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赤髪舞う その4

「ど、どうでしょうか?」

 試合用のスーツを見せに来た白糸が恥ずかしそうに身体をもじもじさせる。

 白をベースにクランを現す黒猫のマークとTEIのロゴを、胸と背中にあしらったスーツだ。

 不正防止とプレイヤーの体調管理の為に、試合用スーツの下には下着すら着ける事は許されていない。

 生地もさほど厚くなく密着しているので、身体のラインがもろに出てかなり恥ずかしい仕様になっていた。

「水着だと思えば平気、平気」

 とアオイはスーツのまま、クランルームと更衣室の間を平然と往復しているのだが。

「でも、恥ずかしいモノは恥ずかしいです」

 白糸は手でお尻と胸をなんとか隠そうとする。

「ふ~む、白糸クゥン。

 君、結構いい身体しているね」

 アオイが白糸の身体をなめ回すように視線を上下させる。

「な、なんですか?」

 白糸は身の危険を感じて後ずさった。

「もうちょっと筋肉があるかと思ってたんだけど、思ってたほどガチムチじゃ無かったからさ」

 アオイの言葉に納得したように警戒を解く。

「私の流派は柔軟性を要求されますから、筋肉も必要ですが必要以上に筋肉を付けてしまうと堅くなって柔軟性が失われてしまうす、なので必要最小限度にしか筋肉は鍛えていません」

 生真面目に答える白糸の言葉を、アオイは「ふ~ん」と聞き流すだけだった。

「白糸、モデルやってみない」

「へっ?」

 と言ったきり白糸が、

「わ、わわわわわわわわわ私がモデル!」

 そのまま頭から湯気を噴いてフリーズする。

「な、何言ってるのよあんた。

 白糸、フリーズしているじゃない。

 試合前の大事な時に、バカな事言わないで」

 アカネが凄い剣幕で食って掛かる。

「バカな事じゃないぞ、私は本気で言っているからな」

 アオイも咄嗟に言い返す。

「でも、私も白糸さんはモデルやってもいいと思いますよ」

 愛虹がアオイの味方をした。

「そうだろ、白糸ってよく見れば可愛いし、背も高くてプロポーションも良いからな」

 アオイががははと笑う。

 アオイに言われてあらためてみれば確かに可愛い、それに出るところは出ているし引っ込んでいるところは引っ込んでいる。

「う~ん」

 アカネは自分の胸と比べてうなり声を上げた。

「し、師匠どうしましょう?」

 フリーズから解けた白糸がアカネに助けを求めるが、

「知らない、勝手にすれば」

 とそっぽを向く。

「まっまっ、お子ちゃま体型の奴は放っておこうぜ」

 アオイが白糸と肩を組んだ。

「誰がお子ちゃま体型よ!」

 アカネが怒鳴ったがアオイはニヤニヤ笑いながら、

「言っていいのか?本当に言っていいんだな?」

 と言われ「うぐぐぐぐ」と歯ぎしりして黙ってしまう。

「白糸、私は本気だぜ。

 今直ぐでなくても良いから・・・私もいつまでもナイト・クラン・ウォーの顔ってわけにいかないからさ」

 その言葉でアオイが何を言おうとしているのか、アカネは理解出来た。

 アオイはナイト・クラン・ウォーの上位ランカーで顔もスタイルも良い。

 なのでナイト・クラン・ウォーの顔として、あちこちのイベントや雑誌のモデルとして活躍していたのだ。

「もうあちこちで愛想振りまくのにいい加減疲れたよ・・・この性格だろ、向いてない、向いてない」

 アオイがパタパタと手を振る。

 ミドリはその言葉に納得したように頷いた。

 ネットの動画で見るアオイはおしとやかでいつも微笑みを絶やさない淑女のように見えたが、実際に本人に会ってみれば姉御肌で結構がさつなところもあり淑女とはほど遠かったのだ。

 その姉御肌に惚れ込んだファンクラブも有るのだが。

「直ぐにナイト・クラン・ウォーの顔になれなんて無茶は言わないさ、でも、私は白糸になれる素質はあると見たからさ」

 と言いつつ白糸の背中をバンバン叩く。

「は、はい頑張ります」

 アオイは常に上位ランクをキープする強者だ。

 その強者に期待していると言われ、白糸の格闘家魂にメラメラと火が付く。

「もっとも、その前に私を倒してだけどな。

 そう簡単に負けないからな」

 と胸を張ってがははと笑いなが白糸の背中をパンパンと叩く。

 白糸がガッツポーズのまま再びフリーズしたのは言うまでもない。




「ほほう、拳吾の孫がモデルですか。

 わたくしも年を取るわけですな」

 そこへヴィオレットとジョセフがクランルームに入ってきた。

「皆様、ごきげんよう」

 ヴィオレットはスカートの端を持って挨拶し、ジョセフは恭しく頭を下げる。

「あっ、ゴスロリの方だ」

 アカネとミドリは今部屋に入ってきたのがエレペットの方だと気が付いたが、敢えて知らぬふりをする。

 ヴィオレットが自分で皆に伝えると言うのでそれを尊重したのだが、アカネが白糸の方にかまけてしまって言う機会を逃していたのだ。

「皆揃っているんだから、ここで言えばいいのに」

 とミドリは思ったが、無理強いも良くないともって黙っておく事にする。

 ヴィオレットは挨拶を済ませるとソファーに座ってから一時、間を置いてミドリの方を見た。

「あなた、わたくしが座ったらお茶でしょ。

 気が利かない、そんな事では我が家のメイドは務まりませんわよ」

 高飛車に言うヴィオレットにミドリがカチンときて言い返そうとした瞬間、ジョセフが間に入った。

「まぁまぁ、お嬢様。

 ミドリ様もまだ我が家のしきたりを良くご存じないのですから、後で良く言って聞かせますのでここはジョセフに免じてお許し下さい」

 と頭を下げる。

「それもそうね、あなたの顔に免じて許しましょう。

 感謝する事ねミドリ」

「流石お嬢様」

「そうでしょ、そうでしょ、お~ほほほほほほ」

 と高笑いするヴィオレットを見ながらミドリは、

「こいつ、ハンドルを握ると性格が変わるタイプだ」

 とジト目でヴィオレットを見た。

 病室で会った少し気弱なヴィオレットと、目の前で高笑いするヴィオレットと比べてヤレヤレと溜息をつく。

 



 異変は唐突にやって来た。

「またあなたなのですか、ちょっと何をするのですか、やめて、やめて下さい」

 ヴィオレットがいきなりそう叫ぶと糸が切れた人形のように突然動かなくなった。

 ミドリとアカネは何が起きたか予想出来たが、事情を知らないアオイと愛虹と白糸は何事が起きたかとヴィオレットを凝視した。

「ヴィオレットさん、大丈夫ですか?」

 恐る恐る愛虹が近寄る。

 アオイも白糸も心配そうな顔でヴィオレッタの顔を覗き込んでいたが、そこへ騒ぎの元凶がやった来た。

「こんにちは」

 明るく良く通る声がクランルームに響く。

「お姉さん、こんにちは」

 ミドリはやっぱりという顔で入ってきた食堂のお姉さんに挨拶をした。

 お姉さんは電動車椅子を後ろに従え、腕に寝間着姿のヴィオレットを抱えていたのだ。

「ヴィオレット、皆に挨拶しないとダメだよ。

 挨拶は人間関係の基本だからね」

と言われてヴィオレットは、

「こ、こんにちは」

 と諦めた顔で弱々しく挨拶をする。

 先程までの高飛車お嬢様とは大違いだ。

 お姉さんは動かなくなったエレペットの横に、壊れ物を扱うように優しく丁寧にヴィオレットを座らせた。

 その間に、電動車椅子は誰も操作していないのに部屋の隅の邪魔にならない場所へと移動する。

「こ、これはどういうことですか?

 ヴィオレット殿が二人?」

 事情を知らない白糸が目を白黒させて驚く。

 その横で愛虹も説明してと言う目でお姉さんの方を見ていた。

「この子、私と同じロボットだよ。

 この子は遠隔操作で動くタイプで、私は・・・うぐぐぐ」

 そこまで言いかけてアカネが足が悪いとは思えない速さでお姉さんに駆け寄ると、手で口を塞ぐ。

「それは言わない約束でしょ」

 アカネが耳元で囁くと、お姉さんは「あっ、そうだった」と言う顔をする。

「もうバカはしないわね?

 あなたがバカをすると、あの人に迷惑がかかるというのを忘れないでよ」

 お姉さんは「判った」と言うようにこくこくと頷いた。

「ならいいわ」

 アカネが手を離すとお姉さんはホッと息を漏らす。

「あのアカネちゃん、お姉さんがロボットってどう言う事?」

 と聞かれて、

「いやねミドリちゃん、そんな事誰も言ってないわよ」

 と白々しいうそを言い、

「わ、私はロボットではありません」

 お姉さんも棒読みの台詞を吐く。

 しかし、その場にいた人間は誰一人信じていない。。

「・・・・・・・・・・・・」

 しばし考えたアカネは、

「ニーヤと同じよ、別の世界から来たのよ。

 しかも未来の文明から、この事が知られたら確実に大騒ぎになるし、下手したら未来の技術欲しさに戦争になりかねないわ」

 戦争という言葉にお姉さんは顔を曇らせる。

「争い事はダメよ、戦争なんて絶対ダメ。

 だから私の事は秘密にしてね」

 頭を下げる。

 ミドリや愛虹、アオイはどうしたらいいか判らずに互いに顔を見合わせる。

「確かに、そこのお嬢さんはどう見ても人間としか見えませんですな。

 それだけでも今の科学者達には、宝の山に見えるでしょう」

 口を開いたのはジョセフだった。

「それに先日から拝見させて頂いておりますが、不思議な力を色々とお持ちのようだ。

 電動車椅子を遠隔操作で操ったのもお嬢さんですね?」

 言われてお姉さんは「えへへへ」と笑う。

「こんなことも出来るよ」

 お姉さんが合図すると、椅子に座ったまま動かなくなったヴィオレットの顔をしたエレペットが立ち上がり、歌を歌い始める。

 それに合わせてお姉さんも歌う。

 ヴィオレットの声と、お姉さんの透き通った声のハーモニーにその場にいた者達は聞き入ってしまう。

 お姉さんとロボ・ヴィオレットは美しい旋律で歌い上げ、終わると軽く会釈をする。

 同時に熱烈な拍手を浴びる事となった。

「凄いよお姉さん、こんなに歌が上手なんて」

 褒めちぎるミドリ。

「す、凄いです、感動しました」

 感動しすぎて言葉がうまく出てこない白糸。

 その横で愛虹はウンウンと頷く。

 皆反応はそれぞれであったが、今の歌に感動した事は表情を見れば一目瞭然だった。

「えへへへ」

 照れ笑いするお姉さん。

「私、料理の次に歌は得意なんだ」

 ちょっと得意げにする。

「本当に凄いです、料理も上手だし私の家もピカピカに掃除してくれているし。

 それで歌までこんなに上手だなんて」

「私はハウスキーパーとベビーシッターが本来の仕事だから、家事全般は出来て当たり前なんだよ。

 疲れないから、身体動かす事は好きだし」

 そこまで言って、お姉さんは慌てて口を自分の手で口を塞いだ。

「これも、言っちゃけないって言われてた・・・」

 口を塞いだまま辺りをキョロキョロと見回して、安心したのか塞いでいた手を外すと両手の人差し指をツンツンしだす。

「ひどいんだよ、私の事をバカとか頭の中がお花畑で出来ているとか直ぐに言うんだから、失礼しちゃうわ」

 とプンプンと怒り出したかと思うと、

「それはね、私だって自分がバカだと思うし頭の中がお花畑で出来ているという自覚はあるのよ・・・あるけどさ、人に言われるのと自分で思うのって全然別だと思わない?」

 と聞かれ、ミドリ達はどう答えていいか判らず、全員が目を逸らす。「何の話?」と思いながら。

「う~っ、皆ひどいよ」

 お姉さんが少し涙目になった。

「そうそう、お姉さん忘れていた」

 ミドリが咄嗟に話題の切り替えをする。

「お姉さんお名前、なんて言うんですか?

 聞くの忘れていたから」

 と聞かれ、お姉さんが困った顔をしてアカネと白糸を見る。

「仕方ないわね、実物を見せた方が早いんじゃない」

 とアカネに言われ、お姉さんは溜息をつくと、

「仕方ないか」

 と溜息交じり覚悟を決める。

「私の名前、聞いても判らないと思うけど言うよ」

 と前置きを置く。

「私の名前は※☆と言うの」

 ミドリには何故かお姉さんの名前の部分だけ聞き取る事が出来なかった。

「あのぉ、名前良く聞き取れなかったんですが」

 愛虹がおずおずと聞いた。

「愛虹ちゃんも?」

「私もだ」

 アオイも追従した。

 お姉さんはやっぱりねと言う顔をする。

「じゃあ、今度はそこのスクリーンに表示させるからよく見ていてよ」

 お姉さんがメインスクリーンを指差すと、メインスクリーンに電源が入り文字が表示される。

 しかし、表示された文字も

{私の名前は▽λです}

 と名前の部分だけ意味不明な表示になっていた。

 お姉さんは盛大に溜息をついた。

「と言うわけで、私の名前はこの世界に拒否されているみたいなのよね、なんでだろ?

 因みに紙に書いても同じだけど、見たい?」

 ミドリは首を横にブンブン振る。

「今まで通り、お姉さんと呼んでね、と言っても私の方が本当は年下なんだよね。

 私は起動してから10年だから、人間で言えば10歳になるのかな」

 お姉さんはえへへと笑う。

「さてと、それじゃ私はこれからヴィオレットのお昼を作りに行くね」

 と部屋を出て行こうとしたのを、

「ちょっと待って下さい」

 ヴィオレットが呼び止めた。

「あなたは何故、わたくしに構うのですか?」

 と問われてお姉さんは、何故そんな事を聞かれるのか判らないように首を捻る。

「えっと、せっかくお友達が出来たのに病室で一人、エレペットを操っているのって寂しいと思ったから・・・かな?」

 自信なさげに答える。

「そんな理由でわたくしを振り回していたのですか」

 ヴィオレットが握りこぶしを作ってワナワナと震わせる。

「そんな理由じゃないよ、私、寂しいのは嫌だから!

 寂しいのは悲しいから・・・だから、だから放っておけないの!

 私の胸が締め付けられて辛いから・・・」

 そこで一旦言葉を切ると、

「私のわがままなのは判ってるけど、私バカだから・・・お節介焼くしか思いつかないの。

 ヴィオレットに笑っていて欲しいし、ミドリやアカネや白糸や他の皆にヴィオレットと仲良くして貰いたいの」

 涙目で心の内を吐露する。

 ヴィオレットが何かを言いかけたが、それより早く拍手が響く。

「素晴らしいですぞお嬢さん、わがままなどととんでもない。

 感謝いたしますぞ」

 ジョセフが深々と頭を下げた。

「ジョセフ、何故頭を下げるのですか」

 ジョセフはヴィオレットの方に向き直ると、

「社交界ならば色々と体面がございます故、エレペットでその場をやり過ごすのも致し方ないでしょう。

 しかし、この方達はこれから供に戦う仲間、いわば戦友です。

 戦友にいつまでも偽りの姿で接するのはいかがかと思っておりました」

 ジョセフの言葉にヴィオレットは次の言葉が出てこなかった。

「そうね、寂しいのはやはり悲しいよね」

 事態を見守っていたアカネがようやく口を挟む。

「私も事故で二年入院していた時、お見舞いに来てくれたのは社長とこいつだけだった」

 とアオイの方を見る。

 アオイは少し顔を赤くして「フン」とそっぽを向く。

「両親に見捨てられたと思った時は流石にへこんだわ。

 でもそんな私を支えてくれたのは社長だった・・・女の子のお見舞いにイチゴ大福はどうかと思うけど」

 そのイチゴ大福を心待ちにしていた自分がいた事を思い出してアカネが苦笑する。

「だからヴィオレット、もっと自分を出してもいいと思うよ。

 馴れ合わなくてもいいから、お互いに背中を預ける戦友として宜しくお願いね」

 ヴィオレットが言葉なく下を向く。

「宜しくな戦友」

 アオイが肩を叩き、

「よろじく、おねがいじますぅぅ」

 白糸が感極まって半泣きでヴィオレットの手を取る。

 それに戸惑いどうしていいか判らず、ヴィオレットはジョセフの方を見た。

 ジョセフは笑いながらうんうんと頷いた。

「よ、宜しくお願いしますわ」

 恥ずかしそうに頬を染めて小さな声でそれだけ言うのが精一杯だった。

 その様子を見てお姉さんはそっとクランルームを後にし、ジョセフは不要となったエレペットを部屋の隅へと運ぶ。




「はいはい、バカをやってないでそろそろ時間よ。

 白糸、ポッドに乗り込んで」

「はい」

 白糸は元気よく返事をすると勢いよくクランルームを飛び出して行った。

 

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