第十話 いざ町へ行かん
年代を感じる街壁に囲まれている。その全容を見ることはできず、かなり大きな町のようだ。
そんな町の入り口で衛兵に開は質問を返している。
「どうもこんにちは」
開の朗らかな挨拶に対し衛兵は警戒の目を向ける。開の連れているゴブリンが原因だ。
「その魔物はなんだ」
「このゴブリンは私の仲間です。ほら挨拶を」
『ゴブ』
案の定魔物について聞かれるが落ち着いた様子で危険性がないことを示している。
「魔物使いですか、珍しいですね。この町へは何をしに?」
魔物に危険性がないとわかると高圧的な態度が軟化し口調も変わった。普段仕事中はこちらなのだろう。
「村で採れた蜂蜜を売りたいと思いまして」
「蜂蜜ですか。それは良いですね。是非ありつきたいものです」
「よければ食べますか?」
「いえいえそんな貴重なものいただけませんよ」
「?、そうですか」
「その蜂蜜はどこに?見たところ持っていないようですが」
「この鞄が拡張鞄でして、この中に入れてあります」
「失礼ですがどちらで手に入れたのですか?」
「祖父からもらいました。家にある貴重なものはこれぐらいですよ」
「どちらの村の出身ですか?」
「ホーニ村です」
あくまで開はホーニ村で蜂蜜採りを営む村人を装う。ホーニ村とはこの町の付近にある村だ。開の迷宮に開はDCで拡張鞄を交換したが、購入しようと思えば最低でも金貨が必要になってくる。養蜂の技術はまだ発展しておらず甘味は高価なものだ。蜂蜜だって庶民には手を伸ばせないものだ。それを売るのだから現在の開は小金持ちの村人といったところだろう。開にはそれがわかっていない。
「身分証明書が無いということですので千ラム頂きます」
「わかりました」
開は大銀貨一枚を取り出し衛兵へと渡した。
「はい問題ありません。ようこそカオフテへ。次からは身分を証明するものがあればすんなりと町へ入れますよ」
「ありがとうございます。今から商人ギルドに登録するつもりです」
「商人ギルドなら町の中心に向かえばあります。大きな建物なのですぐわかると思いますよ」
「親切にどうもありがとうございます」
簡単な常識などは迷宮の本で勉強できる。開はただ迷宮の運営だけをしていたわけではない。
石畳みの大通りを歩いていく。露店が並び活気にあふれている。開もお兄さんと呼ばれ足を止めそうになるが、まずは商人ギルドと気の良さそうなおじさんに笑顔を返して先を行く。
しばらく歩けば石造りの大きな建物が見える。入り口には看板がかけられ顔立ちの整った男の肖像画が描かれている。また大量の馬車が出たり入ったりしている。
「どうやらここが商人ギルドのようだな」
木製の二枚扉を押し開き中に入る。商談用のテーブルスペースや受付がある。奥はギルド職員が作業しているようだ。
開は受付へと行こうとするが止められる。相手は緑のベストを羽織る恰幅の良い商人然と男だ。
「そのゴブリンは貴方の下僕ですか?」
「私の仲間ですが?」
「ならば外に出しなさい」
「なぜ?」
「どこの田舎者ですか?常識でしょう。魔物使いと言えども魔物を中に入れないというのは」
周りの視線が刺さる。どうやら彼の言うことは本当らしい。開は渋々ゴブリンを外に出す。
「これを着けるとよろしいですよ。所有されている魔物だと示すものです。一つ四百ラムです」
「それも常識ですか?」
「ええ」
開が商人ギルドの職員に目を向けるが職員も止める気配はない。当たり前と言った風だ。
商人からは革製の首輪を差し出されている。さすがは商人こんなところでも商売根性が逞しい。開は銀貨四枚を渡し、商品を受け取った。そのままゴブリンにつけてやり、外へと待たせる。
今度こそ開は受付へと行く。人の良さそうなお兄さん、開よりも十ぐらい上といった印象だ。
「本日はどのようなご用件でしょうか」
「商人ギルドへ登録に来ました。なにぶん田舎者でして、色々と教えて頂きたいのですが」
「構いません。それではまず登録から行なっていきます」
先ほどのやりとりを見ていたはずだが、嫌な顔一つ浮かべない。よくあることなのか人の良さなのか。
名前から始まり、登録していく。主な商品のところで待ったがかかる。
「蜂蜜ということですが貴方自身が売るのでは売れないと思います」
「何故ですか?」
「蜂蜜となると値段が高価になります。そうなると必然的に貴族様向けになります。ただ自分の店舗はお持ちではないですよね?恐れながら貴族様向けの土地と物件ですと、ざっと初期費用が百万ラムになります。元手があまりない状態でこれから事業を始めるのであれば現実的ではないと思います」
「なるほど」
開はしばし悩むそぶりをする。簡単に売れると思っていたのだが蜂蜜は元の世界と違い高級品、いやこの時代では高級品と言うべきか。初めから計画が頓挫すると思われたが、ここで職員が一つの提案をする。
「よろしければこちらで蜂蜜の商人を紹介させていただけませんか?その方は王都でも蜂蜜を売る大手の商人でして、ちょうどこの町にいらっしゃるんです」
「是非よろしくお願いします」
開はこれ幸いと紹介してもらうことにした。このまま売れなくなるよりは良いと言う判断だろう。
開はそのままこの町で商談をしていると言う蜂蜜商人の到着を待った。




