執事の魔法の招待状
「お嬢様お待たせいたしました」
奥からシェフがお辞儀して、料理を次々と運んでくる。フリルレタスにパプリカ、コーンにシーザードレッシングがかかっているサラダに星形のポテト。蜂蜜と林檎をすりおろしてトマトソースにしたハンバーグにマッシュルームがトッピングされてある。横に飾られた檸檬がまた食欲を誘う。
「お嬢様が食べやすいように、私がお料理を小皿に少しずつ取り分けましょう」
慣れた手つきで、いろんな種類のお料理を少しずつ取り分ける。「どうぞ」とお嬢様前にお皿を渡したのだが、食べようとしなかった。
「……まだ、お父様やお母様が来てないわ」
下を向いてぽつりと呟く。ノワールが服の内ポケットから懐中時計を取り出すと、短い針は八時を長い針は十二を指していた。
「お二人は今日もお仕事で忙しいのですよ。私がおります。さぁ、シェフがお嬢様のために作ったお料理を暖かいうちにいただきましょう」
お嬢様はうつ向いたままで、ノワールの問いかけに答えてはくれなかった。
「誕生日くらい……一緒にいてくれたっていいじゃない」
ノワールはショートグローブを外し、両手の星を重ねる。
「お嬢様、ご覧ください」
ノワールが手を開くと中から可愛らしい子リスが二匹顔を出した。その後ろからぐいぐいと前の子リスを押すように、三匹目の子リスが現れる。
「如月お嬢様のお誕生日だって!?」
子リスがどんぐりくらいの小さな鼻をすんすんと鳴らし、息を吐く。テーブルに広がった料理の数々に目を輝かせる。
「ラズベリーがたっぷり乗った、キャロットケーキはないの?!」
お嬢様の椅子の下から、カフェオレ色のネザーランドドワーフのウサギが顔を出し、二本の耳をぴょこんぴょこんと左右に振っていた。
「残念だね。今日はお嬢様の大好きなイチゴがたっぷりのった、イチゴスペシャル生クリームケーキなんだよ」
シェフがキッチンから、出来たばかりのケーキを運んでくる。
「わぁ……!」
テーブルの下からキツネとタヌキが顔を出して、大きな大きなケーキを見て声をあげた。長いふさふさのキツネのしっぽと丸いふわふわのタヌキのしっぽを振り、二匹はそれぞれお嬢様を挟んで両隣に姿を寄せる。
「こらこら、みなさんお嬢様に失礼のないように。おとなしくしているのですよ。今日お招きしたのは、お嬢様の誕生日をみんなで祝うためなのですから」