第十二話 店を見て街を見て
街壁よりも厚く堅固に守られている其れは、貴族が集まる貴族街を守る壁だ。この先に平民が迷い込めば無事に出られるものはいないだろう。そうならない為に衛兵がいるわけだが。
「おや、ギーレントさんではないですか。お戻りですか?」
「あぁ、彼に私の店を見せてあげようと思ってね」
「失礼ですがそちらの方は?」
「ホーニ村のカイ君だ。問題を起こさない事はは私が保証しよう」
「はい。ギーレントさんの保証があるならば問題ありません。ただ、そのゴブリンは貴族街には入れることはできません。それと一応身元を確認できるものをお願いします」
開は商人ギルドのギルドカードを渡した。
「確認しました。どうぞお通りください」
「ゴブリンはどうすればいいでしょうか?」
「こちらでお預かりします。お帰りの際にお返しします」
開はまたも置いていくことになったゴブリンに謝罪し、衛兵に預けた。
護衛のために連れてきたというのに連れて行けないところが多すぎる。
衛兵がレバーを操作し大きな門を開く。開はギーレントに付いて門をくぐった。市民街と比べ綺麗な街並みが広がっている。市民街は雑多でゴミも汚れもある汚い印象もあったがこちらはそうでもないようだ。
豪邸が立ち並び中央には領主の住む城が立っている。ただし、砦といった印象を持つものだ。貴族向けの商店も点在し、お客は主に馬車で移動している。
「さぁ私の店に案内しよう...と言いたいところだがまずはその身なりをどうにかせねばなるまい」
開の格好は村人が着るような服に初級冒険者然とした皮の装備を身につけている。あまりにもこの場には似つかわしくない。
白い目で見られながらもギーレントに付いて服屋へと訪れる。
「あらギーレント、今日はどうしたの?」
「やぁマチルダ。今日は彼の服をお願いしようと持ってね」
マチルダと呼ばれた彼女はどうやらこの店の店主らしい。赤い派手な衣装に身を包みんだ高身長の女性だ。その衣装はスラっとした脚を際立たせている。
「こんにちは。開と申します」
「新しい子かしら?」
「今日商人なりたてなんだよ。蜂蜜を売ろうとしてたんだけど私のところに卸すことになったのさ」
「貴方がここまでするのなら将来有望なんでしょうね。今のうちに唾をつけとこうかしら」
そう妖艶に微笑むマチルダだが、開に何か返せというのも酷だろう。これまでにそんな経験が無いのだから。
「カイ君が困っているだろう」
「ふふ冗談よ。この子に似合う服を揃えればいいのね」
「頼んだよ」
「さぁこちらへどうぞ」
開は手を引かれ奥へと連れていかれた。服を選んで貰っているのだろう。何か「やめてください!」、「自分でしますから!」等聞こえてくるが気のせいだろう。
「さぁお待たせ」
「ほぅずいぶん印象が変わったじゃないか」
再び現れた開は奇麗な格好をしていた。飾り付けが盛り込まれている訳ではなく清潔で落ち着いたものだ。白いシャツに黒のズボン、緑色のベストを羽織っている。少し赤面しているが気のせいだろう。
「どうかしら?」
「とてもいいと思います。これはいくらでしょうか?」
開が代金を払おうとするがそれをギーレンとが制する。
「それは私が払おう」
「幾ら何でも悪いですよ」
「私の都合でここまで連れてきたのだ。君へのプレゼントだよ」
「受け取っておきなさい。これからギーレントにお世話になるんでしょ」
「ありがとうございます」
なおも引き下がろうとするが、マチルダからも受け取るように言われた開は素直に受け取っておく。
「さぁ準備も整ったことだし私の店に行こうか」
マチルダの服飾店から少し歩きギーレントの店に着きます。この地域では珍しい木造の店舗です。
「ここが私の店だ。中を見せよう」
「失礼します」
中に入れば木の落ち着く香りが広がる。そして数々の蜂蜜とそれに関する商品が展示するように売られている。
「おかえりなさいませ旦那様」
「今日の調子はどうかな?」
「はい。蜂蜜の売れ行きはいつも通り好調です。最近は蜂蜜酒が人気です」
「やはり蜂蜜だけでなく蜂蜜を使った商品は売れるな」
ギーレントの店はただ蜂蜜だけを扱うだけではない。貴族の需要に合わせ蜂蜜を使った関連商品を売っている。蜂蜜酒やお菓子などが挙げられる。
「旦那様そちらの方は?」
「カイという。蜂蜜を卸してくれることになってね。とてもいい蜂蜜だよ」
「開と申します」
「私はサランと申します。どうぞよろしくお願いします」
「この店は普段サランにすべて任せているのだよ」
サランとは店の管理、店員を任されている女性である。銀髪のふんわりとした髪で首元までのショートヘアをしている。小柄で可愛らしい女性だ。
「少し店の中を見て回ってもいいですか?」
「勿論だとも」
ギーレントの許しを得た開は店の中を見て回る。厳選された蜂蜜が色のついた透明の容器に入れられている。開は一つ手に取り角度を変えながらみている。
不思議な容器だ。ガラスかと思ったが質感としてはプラスチックに近い。だがこの町や迷宮に来た冒険者を見る限りプラスチックを作れる時代とは思えない。
「これは一体なんですか?」
「それはダラル地方の蜂蜜だね。粘度が高くて美味しいんだ」
「そうではなくこの容器の方です。何で作られているんですか?」
「知らないのかい?スライミック製のボトルだよ。スライムを乾かすことでできるんだよ」
スライムというのは不思議な生物である。骨も血も肉もない。あるのは核と粘液体のみである。地球で育った開からしてみれば生物として成り立つのが不思議である。スライムはどこにでも生息しその地域に合わせた進化をする。そしてその粘液体は乾かせば軽くて丈夫な物になる。理由は不明だが人々はそれをスライミックと呼び様々な物へと形作り利用してきた。
「なるほど。だから様々な色があるんですね」
スライミックの色は原材料となったスライムの色に依存する。基本的には一番生息している青色の物が多い。
「どうかなうちの商品は?」
「とても美味しそうですね。ボトルに入っていることで特別感がありますし、蜂蜜入りのパンやクッキーなどは食欲をそそられます。ただ…」
「ただ?」
「果汁と蜂蜜に混ぜたジャムのようなものは無いのかなと思いまして」
開は毎週楽しみだった柚子蜂蜜を求めていた。果物を持っていれば自前の蜂蜜と混ぜて作っていただろう。プロが作成した美味しいものがあれば今買おうと思っての発言かもしれない。開の質問に対してのギーレントは思案しているように見える。
「果汁と蜂蜜か…果物を蜂蜜に漬けた保存食はあるが果汁を混ぜるものは考えたことが無かったな。蜂蜜酒にも果汁の甘み、風味が加えられるし料理にも幅が広がりそうだ!カイくん上でちょっと話そうか!」
「え!?ちょっ」
商人というのは無理やりな人が多いのか!?
つまずきそうになる開の手を引き上へと連れて行くギーレント。それを見てサランは店の閉店準備を進めた。




