終わったようだ。会議の再開にに向けて部屋に戻ってきた。阿知波少佐はタバコを吸ってスマホを弄っている。青崎少佐はスマホをやりながらリラックスしている。中将達が戻ってくるまで伍長達は自分達の話をした。お互い似た志を持つもの同士、生まれにも興味があった。

「私は共和国の釧路で生まれ育ったんだ。大きな大地があって毎日そこで遊んでいた。家の仕事や食料の確保もやったし、畑仕事もよくやった。牛の餌やりが楽しいんだ。だが私の家は貧しくてな。その日の食事にも乏しかった。家族の生活をよくするためにしっかり労働する心意気があったんだ。更にいつかこの国をより発展させるため、そして書記局長同士のため人民赤衛軍に入隊したんだ。」

嶋村伍長は自分の生い立ちを話した。北日本の貧村に生まれコツコツと働き静かな生活を送ってきた嶋村伍長は家族のためにも必死に稼ぐことができるように軍隊に入った。今は仕送りもできている。そして訓練に打ち込んでいる内に人民赤衛軍でもトップクラスの実力を持つ兵士になっていた。嶋村伍長はこの名誉を守るためより一層厳しい訓練に励んでいる。それを聞いて坂村伍長も話し出した。

「私の家は比較的裕福だった。衣食住に不便はなかったし、両親の事業も軌道にのっていた。だが私は自分自身の満足のために軍隊に入隊した。私自身をもっと高めるために。祖国のために働いてこそ真の栄誉が手に入ると気づいたんだ。そのあとは伍長と同じような経歴だ。」

嶋村伍長はこの敵国の伍長に親近感を感じていた。生まれは違っても似ている部分が多い。それに列島統一の夢も持っている。

「坂村伍長。我々はとても良く似ているようだな。」

「どうやらそのようだな」

二人が話している最中も阿知波少佐と青崎少佐は言い争いをしている。

「南の奴等は軽率な人間が多くて敵わん。」

「北の人が固すぎるんじゃないの」

二人の間に火花が見える。その論争中に中将が戻ってきた。中将達は比較的良好な関係なのに。

「では会議を再開しよう。」

「次は南北の武器についてだ」

この話題はとても重要な議題だ。南北共同の兵器開発計画があるのだ。まず阿知波少佐が北側の書類を掲示する。次に青崎少佐が南側の書類を出す。

「今回の南北共同の兵器開発につきまして、私から説明させていただきます。まず、今日の国際情勢ですが、アメリカの影響力が強大になりつつあります。それに大してロシアの影響力は経済制裁の効果もあり停滞中。中国は両国の様子を伺っている状態。北朝鮮は韓国で経済に遅れを取り、今は核兵器を使った抑止に依存する現状が続いております。我が国と同じく終戦もできておりません。そこで我が北日本は資本主義の勢力拡大と共産主義の弱体化をかんがみて、南側と協力しこの情勢を乗り切ろうとの考えに達しました。更にこの国際社会が科した経済的制裁を乗り切る。悪化を辿る南北関係に楔を打ち込む。そのためこの南北共同兵器開発計画は南北日本の一体化と安定化を図り、共に列島を防衛する新たな時代を迎えようと言うことです。」

阿知波少佐の説明に青崎少佐が付け加える。

「これに加えアメリカを牽制することにもなります。南北での共同開発は太平洋に展開するアメリカ軍への警鐘になります。実際に配備を開始すれば更なる効果も狙えるかと」

この計画は南北の威信をかけたプロジェクトになる。経済の弱い北と常に北との戦闘に備える南が協力すれば相互の抑止にもなる。良いことの方が多いのだ。

新たな資源の開拓にも良い影響を与えるだろう。

「では南北軍事協定は締結としますか」

「よろしいでしょう」

南北将軍は書類にサインをしていく。これで計画は動き出す。この責任の重さに伍長は身震いした。このまま良い方向に動いてくれれば良い。

「本日は良い機会をありがとうございます」

「両国の発展は勿論いずれは統一ですな。」

数十時間に及ぶ南北軍事会議は平穏に終了した。これで私たちの役目は終わりだ。

「緊張したか」

阿知波少佐が語りかけてくる。その目には重責を全うする使命感が滲み出ている。

「はい、この国家の運命をかけたともいえる会議ですから。」

嶋村伍長は冷や汗をかきながらいった。

「今からは帰路に着く。だが、せっかくきたんだ。ここを探索して行くと良い。君は初めてだろうからな。」

「はい。国防のため観察しておきます。」

阿知波少佐は嶋村伍長を案内して回った。この非武装地帯はかつての日本戦争で軍事境界線となった場所だ。ここは南北にとって非常に重要な場所だ。兵士としてはここを知らなければならない。

「伍長、ここで停戦協定を結んだのだ。」

「ここが伝説の戦場跡…」

ここは重要な場所だ。かつての日本戦争でアメリカと互角に渡り合った北日本軍はこの地で軍事境界線を引いたのだ。ここから先は南本領だ。表向きは不可侵だが、実際は多くの部隊が侵入している。

「阿知波少佐から見て南日本への侵入はどうでしたか?」

「そんなに良いものではない。死人も出る。実際は地味な破壊工作だ。こういうことに感情は持てないようにしている。要人の拉致もあった」

「少佐はニヒルですね。」

「さあな」

阿知波少佐は北海道の函館市出身だ。首都旭川市には良く親の仕事で行っていたらしい。

「少佐の曾祖父がこの戦争に従軍されたのでしたね」

「偉大なご先祖様だ。あの勲章の数々には頭が下がる」

「私はまだ自分の実感が持てません」

「何?」

「いえ、列島が分断されてそれ以前の仲良く暮らしていた列島がどういうものなのか検討もつかないんです。」

「愚かな日本軍がアメリカと戦争をしていたのだ。我々の先人は帝国主義と資本主義の両方と戦ったのだ。今の方が楽園だぞ。それに我が国は偉大な発展を遂げている。」

「そうですね…」

「不満そうだな」

「とんでもない」

「南日本の方がいいのか。あの暮らしを見て」

「そうではありません。私はこの国が好きです。ただ、南は欲望に忠実というか、青崎少佐のような、あんな軽率な人が多いのでしょうか」

それを聞いて阿知波少佐はあきれたような顔をした。

「奴の話しはするな。寒気がする。あれは特別な存在だ。決して近づくな。南はあんな輩ばかりだ」

「はい」

阿知波少佐の青崎少佐嫌いは筋金入りのようだ。女性関係が多い青崎少佐は阿知波少佐には相容れない存在なのだろう。

「君は南北の戦争についてしっかり学習しておけ。私はこの後打ち合わせがある。」

「わかりました」

阿知波少佐は足早に去っていった。伍長は南北の歩んできた分断の歴史に思いを馳せた。

「一つになれば何が変わるのか」

そう思うとますます統一が必要だと感じた。

「悩んでいるようだな」

坂村伍長もやってきた。

「私は列島が統一するには確固たる意思が必要だと思う。」

「伍長…」

伍長達は未来に思いを馳せた。

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