愛生先輩の秘密と、岬
「二人っとも、さっきっからベタベタくっつきすぎ!恋人みたいだった!」
「こ、恋人!?」
「わ、わわ、私たちは!・・・・・ちが・・・」
愛生先輩の顔が赤くなる。
「それでは運転手のお嬢さん、ブレーキを踏んでね~。・・・お嬢さん?お嬢さんっッ!!!」
「葵、何してんだよ!」
蒼に肩をたたかれて、葵はハッとした。
「え?って、うわぁぁぁ!!壁壁壁~~~!!」
キキキーーーーーっ!
慌てて自動ブレーキがかかり、葵は息をついた。
「ちょっと葵・・・」
蒼に肩に手を置かれ、葵の顔は赤くなった。
でも次の瞬間。
「・・・肩に手、置かないで」
「え?・・・あぁ、・・・ごめん・・・」
蒼はびっくりしたように、葵を見つめた。幼馴染の関係、これまでずっとお互いの体に触るのは抵抗なんてなかった。
それが今になって・・・?
「葵?」
「何?」
「・・・なんでもない」
ゴーカートを降りながら、二人はそんな会話をした。
「愛生先輩!」
男子二人がトイレに行ってしまうと、岬はビシッと愛生先輩を指さした。
「あんまり蒼くんとくっつかないでください!」
「・・・くっつく、も何も。私は、何もしてな・・・」
「そんなわけないです!ラブジュース飲んだのをいいことに!愛生先輩は、蒼くんのことなんとも思ってないんじゃないんですか!?」
岬がまくしたてると、奏楽が「まぁまぁ、岬」と、止めた。
「何よ、奏楽に、何が分かるの?」
「岬。蒼のこと、好きなのはわかるよ。けど、だからって、友達や先輩を傷つけていいなんて、そんなわけないの、岬だってわかってるでしょ?」
「そんなの、分かってるに決まってるけど」
岬は素直に言うことを聞くと、ムスッと横を向いてしまった。
「・・・私は、幼稚園の頃。ちょっとだけ・・・ほんとに短い間だったけど、蒼・・・と、一緒だったの・・・」
愛生先輩は話し出した。
「え・・・?それって、どういう・・・」
「その時・・・やっぱり、私、コミュ障だから。・・・そのころも今も、友達がいなくて・・・」
岬はボーっと、愛生先輩を見つめた。
「そんな時・・・唯一、声をかけてくれたのが・・・蒼で。うれしくて・・・それからずっと」
「ずっとって・・・」
「隠してきて、ごめんね。私は、蒼のことが好きです」
「・・・」
岬はだまった。
「さいてい、です・・・」
「え?」
「最低です、愛生先輩は最低です!私が蒼を好きになったのだって、愛生先輩や葵ちゃんに話しかけてるときの笑顔が好きになったからだったのに・・・なのに・・・」
岬は下を向いた。
「・・・愛生先輩は、まだ、蒼くんとしゃべれない、だとか、友達がいないだとか。・・・蒼くんはしゃべってくれてるじゃないですか!友達が、蒼くんだけじゃない。私や、葵ちゃんや、奏楽は!?」
愛生先輩は、困ったような目で岬を見つめた。
「愛生先輩は全然蒼くんのこと分かってない。なのに・・・なんで?なんで愛生先輩なの?ひどいよ・・・そんなのって、ないよ・・・」
岬は奏楽に抱き着いて、泣きだした。
葵はそんな岬を見つめて、なんでかな。こっちまで泣きそうになった。