赤髪舞う その3
白糸のバルチャーの名を白雪という。
雪のように真っ白な道着に桜色の袴を履き、赤い長い髪を白い紐で束ねた精悍な顔立ちのバルチャーだ。
「いよいよ出来たのですね」
モニターに映し出された白雪を感慨深げに白糸は見つめた。
基本コンセプトとデザインは既に出来上がっていたので、暫定的にその機体で練習はしていた、とは言っても暫定は暫定。
本番の機体ではない、それが白糸の中でわだかまりとなっていたのだ。
アカネもそれは判っていたので何とかしようとしていたが、、白糸の高い能力を生かし切れずに悩み続けていたのである。
「うまく使えば、躰道やカポエラの技も使えると思う」
アカネは最終調整した機体について「少し操作方法が代わったから」と説明しただけだった。
しかし、白糸は躰道やカポエラの技が使えるという言葉に心を躍らせていた。
今までの機体スペックではまねごと程度は出来ても、とうてい試合で使い物になるレベルでは無かったからだ。
アカネが使えると言った以上、試合で十分に通用するレベルと言う事。
「あんたは頭で考えるより身体で覚えるタイプだからね、ガンガン練習して身体に覚えさせていくよ」
「宜しくお願いします、師匠」
説明を受け、白糸はモニターに映る白雪の可能性に更に心躍らせる。
「服部のような試合を私もしたいな・・・」
と心の中でミドリの初試合の映像を思い浮かべる。
「本当にあの試合は良い試合であった、自分にそんな試合が出来るのか・・・機体も仕上がっていない、なのに初試合の時は刻一刻と迫ってくる」
そんな不安がミドリの試合の後、心の奥底でくすぶっていた。
ようやく待ち望んでいた機体が完成して目の前にある。
安堵感が広がり、自分の心の奥底にあった不安が消えていく。
「時間が無いわ、とにかく練習よ。
白糸、ポッドに入って」
「はい、師匠」
白糸はポッドに乗り込み、白雪を起動させる。
「訓練用バルチャー出すわよ」
白糸に白雪の操作に慣れて貰う為に訓練用のバルチャーを使うことにした。
操作に慣れてきたら自分やアオイが相手をするつもりだが、今は白糸の設計で無理をしてきたので体力的にキツい。
アオイもしばらく自分の試合の調整があるので無理はさせられない。
白糸には勝って貰いたいが、監督としての立場からチーム全体の事を考えなければならないのだ。
ランダムで選ばれたバルチャーは剣士型だった。
剣道三倍段と言われ、空手や拳法などは長物を持つ相手に三倍の段数が必要とされる。
「初っぱなからいい相手が出た」
ランダムで選ばれるのでアカネにも、登場してみなければどんなバルチャーが出るか判らない。
選んで出すことも出来るが、試合になればこちらで対戦相手を選ぶことは出来ない。
敢えてランダムにして、対戦相手を選べない状況に慣れさせる目的もあったのだ。
もっとも、白糸の対戦相手は既に発表されてプロフィールも公開されていたのだが。
対戦相手の名はウィーラ・ブルックリン、アメリカ男性とタイ女性の二世だ。
ウィーラはタイで学生ムエタイの大会で何度も優勝し、大学を卒業したらプロになると思われていたが、アメリカのナイト・クラン・ウォーのクランにスカウトされ大学を中退してアメリカに渡った経歴の持ち主だった。
勿論、白糸と同じくデビュー戦となる。
「ウィーラか、懐かしいな」
ウィーラは幼い頃に父親と一緒に富士野道場に一年ほど滞在した事がある。
短いとは言え、供に学んだ同門生なのだ。
「白糸、話聞いてる?」
アカネに怒鳴られてはっと我に返る。
「済みません、済みません、少し考え事をしていました」
平謝りに謝る白糸。
「さっきも説明したけど、操作が今までの機体と違うからまず慣れることに集中して」
モニターからアカネが指示を出す。
「はい」
元気よく返事をして白雪を起動させ軽く動かす。
「軽い、今までより機体の動きが軽くなってます」
軽く動かしただけなのに今まで練習してきた機体と反応が違い、白糸が驚きの声を出す。
「動きを良くする為に装甲を削ったからね、代わりに装甲は黒猫丸と同じく紙よ。
攻撃は全て避けるか捌くかしてね」
軽い感じで無茶ぶりするアカネであったが、
「はい」
と白糸は素直に返事をする。
元より格闘技は自分の身を守るは胴着一枚、相手の攻撃を当てさずに自分の攻撃を当てるを信条としているのだ。
「いい返事ね、防御が下がった分、補う武器を追加したから使ってみて」
白糸は言われるままにボタンを操作すると、胴着の袖口から扇子が飛び出してきた。
大きさは日本舞踊に使われるサイズ、と言っても白雪のサイズで比較した場合だが、とても戦闘向きとは言い難かった。
「それ以上大きくすると重量的に厳しくなるから」
「いえ、充分です」
稽古で戦扇は何度か使ったことがある、戦扇に比べてかなり小ぶりであるが動きが鈍くならない方が白糸にはありがたかった。
「じゃあ、練習始めましょうか」
合図のブザーが鳴り終わると同時に相手のバルチャーが剣を構え、白雪も構えを取る。
相手は間髪入れず剣を振り下ろしてきた、が、白雪は流れるような動作で相手の右側面に回り込むと、扇子の先を脇腹に叩き込み、そのまますり足で剣の間合いから離れる。
「何か・・・変だ」
白糸は白雪の動きに違和感を覚える。
確かに全体の動きは軽くなっているのだが、踵だけ鉄下駄を履いて試合をしているような変なバランスの悪さを感じたのだ。
「師匠、白雪の動きが、どことなくバランスの悪さを感じるのですが」
白糸の訴えにアカネはニマッと笑う。
「気が付いた?
流石に白糸ね、褒めてあげるわ」
「ありがとうございます」
何を褒められたのか判らなかったが、褒められて素直に喜ぶ白糸であった。
「バランスが悪いと感じたのは踵の所為よ、試しに訓練用バルチャーに踵落としをしてみて」
言われて、あっさりと決めてしまうのが白糸の凄いところだ。
かかと落としを食らったバルチャーの頭は粉砕され、その時点で機能停止する。
「こ、これは」
白糸が驚きの声を上げ、アカネは満足そうに笑う。
「ふふふ、踵は凶器レベルに強化してあるから、後はそれをどう生かすかは白糸次第よ。
まあその分、踵が重くなっちゃったけど。
それがバランスの悪さの原因、でも白糸なら何とか出来るって信じているから」
「いえ、重さは立派な武器ですからそれを生かすように精進します」
どこまでも生真面目な白糸であった。
白糸の言ったように重さは充分武器となる、バルチャーの身長はおおよそ人間の十倍に設定されている。
身長が十倍になるとその質量は千倍。
一部を除いて現実の物理法則が適用されるナイト・クラン・ウォーでは質量は大きな武器となる。
それを生かさない手は無い、そんな理由でナイト・クラン・ウォーで接近戦のバルチャーが多かった。
「ついでにホバーも使ってみようか、推力重視にしたから脳筋女の機体みたいに常時使えるわけじゃないけど、ここ一発ダッシュの時に威力を発揮するからね」
と言う説明をされても白糸にはさっぱりだ。
「え~と・・・そうそう、躰道とかカポエラのあの変な動きをする時に使えると言うこと」
はてなマークを頭の上にいくつも出している白糸に、判りやすく説明する。
「成る程、踵落としの時に使えば更に威力が増すと言うことですね」
流石に武道バカの白糸である、武道に結びつけて説明されれば早速、応用方法を思いつく。「流石武道バカ、私はそこまで思いつかないわ」
格闘技に関してはそれほど造詣が深いわけではない、せいぜいナイト・クラン・ウォーの世界で生き抜く為の最低限の知識を持っている程度だ。
ここ数日は白雪完成の為に本気で勉強した。
所詮付け焼き刃、白糸のような発想は直ぐには出てこない。
ホバーを使うことを思いついたのもジョセフの助言が無かったらたどり着くのにもっと時間がかかっただろう。
「それじゃあ、ホバーの使い方を教えるから」
アカネは白糸にホバーの使い方をレクチャーする。
「使い方はこんなところね、後は練習して勘で使えるようにしよう。
頭で考えるより、身体に覚えさせる。
それで始めて自分の物になるから」
アカネの言葉に「はい」と答える白糸。
「それじゃあ、時間が惜しいから連続出撃モードにするから。
倒した端から出現するから気を抜く暇はないわよ」
連続出撃モードにしてバルチャーの出撃スイッチをクリックする。
今度は槍を持ったバルチャーが出現する。
出現と同時に白雪に向かって槍の連檄を放ってくるが、白雪は扇子を使って全ての攻撃を捌ききってしまう。
「早いですが、単調でしかも重さがない」
白雪が扇子を突きつけ指摘する。
しかし、相手のバルチャーはそれにかまわず次の攻撃に入った。
「あなたの攻撃は私には通用しませんと言ったでしょ」
白雪が軽く槍の穂先を叩いたようにしか見えなかったが、槍はあらぬ方向に吹き飛び、白雪は一歩踏み出すと同時に相手の胴体目がけて扇子を突き出す。
それで相手のバルチャーは機能停止し、電子の海へと消えたと同時に次のバルチャーが現れる。
次に現れたのはガンマンタイプ、現れると同時にやはり白雪に向かって銃を構えてぶっ放す。
が、白雪は扇子を広げて飛んできた弾丸を逸らす。
白糸に弾丸が見えているわけではない、相手の持っている銃が手動で撃鉄を起こしてから発射するダブルアクションなので銃口の向きと撃鉄の落ちるタイミングを見て予測しているだけだった。
それでも一般の人間に出来る芸当ではない、それを難なくこなしてしまう白糸の高い動体視力と身体能力の賜物である。
「扇子はもういいから、ホバーの方をメインに使って」
白糸の扇子捌きは非の打ち所がなかったので、不慣れなホバーの練習をするようアカネは指示を出す。
「はい」
と返事はした物の、明らかに白雪の動きがぎごちなくなり、現れた訓練用のバルチャーにボコボコにされる。
「白糸、動きが変になっているよ」
「は、はい・・・師匠、うまく出来ません」
泣きそうな声で白糸がアカネに助けを求めた。
「もう、あなたって子は」
慌ててアカネは訓練用のバルチャーを停止させる。
白糸は格闘に関しては天才であったが、機械操作は苦手だった。
ここに来た最初の頃も、バルチャーをうまく動かせず操作を覚えさせるのにアカネは散々悪戦苦闘する羽目になったのだ。
ただ、一度コツを飲み込むとめきめき上達して、既に並のバルチャーなど瞬殺するほどになっていた。
「とにかく慣れよ、あんたの場合頭で考えて動かしている間はダメだから・・・簡単な操作か行きましょう」
アカネは停止させた訓練用のバルチャーを消去して白雪だけにした。
「取りあえず、その場ジャンプから始めましょう」
「はい」
「何も考えずに真っ直ぐ立ってホバーを使ってジャンプして」
言われるままに白糸は白雪を直立させホバーのスイッチを押す。
袴の裾が大きく膨らみ白雪が膝の高さまで浮き上がり直ぐに落下する。
白雪の巨体を一瞬とは言え、膝の高さまで浮き上がらせるとはかなりの出力である。
「し、師匠、出来ました、出来ました」
嬉しそうにはしゃぐ白雪。
「やれば出来る子なんだから、慌てずにひとつひとつ出来ることを増やしていきましょう」
「はい、師匠」
「それと、ホバーを全力で使うとチャージに5秒かかるから、本番では出力はよく考えて使うのよ。
と言っても、あんたは勘で動く子だから考えない方がいいのかぁ・・・」
悩ましいところであった。
白雪に搭載されているホバーは、空気をタンクに一旦圧縮してノズルから吹き出すタイプだった。
ホバーと言うよりジェットに近いが、通常のホバーに比べて軽量で高出力が得らる上、出力の調節がしやすいという利点がある。
ただ、タンク内の圧縮空気が無くなるとチャージが完了するまで使用不能になるので、常に一定以上の圧力を保たなければならいのが欠点だ。
白雪のように格闘タイプには蹴りやジャンプの補助として使うのに適していた。
「チャージが終わったらまたジャンプして」
それから白糸は何度もジャンプの練習をさせられたが、次第にジャンプの高さを低くするように言われ、ついには薄布一枚程度の高さのジャンプが出来るまでになった。
「よし出来た、ホバーの出力調整もかなり慣れたでしょ」
「はい、一時期はどうなるかと思いましたが出来るようになりました。
これも師匠の指導の御陰です」
白糸はキラキラする目でアカネを褒め称える。
「私もこの子の扱いに大分慣れてきたな」
と内心で思いつつ、笑顔を崩さないアカネ。
「じゃあ、次はアクションを交えてホバーを使えるようにしましょう。
白雪を普通にジャンプさせて飛び上がる寸前にホバーで補助するのをやりましょう」
「はい!」
返事と供に白雪をジャンプさせ、ホバーのスイッチを入れた瞬間、白雪の足があらぬ方向に跳ね上がり派手に転倒する。
「じじょう~~~~」
白糸は泣きそうな顔になり、アカネは「白糸はやれば出来る子、白糸はやれば出来る子、白糸はやれば出来る子」と念仏のように呟いていた。
それからアカネは忍耐に忍耐を重ねて白糸を指導し、ジャンプに合わせてホバーを使えるようにした。
一度コツを覚えてしまうと、次々に応用技を編みだし、瞬く間にホバーを使った空中回し蹴りまで出来るようになったのにはアカネも驚いた。
「コツを掴むまで時間がかかるけど、コツを掴んでしまえば次々と応用技を使えるようになるとは、100年に一人の天才の名は伊達では無いわね」
流石のアカネも舌を巻く。
「それじゃあ、バルチャーを使った実戦で使っていきましょう」
アカネは止めていた訓練用のバルチャーを再出撃させる。
現れたのは棒術を使うカンフータイプだった。
今までのバルチャー同じように出現と同時に白雪に向かって鋭い棒の連檄がふってきたが、白糸は扇子で難なく捌くと、相手の懐に入り込んで相手の体勢を崩すし片足ホバージャンプから出力を最大にした空中回し蹴りを叩き込む。
相手のバルチャーは咄嗟に棒でガードしたが、白雪の回し蹴りはガードした棒をへし折りそのまま相手の頭部に強烈な一撃を入れた。
相手の頭部が変な方向に曲がっているのを見て白糸の表情が一瞬固まる。
アカネは白雪から送られてくるデータの方を見ていてその瞬間を見ていなかった。
それが後で困った事になるとは知らず。
「おお、凄い威力だわ」
アカネは回し蹴りの威力に大いに喜ぶ。
「は、はい・・・ありがとうございます」
白糸の返事が少しぎごちなかったが、それはいつもの事なので気にしない。
「とは言え、ホバーの全力は白雪へのダメージも大きいから使うのはここ一番の時だけね」
回し蹴りの衝撃で白雪の方も足にそこそこのダメージを負ったのだ。
「まっ、そのあたりの勝負の駆け引きは私がとやかく言わなくても、白糸の方が判っているだろうから」
それを聞いて僅かにぎごちなさのあった白糸の表情が緩む。
「はい、頑張ります」
元気よく返事をする。
「それじゃあ、手加減しながら空中回し蹴りの練習をしましょう」
その言葉に白糸はホッとする。
アカネの言葉通り、間断なくとバルチャー出現し、最初の内はホバーの圧力調整に苦しんでいた白糸だったが、次第に細かい調整が出来るようになり、五体目あたりからは出力調整に馴れてきて練習用のバルチャーでは相手にならなくなる。
「空中回し蹴りはここまでね、それじゃあ、今度はホバーを使った二段ジャンプからの踵落としをやってみようか」
「はい!」
元気よく返事する白糸、そしてあらぬ方向へ吹き飛ぶ白雪・・・頭を抱えるアカネ。
いつも通りの光景だった。
「白糸、少し変じゃない」
数日後、白糸の練習に付き合ったアオイがアカネに聞く。
「やっぱりあんたもそう思う」
アカネは溜息交じりに返事をする。
「この間からここ一番と言う時に力が抜けちゃうのよね」
その御陰で躰道の大技も思ったほどの威力を発揮出来ずにいるのだ、その技を出す為にホバーを装備したのに本末転倒になってしまっている。
「何か思い当たる事は無いのか?」
アオイに聞かれてアカネはしばし考える。
「あれかな?」
思い当たる節は一つしか思い付かなかった。
「あれの次の日からなんか変だったし」
白糸が空中回し蹴りで練習用のバルチャーを派手にぶっ壊した事をアオイに話す。
「そうだな、それはあるかもな」
アオイも腕組みして考え、それから答えた。
「あいつ、以外と優しいところ有るから」
「おじいさんと二人暮らししているのも、両親とおじいさんが揉めておじいさんが一人になるのが可愛そうだからって残ったんだろ」
「ぶっきらぼうで自分を表現するのが下手だから誤解されるんだけど、根は優しくていい子なのよね。
もう少し人付き合いが良ければね」
アカネは心配するような声を出す。
「お前も人の事言えないだろ」
アオイはすかさず突っ込みを入れた。
「うっさいな、判っているから最近は気をつけているのに」
昔に比べれば傍若無人さは確かに控えめにはなった、あくまでも昔に比べてた評価ではあるが。
「しっかし、白糸はどうするよ。
あの手のタイプはトラウマ抱えると直すのは大変だぞ」
アオイの言葉にアカネも溜息をつく。
「そうなのよ、あの子、根が不器用だから。
時間を掛ければ何とかなるでしょうけど、試合はあと数日だし・・・やれるところまでやるしか無いわね」
「それしか無いか、私も出来る限り協力するよ」
「ありがとうと言いたいけど、あんただって試合が近いんだからそんな暇は無いでしょ?
今日だってわざわざ時間を調整して白糸の相手をして貰ったんだし」
アオイの試合も来来週に迫っているので、本当ならば白糸の相手をしている暇は無い。
今日も、白糸の不調を見て貰う為に時間を割いて貰ったのだ。
「なんとかするさ、可愛い後輩の為だ」
とアオイはガハハハと笑う。
「あんたの面倒見の良さはこんな時、本当に助かる」
アカネは素直にアオイに感謝した。
「うっせぇ、そういうお前だってあいつの為にかなり無理したって聞いたぞ」
見る間にアオイの顔が赤くなり、照れ隠しに怒鳴った。
「私はこのクランの監督だもの、クランの為に頑張るのは当然だわ」
さも当然の事をしているまでと言う表情でアカネが応えた。
「でもこのままじゃダメね」
「そうだな・・・」
二人してしばし考え、
「シゴクしかないわね」
「シゴキ倒せばなんとかなる」
二人の意見は一致した。
なんだかんだ言ってこの二人の根っこの部分は同じなのだ。
「ひぇぇぇぇぇ」
白糸の悲鳴がクランルームに響く。
「おらおらおら」
アオイの操るDWから火球が連続発射される。
白糸は悲鳴を上げてそれをギリギリで回避すると、ホバーとジャンプを使って間合いを詰めた。
DWは中距離戦を得意とするバルチャー、白雪は格闘用のバルチャーだ。
離れていては一方的に攻撃されるだけなので自分の間合いに距離を詰める必要がある。
「狙いはいいな、でも甘いぜ」
その言葉が終わると同時に白雪は背中から攻撃を受け僅かによろける。
「なぜ?火球は七発発射されただけなのに」
DWの火球は七連発で追尾性はない、なのに背中から攻撃を受けた。
「あっ、最後の奴は」
六連射で止めて最後の火球は追尾弾に切り替えたんだと、白井の頭の中で考えている僅かなスキにDWが手にしたスタッフをフルスイングして白雪の胴体に叩き込んだ。
「ふぎゃ」
変な声を上げて白雪が戦闘不能になる。
「ちょっと、シゴクのはいいけどやり過ぎないでよね」
アカネがアオイにマイクで怒鳴ってくる。
「わりぃ、わりぃ」
アオイは片手を前に出して謝った。
救護班が気を失った白糸を医務室に運んでいる間に、アオイはシャワーを浴びてから着替えを済ませてクランルームに顔を出す。
「で、どうだった?」
「ホバーの使い方はかなり上手になったな、エアーの残量管理も出来ているようだし。
ただな、やっぱりここ一番で力を加減しているな。
さっきも本気で空中回し蹴りをすれば届く距離に誘導してやったのに、間合いを詰めただけだもんな。
御陰でスタッフのフルスイングが入っちまった」
もし、あの場面で白糸が本気で攻撃していればスタッフがフルスイングされる前の間合いに入れたので、操縦席部分に大打撃を貰わないで済んだのだ。
「やっぱり、ダメか」
アカネは肩を落とす。
「それよりそっちこそ例の技は使えるようになったのか?」
アカネは首を横に振る。
「形だけは真似出来るけど、威力はまるで無いわ。
とても試合で使い物にならない」
「そうか・・・」
それを聞いてアオイも溜息をつく。
「本当に器用なんだか不器用なんだかよく判らない奴だな」
「そうね、壁があってその壁を越えるのにもたつくけど、その壁を越えた途端に前を走っていた人間をそれこそあっという間に追い越していくタイプなのよね」
アカネが少し嬉しそうに白糸の話をする。
「なんだか嬉しそうだな」
「手のかかる子ほど可愛いというのは本当かも。
ミドリちゃんの場合は手を掛けた分だけしっかり応えてくれて楽しいけど、白糸の場合は反応が返ってくるのに時間がかかるけど一緒に壁を乗り越えていく楽しさがあるわ。
でも今回の壁はなかなか難物ね」
「だな、白糸の本質に関わる部分だから白糸自身が解決しないとダメなのかもな」
アオイはソファーに勢いよく座ると頭の後ろで手を組んで天井を見上げた。
「使えない技にこだわっても仕方ないし。
使えるブースト踵落としと空中回し蹴りを仕上げていきましょう」
方針が決まり、その後は方針に沿って白糸の練習が続き、やがて試合当日となった。