第十四話 再会
木造の落ち着いた部屋。狭いが最低限の家具は配置されており、開の部屋と似通っている。違いとすればベッドを見ればベッドとわかる点だ。見ればその名称が分かる。開のように簡素なものではないようだ。
その部屋に突如として現れる二人。開と紫音だ。まるで瞬間移動でもしたかの様な出現方法。そう、紫音のもつ空間転移の力である。
「しおんちゃん。いきなり現れないでよー。びっくりするよー」
この部屋にいるのは開たちだけではない。抗議のために立ち上がるのは弓塚 璃子。クラスメイトの一人でよく紫音と共にいた。低めの身長にパーマをあてたふわふわのショートヘアで紫音とは対照的である。
「すまないな。こればっかりは慣れてくれとしか言いようがない」
璃子の抗議に対しやんわりと受け答えをする紫音である。
「あれれ開くんじゃーん。君もしおんちゃんに連れてこられた感じ?」
「あぁそうだよ」
開と璃子はクラスメイトだがあまり話す中ではない。必要があれば話すぐらいだ。開は女子全般そうだったが。
ここにきてから開の目線はただ一点に注がれている。そちらもまた開に目線を注がれている。
「よっ久しぶりだな山部」
「久しぶり開」
永遠の別れすらも覚悟した二人。想像よりも早い再開に互いに握手を交わす。
「元気そうでよかったよ」
「何とかやっとるわ。そっちはどうなん?」
「まぁぼちぼちかな」
二人の固く握手しているところにカメラのシャッター音がなる。開が音のなる方へ向くと紫音がスマホを向けていた。
「感動の再会だね。これは残しておかないと」
「おいおい何を撮ってるんだ。あとで頂戴」
「いいよ今から送ろう」
開はスマホを取り出す。互いに同じメーカーの端末で近い距離にいれば画像を共有することができる。その機能を使い画像をやり取りしている。そんな様子に山部はふとぼやく。
「なんこれ」
◇◆◇◆◇
四人では少し小さく感じる机にそれぞれ座る開たち。どうやら話し合いをする様だ。
「現在分かっている情報を共有しようと思う。みんなも知っての通り私たちは異世界に来た。開くんは知らないと思うが私は私の能力でいろんな情報を集めている。まずはその情報を共有したい」
「よろしく頼む」
紫音はこの辺りの地形、互いのダンジョンの位置、街等のことを話す。
「この大陸はアンデレ大陸というらしい。地図を見た限りではかなり広大だ。これがその地図だが私たちがいるのはこの国だ」
紫音は羊皮紙の地図を広げ左の海岸から中心に沿って大きく円を描く。
「グラム王国という領土としてはローマ帝国の最盛期の頃ほどはありそうな国だ。そして私の迷宮はここだ」
海岸から少し左の色が変わっている箇所を指す。どうやら森の中の様だ。
「フントの森というらしい。私はこの森の中に迷宮を構えている。といってもまだ迷宮を出現させてはいないんだけどね」
「俺が外に出るときは迷宮を出現させる必要があったが?」
「そこも空間転移だよ。どの辺りが地上なのかわかれば出ることができたよ」
「便利なもんだな。続けてくれ」
「そして君たちの迷宮がここだ」
それぞれの名前を言いながら場所を示す。グラム王国の中心に位置する王都から少し北の平原に璃子の迷宮。さらに北の山に山部の迷宮があるようだ。そして東の国境沿いに開の迷宮がある。
「ほぼ王国の端から端まで転移したのか。滅茶苦茶だな」
「褒めたって何も出ないぜ」
「褒めていない」
「後は自然にできた迷宮を見つけたぐらいさ。迷宮にも種類があって私たちのような迷宮核を持ち迷宮主となった物。迷宮の跡地や自然の洞窟などに魔物が住み着いた物がある。街へは行ったが図書館で本を読み情報を集めるぐらいしかしてないな」
紫音は一定期間経つまで迷宮が姿を現さないことを利用しこの世界の情報を集めている。そうすることで自身の迷宮がどの国にあるのかを知り、そして開達クラスメイトが何処にいるのかを知ったのだ。
「開くんはどうしていたんだい?」
「俺は...」
開はこちらに来てからのことを話した。迷宮を作り冒険書から日々侵入されていること。それらを配下の魔物を使い殺していること。つい最近商人となったこと。
「商人か。だからそんなに奇麗な格好をしているんだね」
「成り立てで稼げたのは運が良かったよ」
「町か。俺も行こかな」
「私も行きたーい。しおんちゃん連れてってー」
「また今度な」
人間の敵である迷宮主が仲良く町に行く。なんともおかしな話だ。そんな観光にでも行くような話をする中、璃子が避けては通れない質問を投げかける。
「かいくん人を殺しちゃったの?」
「そうだ」
「でもでも。人を殺すのは良くないことだよ」
「仕方ないことだ」
「でも」
「ならばどうしろと言う。殺さねば殺されるそれが俺たち迷宮主という存在だろう」
朗らかな空気は一変し重い空気が流れる。人を傷つけることは絶対に許されない。ましてや人を殺めるなど人の道を外れている。それが常識だ。常識だった。
「璃子。確かに人を殺すのは良くないことだ」
「でしょ」
「ただな、私たちが迷宮主である限り人を殺さないと私たちが死ぬんだ。この世界をざっと見ただけでも争いが溢れていた。自分を一番に優先しないとすぐに死んでしまう過酷な世界なんだよ」
「うん...」
璃子は小さく頷いた。納得したのか納得していないのかは分からない。だが生き残るためには理解しなければならないのだろう。
「かいくんごめんね」
「こっちこそ悪かった」
互いに謝罪をする二人。重い空気は無くなった。じっと聞いていた山部も思うところがあったようだ。静かに頷いていた。
紫音が一度手を叩き皆の注目を集める。
「この問題は簡単なことじゃない。私だって答えを出しているわけじゃない。ただ今は自分たちのことを考えて生きようと私は思っている。今はそれでいいと思っている」
紫音は自分の考えを述べる。人の命の問題は一朝一夕には解決しない。簡単に命が失われるこの世界で自分たちを優先するのは正しいとも言えるし間違っているとも言えるだろう。元の世界でも正当防衛は認められている。迷宮主の彼等にも当てはまると言えるだろう。
「次はみんなが気になっている能力の話をしようじゃないか。私はもう知っての通り”空間転移”だ。空間を自由自在に移動することができる」
紫音は自分の固有能力を説明する。彼等の固有能力とは一体なんなのだろうか?
「はーい!私の能力は”属性矢”だよ。矢を射る時に矢がいらないし、なんと属性を付けれるの!私魔法撃ち放題なんだよ!」
元気に自慢するように璃子は自らの固有能力を説明する。璃子は弓を引けば望んだ属性の矢を射つことができる。璃子が引き絞れれば複数の属性を同時に何本も射つことができるだろう。
「俺の能力は”火の精霊”やな。炎を自由に操れるし、火に関して何されても無効にできる」
火の力を操る。むしろ名前からすれば火になると言った方が本質に近いだろう。いずれも迷宮主として強力な能力を備えているようだ。そして開の番が来た。
「俺の能力は”オープンソース”だ。魔法の構成を見てとれ、どんな魔法かわかると言ったものだ」
「オープンソースって開からきいたことあるな」
「プログラミング関連だから話したことはあったかもな。まぁ簡単に言えば他人の作ったプログラムを自由に見ていいし弄れるってやつだ」
「この世界で言えば魔法の中身を見て弄れるのかい?」
「いや見れはするが他人の魔法に干渉はできないな」
「じゃあかいくんの固有能力って何にもできないじゃーん」
璃子は馬鹿にしたように声を抑えて笑う。そのまま聞けばどんな魔法を使うかわかる能力だ。これまで出た固有能力の中では見劣りするだろう。オープンソースは開が使うことで真価を発揮する能力だ。
ただ一人紫音だけは考え込んでいた。




