6話 出逢い
「なんでだよ」
さっきの体育が嘘のように思えてくる。包帯でグルグル巻きの状態なのに、何事も無かったかのように授業を受ける人、体育館の修理に追われている業者と先生たち。誰もこの異常に突っ込んで来ない。
「おかしな所があり過ぎだろ。この学校」
「望月さん?」
「はい?」
「大丈夫ですか?集中してくださいよ」
「すいません...」
なんで普通に授業が出来るんだ?スルーなのか?だとしたらスルースキル半端ねえな。先生半端ないって。
「今日はここで終わりま〜すっ!!」
「「「ありがとうございました!!!」」」
いつもは長く感じる授業も、さっきの事が気になり過ぎていつの間にか終わっていたみたいな感じだった。このクラスはどうなってんだ?私がおかしいのか?いや、私もおかしいけど。
「神無ちゃん!お昼食べよ!!」
「うん」
まぁ何でもいいや。理屈が通る程常識あるクラスじゃないし。ほとんど諦めてるし。
「ここで食べよ!」
静かな時間を楽しもうとして居た私と、なんか楽しそうなコウちゃんの2人しか屋上に居なかった。
「わぁ〜!神無ちゃんのお弁当美味しそう!!あ〜ん」
「はいっ」
「ぐぉっ!?」
開いた口に玉子焼きと箸を奥まで突っ込んだ。
「ひどいっ!美味しいけど!!」
「ん。ありがと」
「も〜!!はいっ!おかえしっ!!」
「ん。うん、美味しいよ」
「でしょ〜!頑張ったんだ!!」
お昼だけが唯一私が休める時間だ。正直言えば、今すぐ学校を抜け出して人助けと言う名の絶望集めに行きたい所なんだけど。
「四葉さ〜ん!ちょっと来て欲しい!」
「は〜い!」
1人の時間ができた。至福のひと時だ。うるさい奴も邪魔する奴も居ない。この時間が嬉しかった。
「あれ?手紙どこだろ?約束してたのに...どうしよ....」
ちょうど良い所にちょうど良い絶望が。今度こそ逃す訳にはいかない。チャンスを掴む!
「ねぇねぇ、困ってる?」
「誰?」
「ちょっと目閉じてて」
少し強引だけど、誰かも分からない女の子の目を手で隠して絶望を吸い取った。味は薄めだけど、ほんのり甘くて美味しかった。
「ひゃっ!?何したんですか!?」
「何もしてないよ。じゃあね」
膝をつく女の子に背を向けてベンチに戻った。少しだけだったけど吸えないことに考えたらマシだ。むしろ良い。
「お待たせ〜!!」
「戻って来なくて良かったのに」
「ひどいっ!!」
いつもより遙かに疲れてたけど、久々に絶望を吸えたのが嬉しかったからプラスマイナスゼロだ。この調子で出し切った絶望を集めていかないと。
「はぁ〜」
「ん?どうしたの?」
「なんでもない」
何も起きないこの時間が大好きだ。平和に流れる雲。眠くなる気温で程よい風。それから降ってくる女の子。全てが平和で...平和....平和じゃねえ!!
「コウちゃん!ちょっと手伝って!!」
「え?えっ!?」
「早く!!そこで私が助かるように祈ってて!」
「分かんないけど...分かった!!」
あとは神頼みだ。あの女の子を受け止めて私が無事なはずがない。けど、このまま死なれたら後味が悪い。
「お願いっ。神無ちゃんが助かりますように!」
急に吹き上げる風が、女の子の落下速度を緩めた。
「っと」
ゆっくり降りてくる女の子を受け止める事が出来た。
「危なかった...」
「神無ちゃん!大丈夫?」
「うん...ありがと」
腕の中でスヤスヤ眠る同い年ぐらいの女の子。特徴を挙げるなら、眩しいくらい綺麗な長い金髪で、男女構わず惚れそうなくらい可愛い。身長も私と同じくらいかな。
「お〜いっ!!」
ほっぺたをペシペシ叩くと何とか目を開けてくれた。私と同じ赤い瞳をしていた。
「あれ?私...ここどこ?」
「学校だよ。あなたは?」
「あれ?神無ちゃん?」
「は?」
「神無ちゃん!!」
「いやいや、誰?」
「神無ちゃん....この子誰?」
「知らない。なんで怒ってるの?」
やけに睨んでくるコウちゃんと抱きついてスリスリしてくる謎の美少女。カオスだ。私の平和を返せ!