なんか前に考えたような気がするやつ。
「ど、どけよ!!」
ある銀行で、黒ずくめの男が刃物を持ち、一人の少年にそう言った。しかし少年は動かない。男に「嫌だね」と言い、不敵な笑みを浮かべると、まるで煽るかのように携帯端末をいじり始めた。
実に危険な行為であった。何せ、周りには大勢の人がいるのだから。
男は近くにいた、銀行員であろう女性の首に刃物を突きつけた。だが、少年は見向きもしない。
「この女がどうなってもいいのか!」
「あ、はい」
一同、唖然。少年の即答に、男はさらに怒りを爆発させる。
女性を離すと、
「早くどけ!」
「いや、どいてますし。通りすぎればいいでしょうが」
そうしたくてもできない。男はなぜか怯えていた。
少年の威圧というものに。
それが、さらに男の炎を燃え上がらせた。
「くそが! 邪魔なんだよォォォ!」
男は少年に向かって突撃した。
二人の距離は、その時点で約五メートル。男が三歩進んだ時には、二メートルを切っていた。
徐々に縮まっていく自身の運命。それを男が感じた瞬間、少年は――やっと動き出した。
しかしそれは、少年の命を賭けるものであった。
「能力……発動」
刃物が、少年の腹を貫こうとした寸前の距離、およそ一ミリ。
――男は、倒れていた。
少年の名は、七郎。命の危機に発動する能力、『ラスト・チャンス』の継承者。
発動条件は、危険が近づいた時。ただ、範囲は一ミリという、スリルが伴うものである。
七郎は「ざまぁねぇな」と捨て台詞を吐き、銀行をあとにした。
まさかこのあと、強大なる陰謀に飲み込まれることになるとは、思いもしないのであろう。