第十一話 商人との契約
二人で話すのが丁度いいぐらいのこじんまりとした部屋で開と商人ギルドの職員が座っている。座り続けるのも辛くなってきた頃、職員に部屋を移動すると告げられる。
「失礼いたします」
ドアを軽く叩くと中から入るように促される。大きな机に対面の椅子が何脚かある小会議室のような場所で件の商人が待っていた。口髭を生やし肌は白い。背筋はまっすぐ伸び顔立ちも整った味のある男性だ。
「初めまして開と申します」
「初めまして、私がギーレントだ。私に用件があるとのことだが?」
職員が用件の概要について伝える。
「なるほど確かにこれから商人になろうと言う方が蜂蜜を売るのは難しいだろう。ではまずサンプルは持っているかい?話はそれからだ」
「はい」
拡張鞄から蜂蜜の入った壺を机の上に置いた。
「では味を見させてもらうよ」
普段から持ち歩いているのか蜂蜜を味見するために銀スプーンをギーレントは手に取る。
黄金の蜂蜜を掬いしばし目の高さで見た後口に含んだ。目を見開いたかと思うと目を閉じ暫し静止する。口元はかすかに笑みを浮かべているように見える。
「素晴らしい。まろやかなコク雑味のない甘み。混ぜ物のない完全な蜂蜜だ。これまで味わってきた中でも上位に位置するよ」
「ありがとうございます」
拍手でもしそうなほど賛辞を述べるギーレントである。一つ咳払いをしてから続ける。
「失礼。ズバリこれは普通の蜂蜜ではないね。魔物、それもこの味は...一撃蜂。当たってるかね?」
「正解です。驚きました。そこまで分かるものなのですか?」
「優れた商人になるためには品物のスペシャリストでないといけない。私は常に心がけているよ」
「なるほど。勉強になります」
「それでこの蜂蜜はどこで手に入れたのかね?」
ギーレントの目が少し鋭いものになる。ただの蜂蜜ではなく魔物の蜂蜜。その入手は困難なものになる。一介の商人なりたてが手に入れられるものではない。
開は問い詰められるような雰囲気の中ごく自然に答える。
「私は魔物使いなのです。その力で村の近くの一撃蜂を手懐け蜂蜜を分けて貰っているのです」
迷宮主と魔物使いは、よく似ている。生み出すことはなく制約も多いが魔物を従える点で言えば同じ。魔物使いに置き換えれば説明がつくことも多いのである。
「ほぅ魔物使いが商人になろうとは珍しい。ふむそれならば蜂蜜は定期的に取れるのかね?」
「はい、一撃蜂はそれなりに数がいますし、普通の蜜蜂の巣と比べてかなり大きい巣です。毎週これぐらいは持ってこれるかと」
「この味、品質ならば間違いなく売れる。希少性を考えれば今の五割増し、いや十割でも売れるだろう。私にこの蜂蜜を売らせてくれないか」
「こちらこそよろしくお願いします!」
ガッチリと固く手を結んだ開とギーレントは委託販売という形で契約を結んだ。開は毎週小壺十個を卸し、ギーレントはそれに見合う対価を支払う。そういう契約だ。もちろん開に資金が貯まれば自分で店を出しても良い。
「手始めにこれが今回の代金だ」
ギーレントが自分のポーチから出したのは麻紐で口が閉じられた袋。わずかに見える隙間からでも分かる輝き。金貨の詰まった袋がテーブルを叩いた。
明らかに多すぎる代金に開は動揺する。
「多すぎます。蜂蜜を一体いくらで売るつもりですか」
「一壺二千ラム程だろうね。まぁ取っておきたまえ。私たちが良い取引きが出来たことの記念だよ」
「なるほど。ありがたく頂戴します」
つまりはこう言っているのだ。自分以外にこの八身内を卸すなと。ここまで好条件、好契約料なのだ、開としても願ったりだろう。
「そう言えばこれからの予定はあるのかな?」
「いえ、特にありませんが」
「良かったら私の店に来ないかい?どんな客を相手にしているか見せれるだろう」
「それは是非ともよろしくお願いします」
「決まりだね!よし早速行こうじゃないか」
こうして商人ギルドからギーレントの店へと行くことになる。職員からは去り際に商人ギルドのギルドカードを受け取り、貴族が集まる中央街へと足を伸ばした。




