第七話 オープンソース
開は笑っている。不敵に笑っている。火魔法の少女であるフィレンのファイアボールを視てから可笑しくなってしまったのだろうか。まともに戦っては勝てない相手が来ているというのにただ笑っている。
「魔法とはプログラムだったのか。これは面白い!ただ単にファイアボールという関数を呼び出しているだけじゃないか!
こんな簡単ならすぐに組める。そうか、これをこの世界の言語で表したものが魔法陣か!だが俺はプログラミング言語で書ける!環境さえあれば完璧じゃないか!」
その言葉に呼応するかのように迷宮核が開に見せる。それは新しい機能であり、開だけに与えられた迷宮の機能だった。
ダジュール
迷宮の機能を十全に利用するために提供されるクラウドサービスの集合体。アプリケーションを自在に構築、管理、デプロイすることができる。サービスを使用する時間ごとにDCが消費される。
クラウドサービス。どこかで聞いた話だ。そう開の趣味はプログラミング。開が利用していたクラウドサービスとダジュール、どちらも似通ったサービスを保有している。単なる偶然かそれとも迷宮が合したのかは謎である。どちらにしても環境は整った。
「さぁ、やるか。迷宮が俺に勝てと言っている。この逆境を乗り越えろと」
開は全モンスターを迷宮核の部屋に集め、最後に備える。開は自室へと潜りその集中を極限まで高める。開発自体は慣れていても開発環境は初めての物。開には時間がなかった。だが開はその知力を器用をフル活用する。時間はステータスで埋めればいい。
迷宮は開に呼応する。馴れた手つきでキーボードを操作する。サーバーを立てエディタを開き固有能力のオープンソースからファイアボールを模倣する。
「完成だ」
迷宮主の開ならば自由にアプリを呼び出すことができる。呼び出せばプログラム通りに魔法が発動するだろう。それは魔法陣のように書いておく必要も設置する必要もない。
『ファイアボール』
開の呼びかけに応じ、ファイアボールが起動する。開の手から小さな魔法陣が広がり一つの炎球が飛び出した。迷宮の壁は通常では破壊できない耐久力を誇る。開の自室もまた然りである。
魔法陣もプログラムも同一の事柄を書いている。違いは言語と手法だけだ。そして世界は魔法陣による魔法だと誤認する。
「後は威力を調整して、どう当てるかだな」
ただ単に魔法を放つだけじゃ確実性がない。一度外せば開に待っているのは一方的な死だ。悩む開の視界に一つの死体が目に映る。
「そういえばゴブリンの死体を持ち帰っていたな...これは使えるんじゃないか?」
開の持ちうる要素の点と点が繋がっていく。
「奴らは俺を探してる。ならば餌を用意してやればいい『ファイアボール』」
開はゴブリンの死体を黒焦げにする。そしてそれを運ぶ様にゴブリン達に命令する。
「ファイアボールを少し改良するか」
開はまたキーボードを叩く。アプリへの反映はリアルタイムに行われている。冒険者がたどり着くまでの猶予、時間いっぱいまで開は改良を重ねた。
◇◆◇◆◇
「あ、あれ。もしかして人?」
フィレンは人型の黒炭へと一直線に駆け出した。
「危ない!」
「え?」
すべて計画通りに進んでいる。無防備に近づくフィレンに対し改良を重ねたファイアボールが放たれる。
『ファイアボール』
右手から放たれるはずのファイアーボールはフィレンの周りを取り囲む様に出現する。そしてそのままフィレンへと向かった。
「うそ、嘘でしょ。どうして!死なないで!」
開が見たのはフィレンを庇うルドルフの姿。そこに浮かべるのは予定外に強力な相手を撃破できた喜びか、それとも身を張って女の子を守ろうとする男の眩しさに眩むのか。
開は集めた魔物達を全て向かわせる。
「ありがとうルドルフ。貴方のことは一生忘れない!」
「よい、ぼうけんしゃに...」
ルドルフをゴブリンが取り囲み様子を見る。ゴブリンの波を割って出て来たのは黒髪の青年。開だ。
開は手を叩きながら前に出る。
「素晴らしい自己犠牲精神だ。何故そうまでしてあの子を守る?」
「おとこは、かよわき、じょせいをまも、る。そ、うか、おまえは...だんじょんのあるじか。ごぶりんのぎせいしゃは、いなかったのか。よかっ、た...」
「死の淵だというのによく喋る。もう眠れ。楽にしてやる」
開はナイフを突き立てた。
「ルドルフ、素晴らしい人間だ。こんな奴がいるなんてな。あぁ俺は悪だ」
開は自室へと戻って行った。
「気持ち悪い。肉を断つ感触が、血の匂いが、何より人間を殺してしまえるこの俺が」
開の手は震えている。争いとは無縁の普通の高校生がなぜこうも簡単に人を殺せるのか。どこかネジが飛んでしまっているとしか思えない。異世界に来てわずか数日、開は自身の変化を恐ろしく感じているのだろう。




