第8 やべえ奴
夜の暗い部屋。私の1番大好きな睡眠時間。この時間だけは誰にも邪魔されないから大好きだ。
「....」
何で同じベッドで寝てんだよ!?布団敷いたんだからそっちで寝ろよ!
「ぐふっ!?」
物凄い力で抱きしめられる。振り解こうとすると関節や骨から変な音が出るくらいの強さで。
「ギブっ...死ぬっ...」
「えへへ...大好き...」
「死ぬぞ...君の大好きな人が君の手で死んでしまうぞ...」
「うぅ...」
腕の力が抜けた一瞬を突いてベッドから脱出した。
「こいつと寝たら死ぬ」
やられてばっかりも癪だから不幸をぶつけておく。
「んぅ?」
指から放たれる寸前に目を覚ました。そして、放った不幸を掴んだ。
「なっ!?見えるの!?」
「うん」
その不幸を口に入れて飲み込んだ。
「えへへ。神無ちゃんの...美味しい」
「誤解を招く言い方をするな」
「あはっ!ゾクゾクして来た!!」
「は?」
「あ〜不幸だわ!!大好きな人に不幸にされるって絶望だわ!!」
望日から大量の絶望を感じる。普通の人なら考える間も無く1番残虐な自殺をするレベルな絶望だ。ただ、変だ。それ程の絶望にも関わらず笑っているぞ!?
「吸ってくれないの?私の絶望」
「え?う〜ん...」
背に腹は変えられない。手の甲からでも吸ってやろう。
「昔はチューしてくれたのにね」
「ううひゃい(うるさい)」
「ごめんごめん」
マイペースが取り柄の私でも流石に調子が狂う。
「終わった」
「ありがと!」
「それと、昔って言っても私には何が何だかんだ分かんないし」
「やっぱり覚えてないんだね...楽しかったのになぁ〜」
俯いて寂しそうに話す姿を見ると何故か罪悪感が湧いてくる。それも尋常じゃない程に。
「昔のことは覚えてないけど...これからのことは忘れない....と思う」
「優しいね。昔から変わらないや」
月明かりが照らす一滴の雫はどの宝石よりも輝いて見えた気がした。
「も〜離れて!私の神無ちゃんだよ!?」
「違うから」
騒がしい朝がやって来た。いつもの日常の2倍増しでうるさい。
「違いますぅ〜私のです〜!」
「それも違いますぅ〜私は私のですぅ〜」
「「ん〜〜〜っ」」
どうなってんだよこれ。私の望む平凡な日常はどこ行ったんだよ。