執事の魔法のレシピ
如月お嬢様と猫の執事のノワールの座っているテーブルにキッチンからシェフがやって来て、お嬢様の前で頭を下げた。
「お嬢様申し訳ございません。少しお料理が遅れているようで」
お嬢様はにっこりと微笑み横目でノワールを睨み付ける。その視線を感じ取ったノワールは「仕方ありませんね」とシルクのショートグローブを外した。
「私、料理はお手伝い出来ませんので、出来上がったソースのお皿だけでも先に出させて貰えませんか?」
お嬢様はスプーンとフォークを持ち、ノワールの方を輝く瞳で見つめる。クリームムースにキャロットとバジル野菜のソースが花弁のようにお皿に散らばる。右手と左手を会わせて一捻りすると、そこには六角形の星が手のひらに印てあった。その手をそっと開いた。すると赤、オレンジ、緑色のミニトマトがもりもりと溢れ出る。一つ手のひらから溢れでてお嬢様の元へところころと転がる。
「これ、洗わなくても大丈夫かしら?」
「失礼な! ちゃんと美味しくいただいてもらえるよう心を込めて出したので美味しいですよ」
ふーんといい、あまり信用しない目でミニトマトのへたを摘まむ。ソースを付けて口に運んだ。
「みずみずしくて、甘い……まるで蜂蜜がミニトマトの皮に包まれているみたいだわ」
ぷちっとトマトの皮を歯で噛むと中からとろりと甘くてとろける蜂蜜が溢れ出る。赤く成熟したミニトマトが一番甘く、オレンジのミニトマトは少し酸味があって、緑色のミニトマトは炭酸を飲んだあとのように後味がすっきりとしていた。おもわずお嬢様の口許が緩む。でしょうでしょうとノワールはうなずいた。気分が少し良くなったお嬢様はノワールにも一つ分けてあげようと、キャロットソースのついたミニトマトをノワールの口許へ運ぶ。
「ありがたいのですが……いただけません」
「どうして?」
「それは、お嬢様のご両親との約束事ですから」
ノワールは耳を下に傾け、視線を落とした。