高飛車なお嬢様と一途な執事
二月十四日。純粋な木製の無垢材を使用した壁にガーランドフラッグが吊るされている。一本の糸に逆三角形の赤と黄色のドット柄の布地に「ハッピーバースディ」と英語で書いてあった。
赤色のギンガムチェックのカーテンの向こう側から、とても美味しそうな香りがしてくる。今夜は一年でも特別な盛大なパーティが行われる。
「如月お嬢様、そろそろ椅子にお座りくださいませ」
人間のように燕尾服着て黒の革靴を履き、二足足で背筋を伸ばして直立する。片方の手でお嬢様の座る椅子を軽く引き、もう片方の手でお嬢様を「こちらにどうぞ」と誘導した。彼のまるで我が子を見守るかのような柔らかい笑みから、彼女は彼にとってとても大切な人だということがわかる。
シルクのショートグローブの指先にぽちゃっとしたとても小さな可愛らしい女の子の手が触れる。まるでたんぽぽの綿毛のようなふわふわとしたチュールドレスを見にまとっているのだが胸元の大きなリボンで結ばれているデザインから、それがきちんと裁縫されたドレスというより、結び目を解いてしまったら全てがほどけてしまうような儚さを感じる。壊れてしまわぬよう大切に手を握った。
「ノワール、貴方の選んだ今日のドレスは最悪よ」
「そうですか? 如月お嬢様のような可愛らしいドレスを選んだつもりでしたが」
「私だって今日で十二歳よ! もう大人なの! たんぽぽのような黄色のチュールのドレスより、体のラインが綺麗にはえるシルクの大人っぽいドレスが良かったわ!」
「でも、お嬢様の体はまだ成長途中で……」
きゃあきゃあと如月お嬢様が騒ぐので、ノワールは長い耳を自然に反対方向に向け耳を塞いだ。長い燕尾服の隙間から出ている尻尾は困った困ったと左右に動いている。
「お髭が下を向いているわよ、ノワール」
「えっ、そんなことは」
ターコイズブルーの瞳に如月お嬢様のにやりとした何か企んでいる表情が移ったので、これは不味いと思い、ノワールはキッチンへ紅茶の準備に体を向けた。
「ノワール! 逃げないでお嬢様の相手をしなさい」
ノワールは長い尻尾をつかまれ、抵抗できずにお嬢様の向かいの席に座らされた。逃げられなかったのでにゃあにゃあと悲しそうに机を爪で引っ掻いた。
そう、ノワールはお嬢様の猫の執事である。