第六話 侵入者に立ち向かえ
薄暗い洞窟の中、日の当たらないせいかどこか肌寒い。彼らしか知らない迷宮だと言うのに彼らに喜びはなく心配、怒り、そんな感情が見て取れる。
彼らは冒険しに来ているのではない救助しに来ているのだ。
「今頃ゴブリン共に酷いことされてないかしら?」
火の魔法を操りゴブリン達を火だるまにする彼女はフィレン。開がゴブリンに連れ去られたと勘違いしている。
「黒髪の青年であったな。きっと助け出してみせる」
「そう、後ろ姿しか見てないんだけどね」
そう正義感を満ち溢れさせて言うのは全身を金属の鎧で包んだ戦士、ルドルフである。その言葉を言うだけの実力がある。
彼らは初めの分かれ道で行き止まりの道を進んだため戻り別の道を進んでいる。
「先ほどと打って変わって魔物が全くいないようだ」
「これなら楽勝だわ!先を急ぎましょ!」
フィレンは魔物がいないことを理由に先を急ぐ。迷宮とは行動一つで命の危険がある場所だ。水分、食料の補充もままならない。魔物、罠、時には同じ冒険者にも気を張り続けるそんな過酷な場所だ。ではそこで油断すればどうなるか。
「危ない!」
「キャアァァ!」
曲がり角で落とし穴にかかるフィレン。先の見えない曲がり角は特に注意するべき箇所だ。無残にも竹槍に串刺しにされるかと思われたが、間一髪ルドルフの手が間に合った。
「もう大丈夫だ。引っ張り上げるぞ」
「う、うん」
ルドルフがフィレンを穴から引っ張り上げる。フィレンは既に息も絶え絶えと言った様子だ。だがフィレンにはやるべきことがある。ここで立ち止まるわけにはいかない。
「ありがとうルドルフ。迂闊だったわ」
「あぁ気を付けた方がいい。私がいなければ死んでいた。ここは迷宮。常に危険と隣り合わせなんだ。ここからは私の前に出ないようにしてくれ」
フィレンが大人しくルドルフの後ろに回ったことで迷宮を順調に進んで行く。魔物もおらず迷宮も出来たて、経験のあるルドルフは難なく進んでいた。
そしてたどり着いたのは水の湧き出る小さな泉とその周りに生い茂る薬草畑の広間だ。
「すごいこんなに薬草が生えているなんて。あんなに苦労して薬草を集めてたのに」
「私も駆け出しの頃は薬草を集めてクエストをこなしていたよ。懐かしい思い出だ」
新米冒険者からしたら生唾を飲む光景だ。冒険者が誰でも通る道を楽にこなすことができるのだから。だが思い出話に花を咲かせている場合ではない。
「水も冷たくて気持ちいいけど休んでいる場合じゃないわ。行きましょう」
「あぁ時間が勝負だ。急ごう」
二人は大広間へとたどり着く。魔物のいない迷宮などただの迷路だ。罠も落とし穴だけでは通用しない。
さてここで一つ雑学だ。魔法使いというのは遠くに狙いをつけることが多い。大半が遠距離で戦い的が近づく前に倒すのがセオリーだ。その影響か魔法使いは目がいい人が多い。そう言った説がある。
フィレンは大広間の中央に震える指先を指す。
「あ、あれ。もしかして人?」
魔法使いのフィレンは真っ先に見つけてしまった。人型の黒炭を。フィレンは人型の黒炭へと一直線に駆け出した。
「危ない!」
「え?」
フィレンへと迫るいくつものファイアボール。奇しくも状況は先ほどと同じ。違いは落とし穴か魔法かだけ。
「もう大丈夫だ」
「う、うん」
フィレンは閉じてしまった目を開ける。そこに映ったのは目を疑うような光景。ルドルフがフィレンに覆い被さり脅威から守っていた姿だった。
「うそ、嘘でしょ。どうして!死なないで!」
ファイアボールを一身に受けたルドルフは倒れこむ。
「そうだわ!早くポーションを飲んで!」
試験官のような瓶に入った青色の液体を飲ませようとルドルフの兜を取る。そこには熱で焼けただれた顔面が広がっていた。
「うっ、ひどい」
「ゲホッ...ゲホッ...に、げろ」
「そんな!私一人だけ逃げるなんてできない!もっとポーションを飲めば上げるようになるわ!」
ポーションを次々と飲ませていくフィレンだが、大人しく回復させてくれるわけがない。ここは迷宮。常に危険と隣り合わせなのだから。
奥から大量の足音が聞こえてくる。
「わ、なだ。にげ、ろ」
「でも!」
「に、げ、ろ!」
どこに隠れていたのか大量のゴブリンとスライムが湧き出てくる。よしんばルドルフが回復したとしてもこの負傷では逃げれない。そんなのはどんな馬鹿でもわかる。フィレンだってわかってる。
「ありがとうルドルフ。貴方のことは一生忘れない!」
「よい、ぼうけんしゃに...」
フィレンは雫を残して去っていく。それが最善。最も被害が少ない方法。それ以外の選択肢はなかった。
ルドルフをゴブリンが取り囲み様子を見る。ゴブリンの波を割って出て来たのは黒髪の青年。開だ。
開は手を叩きながら前に出る。
「素晴らしい自己犠牲精神だ。何故そうまでしてあの子を守る?」
「おとこは、かよわき、じょせいをまも、る。そ、うか、おまえは...だんじょんのあるじか。ごぶりんのぎせいしゃは、いなかったのか。よかっ、た...」
「死の淵だというのによく喋る。もう眠れ。楽にしてやる」
開はナイフを突き立てた。
「ルドルフ、素晴らしい人間だ。こんな奴がいるなんてな。あぁ俺は悪だ」
開は自室へと戻って行った。どこか哀愁漂うその背中に何を語っていくのか。これからの開の生き方次第である。




