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忍者の初陣-その3

「小手調べは終わった!黒猫丸の本気を見せてやる」

 先程より強くアクセルを踏み込み、ミドリの身体がシートに沈み込む。

 黒猫丸の最大加速時のGは6Gである、これはゼロヨン用にチューニングされたバイクの加速に匹敵する。

 人型マシンとしては破格の加速度であるが、機体への負担も大きく最大加速が出せない様にリミッターが掛けられていた。

「ナナコ、リミッター解除」

「了解、リミッター解除します」

 スクリーンに青い黒猫丸のマークが表示され、そのマークの青い部分が上から徐々に減り始める。

 青い部分がある間だけリミッターが解除されているのだ。

 ミドリは一気にアクセルを踏み込むと、加速圧による脳の血液不足を防ぐ為にスーツが身体を締め付けてくる。

「うっぐ」

 ミドリがうめき声を上げるが、瞬く間にアシエ・ガルディアンの目の前にたどり着き、急ブレーキと供に横移動、短かくダッシュしてランス側に立つと忍者刀でアシエ・ガルディアンの腕の関節を滅多斬りし、ランスが動き出すのを見て一旦離脱。

 今まで自分がいた場所にランスが振り下ろされる瞬間、忍者刀を頭上に放り投げランスのギリギリ横を通ってアシエ・ガルディアンに肉薄すると、スタングレネードを顔に向かって投げ振り下ろされたランスの横を通って後方へダッシュし、落ちてきた忍者刀を受け止め素早く鞘に戻す。

 スタングレネードが激しい閃光と電磁波をまき散らす。

 その閃光の中に突っ込むみ、更にスタングレネードを顔に向かって放り投げると離脱。

「リミッター解除終了」

 ほぼ同時にリミッター解除状態が終了した。

「ほひ~~~っ」

 二つ目の閃光が顔から滝の様に流れる汗に反射した。

 心臓が早鐘の様に動いているのを感じる。

 神経が研ぎ澄まされ、自分であって自分でない様な感じ・・・リミッター解除した後はいつもこうなる。

 リミッター解除した所でスーパーダッシュの様なペナルティーは無いが、無茶な高速起動をすれば操作しているプレイヤーに負担がのしかかってくる。

 これはバーチャルゲームだがプレイヤーにとってはリアル、それがナイト・クラン・ウォーなのである。


 パチパチパチ・・・


 最初は小さな拍手だった。

 静寂に包まれた会場に響く拍手。

 拍手は次第に増え、会場が割れんばかりの拍手と喝采に包まれた。

「今の攻撃どうだった?」

 ミドリの問いにアカネはにこやかに笑いながら親指を立てた。

 ミドリはホッとして相手のダメージゲージを確認する。

 後一発、スタングレネードを顔面に命中させるか頭上攻撃を決めればダメージポイントを逆転可能になっていた。

 黒猫丸が片手を上げて熱狂する観客を制する。

 何事かと観客が見守る中、黒猫丸は試合開始線まで戻ると、一つを残してスタングレネードを廃棄してしまう。

 それからアシエ・ガルディアンを指差し、指二本をクィックィッと動かしこっちへ来る様に合図を送った。

「アカネちゃんが通信装置削るから面倒くさい」

 ミドリがアカネに文句を言う。

「仕方ないでしょ、デフォルトで付いてくる装備をポイント化すると結構良いポイントになるんだから」

 相手との通信装置をポイント化した御陰で、意思疎通は身振りで行うしか無かったのだ。



「おい、スーパーダッシュは?」

「もう使えるじゃね?」

「・・・・と言う事は?」

 ざわめく観客達。

「もしかして真正面から一騎打ちをやろうって言うのかな・・・」

 戸惑っていた観客達がようやくミドリの意図に気がつく。

「うぉぉぉ、やるじゃねえかあいつ」

「これは燃える!」

 会場が更に盛り上がる、

 やがて場内は、

「一騎打ち!」

「一騎打ち!」

「一騎打ち!」

 のコール一色に染まっていった。

 そのコールの中、アシエ・ガルディアンが動いた。

 開始線へ向けて歩き出したのだ。

 つまりミドリの誘い乗ると言う事。

 更にヒートアップする会場。

「やるな」

 アオイが諸手を挙げて喜ぶ。

「でもさ、はじめから一対一で戦ってんだから今更一騎打ちというのも変じゃね?」

「いいんじゃない、ノリよノリ」

「はい、勝負事にノリは大切です」

「うん、うん」

「だな、じゃいっちょ乗っかるか」

 アオイのかけ声と供にクランルーム内も「一騎打ち!一騎打ち!」と盛り上がる。

 熱気も徐々に鎮まり、会場内が静まって行く中、ようやくアシエ・ガルディアンが開始線へと到着する。

 さっきまでの熱狂が嘘だった様な静寂が場を支配する。

 観客やクランルーム内が固唾を飲んで見守った。

 方や白銀の巨体のアシエ・ガルディアン、方や忍者装束に身を包む黒猫丸。

 真剣勝負に挑む侍の様に両者は対峙し、動く時を探る。


キーン


 静寂を破るかの如く、甲高いモーター音が鳴り響いた。

 同時にアシエ・ガルディアンの姿が消え、黒猫丸が横へ飛ぶ。

 飛んだ後、黒猫丸は更に軌道を変えて飛ぶ。

 ミドリはランスで軌道を変えて来たアシエ・ガルディアンの姿をしっかりと捉えていた。

 そして、目の前で更にランスと盾の遠心力を使って方向転換をするを見て咄嗟に盾の来る方に黒猫丸を飛ばす。

 盾に衝突して左の肩パットが粉砕されるが黒猫丸は盾の上を転がり、そのまま反対側へと着地する。

 目の前には硬直で動けなくなったアシエ・ガルディアン。

 忍者刀を引き抜くと一気にアシエ・ガルディアンの身体を駆け上がり、肩車をする様に足を首に巻き付けるとアシエ・ガルディアンの目に忍者刀を突き立てから抜き、忍者刀を投げ捨てると開けた穴に最後のスタングレネードをねじ込むと飛び降りる。

 黒猫丸が着地するのと同時にスタングレネードの閃光がアシエ・ガルディアンの頭部を包み込んだ。

 ミドリはそのまま投げ捨てた忍者刀を拾うと鞘に収める。

 唐突にファンファーレと供にスクリーンに「WIN」の文字が表示され面食らう。

「おめでとうミドリちゃん、勝ったわよ。

 相手が戦闘不能を宣言したわ。

 今の攻撃でセンサー類が完全に潰れたみたいね」

 アカネの祝福の言葉がひどく遠くで言っている様に聞こえた。

 勝って嬉しいはずなのにその感情すらわかない。

「ワタシ・・・」

 唐突に目の前が真っ暗になり、そこから何も判らなくなった。




 甘い匂いが鼻の奥をくすぐり、楽しそうな鼻歌がミドリの意識を呼び覚ました。

 目を開くと見慣れた病室の天井が見えた。

 アカネやアオイにしごかれ、何度も運び込まれた病室だ。

「また私、気を失ったのか。

 なんだか懐かしいな」

 ここに無理矢理連れてこられ、問答無用でコクピットに放り込まれアカネにボコボコにされた事がひどく懐かしく感じる。

「ミドリ、目が覚めた?」

 ベッドの脇で花瓶の花をいじっていた腰まである金髪の少女がミドリが目を覚ました事に、ホッとして大きな青い瞳が微笑む。

「アカネちゃんは?」

 ミドリの問いに金髪の少女は、

「愛虹がひどく取り乱していたから、クランルームで落ち着かせている」

 愛虹が取り乱したと聞いて少し心配になる。

「アカネたちを呼んでくるから、もうちょっと寝てて」

 少女は急いで部屋を出て行ったが直ぐ戻ってきて、

「クッキーそこに置いてあるから食べてね、疲れた時は美味しい物を食べるのが一番だから」

 ニコニコ笑いながらそう言い残して去って行った。

 ミドリは身体を起こしてサイドテーブルを見る。

 そこには布巾を被したお皿と小さなポットが置いてあり、布巾の下にはクッキーが数枚並べてあった。

 鼻をくすぐった甘い香りはこのクッキーからだ。

 ミドリは一枚手に取って口に運ぶ。

 口に入れ一噛みした瞬間、バターと卵の芳醇な香りが口一杯に広がり、絶妙な甘さが舌をとろかせる。

「美味しい」

 涙がボロボロと出てきた。

 疲れ切った身体がこのクッキーによって癒やされていく魂の喜びだ。

 後はむさぼる様に残りのクッキーも平らげてしまう。

 幸せをかみしめる様にポットのコーヒーを入れたカップを口にして一息入れる。

 コーヒーを啜っていると廊下で人の走る音が聞こえ、病室のドアが勢いよく開かれた。

「ミドリちゃん」

「ミドリ」

「服部、大丈夫ですか!」

 次々と人が駆け込んできた。

「ミドリねぇぇぇちゃぁぁぁぁん」

 最後に愛虹が顔を出し、ミドリの顔を見た途端、泣きながらミドリにしがみついてくる。

「じぃんばいしたんづぁかるぁぁぁ」

 泣きじゃくる愛虹の頭を撫でながら、アカネの顔を見る。

「急に意識を無くしてびっくりしたけど、疲労が原因だろうからしばらく休ませる様に坂口さんに言われたわ」

 坂口とは会社に所属するドクターの一人だ。

 会社は数年前から医療部門にも手を広げ、社内に診療所も設けている。

 数は少ないが入院用のベッドもあり、ミドリが寝かされていた病室もその一つだ。

「まだリミッター解除には身体の方が追いついていないのかな・・・

 まっ、それは後で考えるとしてミドリちゃんは頑張った、それは確かなんだし。

 と言う事で、後でいつもの場所で打ち上げするからね」

 笑いながらアカネがそう宣言した後、しばらく雑談が続き、やがてそれぞれが病室を後にしていった。

 最後まで残った愛虹も父親と供に家路につき、ミドリは病室で一人になる。

 しばらくベッドに横になっていたが、打ち上げの時間が近づいてきたので着替えて病室のドアを開けると、ちょうど人が通りかかったところだった。

 外国人と思われる、背の高い品のいい感じの老紳士がミドリに軽く頭を下げて隣の病室に入っていく。

「隣にも誰かいるんだ」

 ふと思ったがそれ以上気にする事もなく、受付に挨拶してから外へ出る。

 打ち上げの場所は八間道路沿いの竹屋、ミドリ達が昔から愛用している老舗の牛丼屋だ。

 ミドリが竹屋に到着すると既に店内は人で一杯になっていた。

「ミドリちゃん、こっちこっち」

 アカネが手を振って呼ぶ。

 隊長席と呼ばれるコの字型のカウンターのコーナー席にミドリは座った。

 ミドリの両側の席に忙しいはずの社長とアカネが座っている。

 カウンターの両サイドの席には父が残した手下やアオイや白糸が座っていた。

「ミドリ君、勝利おめでとう」

 横から社長が優しく微笑みながら勝利を祝ってくれた。

「社長・・・大丈夫なんですか?こんな所にいて・・・」

 と囁いたところ、社長は少し脂汗を流しながら奥の方のテーブルの方を見る。

 その視線の先にテーブル席で渋い顔をしている緋色が座っていた。

「なはははは・・・」

 社長が少し引きつった笑い声を上げる。

 先に病室で何を食べるか聞かれていたので、ミドリが席に着くと直ぐに期間限定のバターチキンカレーが運ばれてくる。

 今日はアカネのおごりという事で普段食べない様な高い物を頼んでいる者もいたが、そこは牛丼屋、高くてもたかがしれていた。

 アカネは会社全体のセキュリティーの主任と同時に、ソフトウェアー部門のチーフもしているのでかなりの高給取りであり牛丼屋の支払いで困る事はない。

「それじゃあ、ミドリちゃんの勝利を祝してカンパーイ」

 アカネが水の入ったコップを持って音頭を取ると、皆も合わせて水の入ったコップで乾杯をする。

「頭領から一言お願いします」

「ミドリ、何か言え」

 突然ふられて驚く。

「わ、私?急に言われてもね・・・」

「かっこいい事言う必要ないわよ、ここにいるのは身内みたいな人ばかり何だし」

 アカネに背中を押され、ミドリは覚悟を決めて立ち上がる。

「今日は集まってくれてありがとう。

 最初、無理矢理アカネちゃんに連れて来られてボコボコにされる毎日で、この先どうなるのかと心配したけど、何とか今日は勝てた。

 負けるより勝った方が嬉しい、だからこれからも頑張るよ。

 応援よろしく」

 ミドリがしゃべり終わると一斉に拍手が起きた。

「こうしてお祝いして貰うのってなんだか照れくさい」

 そんなミドリに社長は、

「新人の初勝利なんて一生に一度しかないんだから大いに祝って貰ってかまわないさ。

 君は自分の手で勝利をもぎ取ったんだから胸を張っていなさい」

 優しく笑いかけてくれる。

「それより料理が冷めてしまう、食べよう食べよう」

 と言いながら牛丼に紅ショウガをたっぷりとのせ、その上から生卵を掛けて食べ始める。

「うーん、うまい」

 その一言につられる様に他の者達もそれぞれの料理に手を付け始めた。

 しばらくすると奥のテーブルにいた緋色が立ち上がり社長に何か耳打ちし、社長も頷く。

「みんなそのままで聞いて欲しい、今日から円卓の黒猫に新しいメンバーが加わる事になった」

 社長の言葉と同時に店の自動ドアが開き、二人の人間が入ってくる。

 一人はミドリが廊下ですれ違った品の良い老人で、もう一人はゴスロリに身を包んだ金髪の美少女だった。

「今日から仲間になるヴィオレト・ダルク君だ」


「赤髪舞う」に続く

   

                  

設定を変更したので書き直しました。2021/02/21

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