名前じゃなくて、苗字ですけど・・・
「愛生先輩!一緒に練習しませんか」
「・・・うん。蒼くんいつもありがとう」
葵は慌ててそっぽを向いた。
見たくないし、見てられない。
「葵ちゃん?どうしたの、蒼くんと練習しないの?」
「うん。べつにもう、関係ないしね」
「え?」
卓球部の友達たちの声が聞こえたけど、葵はそう言って返した。
愛生先輩は、きっと・・・蒼に思い出してほしいんだ。
前に会っているんだよ・・・ってことを・・・。
「葵ちょっと待って」
葵の前に立って葵を止めたのは、卓球部の岬だ。
「岬ちゃん・・・何?何の用なの?さっきから」
「話を聞かせてほしいの!前まで普通だったじゃん。どうして今日からおかしくなっちゃったの?」
「おかしいとかどうとか、岬ちゃんにはわかんないよ!」
葵は叫んだ。
何なのよ。岬ちゃんとは、話したこともないのに、急にこんな・・・
「分かるもん!いいから来なよ!」
岬は叫び返すと、葵を無理やり外へと連れだした。
「ごめんなさい、さっきは。急にあんなどなって、連れてきちゃったりして・・・」
「・・・そ、そうでしょ。分かってんならさっさとやめて」
葵は自分で、自分の話している言葉の強さにびっくりしてしまっていた。
「でもね、葵ちゃん。蒼くんや愛生先輩・・・みたいに、私も仲良くなれると思うの!」
岬は言って、葵の顔にずいっと近づいた。
「ち、近いよ!岬ちゃん」
「私の苗字なんて言うか覚えてる?」
「え?」
葵は考えた。
「・・・ごめんわかんない」
「青井。私も、名前じゃなくて苗字だけど、青井岬っていうの!」
葵は「へ、へぇ・・・」と言った。
「だから仲良くしない?ね、葵ちゃんっ!」
「あ、う、うん・・・」
半分ムリヤリうなずいた葵は、岬をまじまじと見つめた。
「あのね、ごめん、葵ちゃん。ほんとは葵ちゃんの悩みなんかどーでもいいの!」
「はぁ!?・・・岬ちゃんもういい!ほっといて・・・」
「ちっ、違うの!最初はどーでもいいんだけど、でも、ほんとに気になってきたの。でもね最初に、私の悩みを聞いてくれませんか!?」
「悩み?」
「うん。・・・あのね、私、蒼くんのことが好きなの!」
「・・・#$%&*+@〇~~~~~!?!?」
声にならない声が響いた。
「でね、葵ちゃんは蒼くんと仲がよさそうだったから・・・だから、いろいろ聞いてみようと思ったの。でもね、今日は葵ちゃん、なんかおかしい。気になって・・・」
「岬ちゃん・・・ありがとう」
葵の口からそんな言葉が出てきた。
「青井と葵であおい同士、仲良くしよう!でも、さすがにそろそろ戻らないとやばいかも」
「え?そんな長い間話してたっけ!?」
「ほら岬ちゃん急いで!」
あわてて葵と岬は走り出した。
葵は岬の天然(?)ぶりに何だか疲れてしまっていた。
今日また、あおいが入ってきて・・・トリプルあおいの恋は、なんだか事件の予感?