2日目:見知らぬ女
■――謎の女?――
ロイスが、もう一度目覚めるとパチッ、パチッと粋な音をたてて火が燃えていた。
「ロイス、やっと起きたの?」
そこにいたのは、魔王を倒す旅で一緒に旅した。
ルクマ=キトが、薪をかかえて立っていた。
彼女は、黒髪のショートヘアーで鼻が少し高く、精悍な顔つきだった。
「ああ、寝ちまったんだな」
「そうよ、見張りするとか言っておきながら」
少し怒ったように言いながらも、
表情はどこと無くにこやかだったので、本気で怒っているわけではなさそうだ。
あたりは暗くて何があるか分からない。
焚き火の横には、コウリア=セルフィドが、静かに火の番をしていた。
「悪いな。コウリアも」
「ああ」
彼はそう短く答えて、鋭い目つきをこちらを一瞥して、
また、火を見つめ始めた。
銀色の髪の中から、少しだけ見せているとがった耳がピクピクと動いていた。
そう彼は、エルフなのだ。
「サンキュウ」
軽くそう答えると、耳をピクッと動かせて答えた。
「それは、そうと・・・」
そう耳元で、声がしたかと思うと目の前にルクマの顔があった。
「ど、どうしたんだ?ルクト」
その表情は笑っているのだが、どこと無く恐ろしい。
特に、いつもの青い瞳が危ない雰囲気をかもし出していた。
彼女は、俺の耳元に、口を近づけたと思うと、
「起きろぉーーーーーーーーーーー!!!!!」
「のわっ!」
ドスンッ
急に体が浮いて、どこかに落ちた。
辺りを見ると、そこは普通の民家だった。
「んあ?」
「やっと起きたのか。この変態」
目の前に、ルクマ・・・じゃなく、どこと無く見覚えがある顔があった。
「えっと・・・」
しばらく、その赤い髪のツインテールの女を見つめていると、
「なに、あほ面さらしてんの?」
と怪訝そうな目で、ロイスを見つめていた。
そんな時、
「あ、そうだ」
とロイスは、手を打って女を指差し、
「あの、いきなり殴り始めた女!」
「うるさい、あんなことされたら誰だって殴るわ!」
あんなこと?
「あー!俺のファーストキ」
「言うなぁ!!」
女のアッパー。クリティカルヒット!!勇者に200ダメージ。
そのまま、ロイスは弧を描いて地面に
グシャ
落ちた。
そして、ゴングは鳴り響き・・・・・ません。
「何すんだ、暴力女!」
ロイスは、倒れた状態から顔だけあげて、その女をにらみつけた。
「その暴力女、ってのやめな。私にはパナム=セクトルっていう名前があるのよ。変体」
「俺だって、変態じゃなくて、ロイス=リュートっていう名前があるんだ。バカ女」
「バカ女、言うなっての」
不意に、彼女の顔が少しゆがんだ。
ロイスは、その変化を見逃さず体をおこして、その場に座ると、
「どうした?」
と尋ねた。
「えっと、ちょっとまって変体」
「変体じゃねぇ!」
「うるさい!っていうかロイス=リュートってどこかで聞いたような・・・」
ロイスは、立ち上がって頭をかきながら、うんざりした様に窓の外を眺めた。
「おっ、雪じゃん。珍しいな」
「は?」
考えていた、彼女は意識をそがれたようだ。
一緒になって外を眺め始めた。
「ここでは、毎日のことよ。ここら辺の人間じゃないの?」
「ああ、俺はセブレラっていう田舎の村が故郷だな。
雪ってことはここはヴェリセンドか?」
彼女は驚いたように、ロイスを見た。
ロイスは窓際から離れて暖炉の前に行き、手をかざした。
「あなた、旅人だったの?」
「やっと変態から格上げかな?」
すると、彼女は気づいたように口元に手をあてて顔をしかめた。
「なんだ、その顔。めちゃくちゃ傷つくんだけど」
「・・・いいから、答えなさい。変態」
「・・・」
ロイスは、たじろいでいるパナマを見て少しため息をつくと、
「そうだよ。ちょっと用があってな」
そのちょっととは、魔物討伐だったのだが・・・。
「へぇ・・・」
そんな時、階段の上の扉が不意に開いた。
ロイスはスッと身構えた。
そこにいたのは、
「おお、小僧。起きたか」
白髪の老人だった。
背はパナマより少し低く、背が曲がっていた。
「私のおじいちゃん」
パナマがそういうと、ロイスは警戒を解いた。
「わしは、ガルト=セクトル。その身構え、只者じゃないな?」
老人は、うれしそうにロイスに尋ねた。
ロイスは頷きもせず少し笑みを返した。
「それに、パナムの唇も奪ったわけじゃしの」
「「は?」」
ちょっとまて、このじじい何さらりと爆破スイッチを押してしまいやがりましたか?
真っ赤になって、硬直しているパナムを横目で見てすばやくしゃがんだ。
「おじいちゃんの・・・」
すばやく近づくと、真っ直ぐ、
「バカーー」
ストレートをはなった。が、彼は軽く横に凪いだ。
パナムのストレートは横の壁に当たり、その壁にめり込んだ。
(マジかよ。俺あんなの食らってたの?)
自分で自分が怖くなった。っていうか、じいちゃんスゲー。
と内心冷や汗を流した。
「すぐ、たじろぐな。情けない。その程度なら、勇者のようにはなれんぞ」
(勇者?)
そういえば、俺は魔王をこの手で倒したような・・・。
涙目でうなっていたパナムはそれを聞いて、飛び上がり、老人の肩をつかむと、
「おじいちゃん、勇者の名前ってなんだっけ?!」
と揺さぶった。
「なんじゃ、やめろ。こらパナム」
その言葉で、パナムは「ごめんなさい」といって手を離した。
ガルトは一つ咳払いをすると、
「ロイス=リュートに決まっておろう。そんな事も忘れたのか?」
「・・・・」
パナマはいきなりフリーズしてしまった。
「?どうした?パナム」
そういって、俺に目を向けられるが、
「さあ?」
と適当に答えてそこにあったイスに座ろうとした。
「なぁーーーーー!!」
という大声で、俺はイスに座り損ねて、床にしりもちをついた。
「なんで、勇者と同じ名前なのよ。あんた!」
「たまたまだろ」
適当にばっくれてみる。
「あ・・・そう・・・」
そのまま、終わりそうになった。