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脚本

  片山かすみは、俺の事を見つめて言う。

「今回の脚本、最初から岸辺君をイメージして書きました。この前の、岸辺君の芝居を観た後すぐに書き始めたの。」

 

「ああ、この前の! 観ていたんだ、ありがとうございますっ! 」

  俺は初対面の女の子に緊張している。受け答えが若干適当になっているのを笑って誤魔化す。自分の書いた脚本の舞台なんだし、観に来てて当たり前だろ。。


  「私は、小さい時から演劇やっているんだけど、この人の相手役をやってみたいな・・同じ舞台に立ちたいなって思ったのは初めてで、それで・・・」

  今まではっきりと、透き通った声で話していた片山かすみの口が止まる。


  俺は助ける気持ちで軽く言う。

  「俺がその、初めてなの? 」

 

 もしかして、という期待に顔がニヤついてしまうのを隠す俺に対して、彼女は目をそらして居たたまれない様子である。



  「はい・・そうです。あの脚本は・・岸辺君のヒロインをやりたいと思って書きましたあ! 」



  携帯のバイブ音が聞こえる。それは彼女の携帯からで、慌てて出る。

  ・・俺の方を振り返り、小さく「ごめん」と言う。

 制服を拾って鞄の中に入れると、慌てて教室を出ていった。

  少し聞こえた内容によると、さっき言っていた劇団の稽古が早まったみたいだった。

 

  それにしても胸が踊って、どうしようもない。

  俺は演技が好きで結構本気でやっていた。それを誉められてるかのような「あなたのヒロイン役をやりたい」という申し出に、そしてそれを突然言ってきたのが俺が魅力的に思える可愛い女の子━━

 

  「舞台で共演できたら、仲良くなれるんだろうな・・」

  (やま)しい気持ちが少しあることは自覚があった。

  そしてあの脚本・・俺のヒロインをやりたい、と思って書いたって言ってたってことは・・俺と、キスを・・・・ってことか?

いやでも・・片山かすみは、演劇部の部員じゃないし。どういうことだ?




 携帯を見ると、奈々から10分前にメールが届いていた。

  【ノート提出しないと帰れない(__) 教室にいるからきて!! 】


  教室に行くと、奈々ともう1人演劇部の七海が居る。二人ともペンを握りしめてノートに向かい合っている。

奈々が気付いて手を振る。


  「やっと来たあーー! もーーっ 嫌になるよう」

  「どうしたんだ? 何の居残りをしている? 」

  「今日の英語と国語の小テストで、間違えたところをノートに書いてる。英文と漢字、間違えたところ10回ずつ写す・・ これだけ間違えたからあと60回書いて提出しなきゃ帰れないの。」

  小テストのプリントはほとんどバツだった。

  「写経じゃないんだから、こんなに間違えるなよ」

  「岸辺ぇ、奈々は暗記は駄目なんだよ。」

  隣で七海が言っている。既にノートに置いている右手の小指側が黒の墨で真っ黒になっている。そう言う割には、君も奈々と学力は同じくらいか・・


  「ああ、もう、疲れた!! ストレッチ! 」

  ガタッと立ち上がって伸びをする。太ももが惜し気もなく出ている。放課後になると、スカートを曲げて短く穿くからだ。

 

  俺をじっと見つめて奈々は呟く。

「セリフ、覚えられるかなあ~」

「今回はマジで早く覚えろよ、もうすぐ稽古を兼ねたオーディションもするんだから。『覚える』というより、身体に『入れ込む』気でやって来い」


  奈々の台詞の入ら無さは部員全員が知っている。

 台詞の中の単語がふと頭から抜けてしまったり、助動詞を覚え間違えていたりと本当に手が掛かる。


  「そういえばさ、部室にこの前来たよね。片山かすみちゃん。岸辺ぇは、その時居なかったけど。結局入部したらしいよ。んで、明日の外部から演出家を呼んで来てやる稽古から参加するって。」

  「マジか、脚本家の前でたくさん台詞忘れてしまったら、やばいーー! 」


 

  七海が教えてくれるまで知らなかった。

  片山かすみはいつの間にか演劇部に入部していたなんて・・





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