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第十三話 ダンジョンマスターとの邂逅

 

 ギーレントと蜂蜜の新商品について語り明かした後、夜も深まりギーレントの店へと泊まることとなった。久しぶりのまともなベッドは開に十分な睡眠を与えた。そして今、木製のテーブルで向かい合わせて朝の食事をとっている。


「朝食までご馳走になってすみません」

「構わないよ。それよりもパンに蜂蜜も美味しいだろう」

「はいとても」


 開の普段食べていたものよりも味は数段落ちる。一般的な半球状のパンだが、ふわふわの食感では無く硬いものだ。開も噛みちぎるのに苦労している。


 だが開はとても美味しそうに食べている。それもそう、こちらに来てから開はまともな食事を取れていない。毎日欠かさず食事は取れているが味気のない不味い肉、迷宮ダンジョンの鑑定機能により食べれることは分かる謎の草そんな物だ。それでも元気に動けているのは迷宮主ダンジョンマスターとなったからかもしれない。


 とにかく、滴り落ちるほどの蜂蜜とそれを引き立たせる溶けたバターが相まったその味に開は満足している。


 他愛のない話を交わしながら朝食の時間は過ぎて行く。「そろそろお時間です」とサランがギーレントに時間を告げる。


「もうそんな時間か。すまないねカイくん私はもう行くよ」

「ありがとうございます。色々とお世話を焼いていただいて」

「良いんだよ。ではまた一週間後に」


 ギーレントがこの町を離れるまでは開が蜂蜜を卸しにくるたびに会うだろう。ギーレントは黒を基調とした質の良い服に着替え数人のお供とともに出かけていった。


「では私も帰ります」

「はい。今後ともご贔屓に」


 サランの見送りで開はギーレントの店を後にした。だがその足をすぐに止めたのはギーレントの店に砦と二枚の盾が特徴的な紋章が付いた馬車が停まったからである。


「これはテラトラ様。旦那様はもう御屋敷に向かわれましたが、如何なさいましたか」

「蜂蜜を切らしているのをうっかり忘れてましてな。お嬢様がどうしてもというので私が参った次第です」

「そうでございましたか。ではいつもの様に」


 フランは初老の男性と会話している。どうやら老人がお嬢様の言いつけで蜂蜜を買いに来たらしい。やり取りされるのは当たり前のように金貨である。フランが慣れた手つきで数人と蜂蜜を馬車に詰め込んでいる。


 そうジロジロ見るものでもないな。迷宮に帰ろう。


 開は今度こそ家路へと向かった。


 ◇◆◇◆◇


 鬱蒼と茂る森林の中一人と一匹は歩いていた。黒髪の青年、開とゴブリンである。ゴブリンはどこか不機嫌そうだ。


「悪かった。忘れていたわけじゃないんだ」

『ゴブッ』


 ツイとそっぽを向くゴブリンに記念日を忘れていた夫のような言い訳をしている。ゴブリンはずっと衛兵の元へ預けられていたのが原因で不機嫌なようだ。


「そうだ」


 開はふと何かを思い出したかのように鞄の中を探る。取り出したのは透き通った黄金の塊。蜂蜜を固めたものだ。


「お詫びにこれをやろう」

『ゴブッ!』

「現金なやつだ」


 蜂蜜の飴で簡単に機嫌が直るゴブリンに呆れながらもその様子につい笑ってしまう。


 そうこうしている間に開の迷宮へと到着する。今も迷宮へと入っていく冒険者を尻目に隠している裏口から自身の部屋へと帰った。


「ただいま」


 それは習慣か、もしくは迷宮を自分の家と認めているのか返ってくるはずのない言葉を発した。返ってくるはずはなかった。


「お帰り」


 返ってきたのは挨拶の言葉。開以外の誰かが迷宮主ダンジョンマスターの部屋にいる事実だ。


「誰だ!」

「クラスメイトに向かって誰だ!とは酷いんじゃないかい?」


 腕を組みながら壁に寄りかかるのは開のクラスメイトだ。腰までスラリと伸びた黒髪のロングヘア、高身長、誰もが羨むようなスレンダーな体を持つ女性である。


空月からつきさん」

紫音しおんでいいよ。開くん」

「どうやってここに来た?」

「君がそうであるように私にも特別な力があるのさ」


 悠然とテーブルに着く紫音。手で開にも席に着くように促す。どうやら話がしたいらしい。当然ながら部屋には椅子が一つしかないため新しく出し開も席に着く。


「さて、話をしようじゃないか。二人の大切な将来の話だよ」

「からかうのはよせ。まぁ大切な事には違いない」


 この女一体何をしに来た?俺の迷宮で随分と余裕のようだ。迷宮に異変は無かった。彼女の言うように俺のオープンソースのような固有能力ユニークスキルでここに来たんだろう。今有利なのはどっちだ。俺か?彼女か?


 開にとっては張り付く空気の中、紫音が口を開く。


「本題から話そう。私たちと協力しないか?」

「協力だと?」

「そう協力。こんな訳のわからない異世界で生き残るには協力するべきだと私は思うよ」


 確かに。今のところ俺は順調だが、危ない場面は何度だってあった。冒険者だっていつ高ランクが来るかわからない。協力した方がいいだろう。だが彼女、空月紫音が信用できるか否だ。俺との関係はクラスメイトというだけ、あまり話したことはないはずだ。


「空月さん。あなたが信用できない」

「酷いなぁ。隣の席だったじゃないか。それと紫音でいいよ」

「空月さんとは話す機会はあまり無かっただろう」

「紫音」


 開が折れた。


「...紫音さんとは話す機会はあまり無かっただろう」

「それもそうか。私たち迷宮主ダンジョンマスター迷宮核ダンジョンコアが壊されるか奪われたら死んでしまうんだから。でも私は開くんを信用しているよ。あの日開くんが鞄を持ったのを見て私も持ったんだからね」


 信用の証明。信用とは難しいものだ。相手を確かなものとして受け入れろと言うのだ。紫音は開を信用していると言うが何を持って信用しているのか謎だ。だが同じ状況にいる協力者の存在がどれほど有用か開には分かっている。


「紫音たちの目的は?」

「まずは生き残る地盤を整えること。そして帰る手段を見つけることだよ」

「仲間は何人いる?」

「今は私を含め三人だね。高宮たかみや弓月ゆずき山部やまべ立樹たつきがいるよ」

山部がいるのか!」


 良かった。山部も無事だったんだな。


「随分うれしそうだね」

「親友の無事を喜ばない奴はいないさ」

「開くんたちはいつも一緒にいたもんね」

「とにかく山部もいる以上協力してもいいかもしれない」

「それじゃあ」

「ただ!紫音のステータスが知りたい」

「いいよ」

「嫌かもしれないが...っていいのか!」

「これから仲間になろうって誘ってるんだステータスぐらい見せなきゃね。なんならスリーサイズも教えようか」

「そ、それはいい」


 尚もからかわれる開である。ステータスを見ることは叶ったがペースは掴まれっぱなしだ。


「はい許可したから見れるようになっているはずだよ」


 ==================

 名前: 空月からつき 紫音しおん

 種族: ダンジョンマスター

 lv10

 HP: 261/261

 MP: 26/26

 物攻: 84

 物防: 12

 魔攻: 14

 魔防: 14

 敏捷: 15

 知力: 58

 器用: 123


 スキル

 斧術lv1 投斧術lv2


 固有能力

 空間転移


 称号

 ==================


「意外だな」

「何がだい?」

「攻撃力がこんなに高いのも、スキルが斧なのもな」

「か弱い女の子には似合わないってね」


 紫音は星でも飛びそうなウインクをする。


「ほざけ。ただ此処に来れた理由はわかった。空間転移の力か」

「正解。まぁ能力は名称の通りそのままだよ。制限はあるけど好きな場所に転移できる力だよ。こんな風にね」


 紫音は開の目の前から掻き消え一瞬のうちに開の真後ろへと移動した。瞬きの暇すらない程の瞬間移動。正に転移である。

 体勢は紫音が開を後ろから抱きしめる形だが。


「なっ、何を!」


 開は慌てて振り払う。顔が真っ赤だ。その様子に紫音は諸手を挙げて笑っている。


「あっははは。面白いね開くんは」

「誰だってこうなる」

「とりあえず了承してくれたってことでみんなのところに行こうか」


 紫音は開の肩に手を置き微笑みかける。次の瞬間今度は二人の姿が掻き消えた。

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