葵と蒼と愛生
「今日も一緒に登校してきちゃって!絶対、付き合ってるんでしょ?」
「リア充はいいよね。ラブラブしちゃって」
「あー早く彼氏欲しー!」
葵は、きょとんとした。
「・・・付き合ってる?リア充?彼氏?・・・って、なんのこと?」
「「「・・・は?」」」
女子3人組は同時に声を上げる。
「蒼くんに決まってんでしょ!ねえ、葵ちゃん」
「・・・蒼と??」
葵はため息をついた。
「ありえないってば。私が蒼と恋とか、マジやめて」
「・・・えー・・・」
葵の冷めた様子に、ため息をつく、女子3人組だった。
道川葵、中学2年生。
幼馴染で、家も隣。幼稚園の頃から仲良しの風間蒼とはいっつも恋がどうとか言われて・・・本当は葵、蒼のことが好きなのだ。
大人っぽくて、背が高い。いつもクールな感じの葵は、みんなから頼りにされている。
そして・・・風間蒼のほうは、葵とは正反対で、やんちゃで子供っぽい。背も小さい。
「蒼、ちょっと、昨日貸した理科のノート、返してくれる?」
「あーごっめん!忘れてたー!」
その日は、いつもと変わらない、普通の日だった・・・はずだった。
葵と蒼は、男女混合卓球部。部活も一緒だ。
「今日は、3年生に転校生がやってきて、卓球部に入部することになりました。じゃあ、自己紹介よろしくね」
そう言って、ホワイトボードに名前を書く顧問の先生に言われて、その人は緊張しているのか、顔を真っ赤にしていった。
「・・・あ・・・江崎愛生です。・・・よろしく、おねがいします」
「愛生だって。俺らと同じだね!」
「漢字は違うけどね。愛生先輩」
2人はこそこそ話した。
じゃあいつも通り、練習はじめ・・・部長がそう声を上げた。
「愛生先輩!」
蒼が声を上げる。
「僕は、蒼っていって、こっちが葵っていうんです!どっちもあおいなんですよ!愛生先輩も仲間ですね!」
「あ、漢字は違うんですけど。これとこれです」
と、葵はホワイトボードに名前を書いた。
「・・・あ、ああ、そう、なんだね」
「愛生先輩、あおい同士、仲良くしましょうね!」
元気に言う蒼をみて、葵の心はあったかくなった。こういうところ・・・ほんとは好きだから。
「・・・愛生先輩?」
「え、ああ・・・ごめんなさい。わ、私、人と話すのがあんまり得意じゃなくて・・・」
「あ、そうなんですか。ごめんなさい俺、なんも知らなくて・・・」
「ううん。蒼・・・って呼んでも、いい・・・でしょうか」
「あ、全然どうぞ!こっちも勝手に愛生先輩って呼んでますし!」
蒼はにこにこ笑顔を見せた。
その笑顔に安心したのか、愛生先輩もみるみる緊張が解けていく。
葵はちょっとだけ、ほんのちょっとだけ・・・やきもちを焼いていた。
その時。
愛生先輩がちょっとだけ、こっちを見て・・・にやりと笑ったように見えた。
「え?」
葵は一人でつぶやいた。