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お嬢様と執事の距離

 ノワールはお嬢様がもっともっと小さい頃、お屋敷の使われていない小屋で産まれた。彼は普通の子猫よりも体が大きく、指も人間のように五本あった。母猫は他の兄弟と同じように育てていたのだが、日を追うごとに、自分では育てる事が困難になるほど、姿も大きく、見た目も変わってしまい、他の兄弟たちを守るために巣を別の場所に移動してしまった。


ノワールはただただ泣くことは出来たので必死で母猫を呼び続けた。



「だれか、そこにいるの?」



 そこに現れたのが幼い如月お嬢様である。如月お嬢様はノワールを見つけるとすぐに暖かいお屋敷のお部屋に連れていき、暖炉の前で毛布にくるみ、彼女の母親からあたたかなミルクを作って貰うと、スプーンで少しずつのませた。


毛が真っ黒だったことから漆黒(ノワール)と名付ける。



「ノワールはお耳が二つと指が五本あるのね」



 最初に、ノワールの手のひらの印に気がついたのもお嬢様である。最初は誰かが悪戯で書いたものだと思っていたが、いくら洗って拭いてあげてもその印はとれることがなかった。



「ノワール、少し大きくなった?」



すくすくと成長していくノワールだが、月日が経つれ、如月お嬢様の身長を追い越していく。


ノワールは耳としっぽを隠すのがうまくて、お嬢様の両親はノワールを人間の子だと信じ、彼の両親を探していた。


けれども、ノワールがあまりに早く大きくなって、語学を学んでいくのは嬉しい反面恐ろしかった。


「わたしたちのことは本当の親だと思ってもいい」

「如月の良い弟になって欲しい」


そう言っていた彼らだが、彼の獣の耳や尻尾を見た瞬間、本に書いてあった人間と野獣の子供という伝説の物語を思い出してしまい、彼らもまた、本当の両親、母猫と同じく、ノワールのことを突き放した。






お嬢様はいつも食卓で家族のように過ごしていたノワールがいなくなったので、家を飛び出し必死で森の中を探し回った。



「ノワール、ノワール! どこ?」



その日は運悪く悪天候で、連日続いた台風のせいで樹木が倒れており、その時お嬢様は雨で濡れた地面で滑ってしまい、倒れた樹木に足を引っかけ大怪我してしまう。



 森の中でノワールがお嬢様を見つけた時、お嬢様の片足は血まみれになっており急いで家に帰って手当てをしたが、傷になってしまった。


ノワールは憎んだ。自分を産んで見捨てた親も、育ててくれたこの人たちでさえ。




 ノワールはお嬢様の部屋の前でずっとお嬢様の意識が戻るのを待っていた。



「ノワール……?」


「はい、お嬢様」


 

 ドア越しに返事する。



「またどこかにいこうとしているの……? ノワール」


「お嬢様の知らない、ずっと遠くです。私はそこで野良猫のように自分で餌を狩り、暖かい場所を見つけ、生きようと思います。……だって私、本来は猫なのですから」


「ノワール、こっちへ来なさい」



ノワールは、部屋のドアを開けると、お嬢様はベッドから上半身だけ起こし、毛布から手当てされた片方の足を出して包帯をとろうとした。すぐにノワールがお嬢様のそばにかけよる。



「あなたは私の足に一生の傷をつけたの。私から離れて自由になることは許さないわ」



お嬢様はいきなりノワールの首元の(えり)を掴んだ。



「……いい? よく聞きなさい。ドレスが風でめくれて傷が見えぬよう、これからはずっと足元が隠れるドレスを着るの。足で踏まぬよう後ろでドレスを持ってくれる人が必要なの。ノワール、あなたは私の影となってずっとずっとそばで支えるのよ」



「お嬢様……」



お嬢様はノワールの襟元のボタンを一つ外すと、その首に鈴のついたチョーカーを結びつけた。薬指で軽く鈴に触れるとチリンという鈴の音が響き渡った。



「私の(ノワール)ーー……」



 ノワールはお嬢様の遣いとしてお嬢様を守ることで、お屋敷に置いてもらえることになった。その時、約束したのが首輪と紐を付けて「お嬢様に近づきすぎないこと」だった。



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