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主人公とヒロイン(仮)

  「幸せを願うなら幸せにして」

  と、彼女は言った。

  崖の上で、ずっと俺に背を向けたまま立っている彼女・・今まで言いたくても言えなかった言葉をやっと言えたような本心の叫びだった。

  【ダレカノ体温ガ欲シイ】

  そう、背中が言っている──

  そのメッセージを受け取ったように、俺は彼女を後ろから抱きしめた。


  そしてそのまま・・暗い海へと彼女を突き飛ばした。崖の上で俺は呟く。

  「・・・本当は、僕は、死神なんだ──」




  ──暗転、舞台は明るくなる。

  演劇部の公演『死神と死にたい彼女』は無事に終わった。

  主人公で死神役の俺は、彼女役の子と頭を下げ、舞台から降りる。

  こうやって、高校1年生の初役者デビューは幕を閉じた。

これまで演劇なんてやったことがなかった俺だったが、主人公なんて目立ったことをやった事により一気に学年の有名人へとなった。結構、演技も好評だったらしい。



  そして高校2年の春──

  今年度初の演劇部の集まりに出向くと、思いがけない事態に直面していた。


  ラブシーンで、ヒロインとキス・・・?!

  貰ったばかりの脚本に目を通しながら、俺は驚いていた。

  この演劇部は、男子部員が今、俺しかしないから自動的に主人公は俺に決定している。



  「ヒロインは今回もわたしがやりたい!」

  去年俺のヒロイン役をした奈々が積極的に手を上げアピールする。即決した様子と、何処と無く目を輝かせているように見えるところ、


  それって、つまり俺とキスしてもいいの!?


  なんて、考えてしまうだろ・・

  まあ、奈々は前回の舞台以来、俺と仲が良いというか、良い雰囲気というか・・ よく、役で恋人同士をやったその後も役を引きずってしまい、友達以上恋人未満のようなそんな関係が続いている。

 

  新部長の明日香(あすか)が、台本を手に取り今回の脚本について説明をする。

  「配役については、今後の即興劇(エチュード)を通してゆっくり決めたいと思う。あと、みんな読んでわかる通り、結構、大胆なシーンが含まれたラブ・ロマンス物の脚本に仕上がっている。この脚本も、前回『死神と死にたい彼女』を書いてくれた片山かすみちゃんにお願いした。」


  明日香の幼なじみという片山かすみは、4歳の頃から有名な劇団に所属している役者さんらしく、たまに脚本も書いているらしい。俺はまだ会ったことがないが・・


  「ただ、この主人公男役は自動的に岸辺君に決定だ。今回も主人公よろしくっ! 」

  力強く言葉を投げ掛けられ、身体が強張った。

  「はい、主人公やらせていただきます、岸辺勇人です。宜しくお願いします・・」

  拍手が起こる。何故、今年に限ってラブ・ロマンス物にしたのかを聞き出したかったが皆了承している雰囲気だったので辞めておいた。

  去年の劇は、一昔流行ったような“転生物語”でミステリアスな主人公が演じられたのに。最後のシーンで後ろからヒロイン役の奈々を抱きしめた時は躊躇なく出来た。というか、それは脚本のト書きに無かった行為だったが、役にのめり込んでいた俺は自然とやっていたんだ。


  しかし、キスはどうだろうか・・唇と唇を重ね合う二人の愛を確認し合う行為・・

 キスなんてやり慣れてない・・と、言うかやったことがない俺は芝居中に我に返ってしまうのは目に見えている。

  ・・っていうか、高校の演劇なのにキスまでしなくちゃならないのか。業界の関係者も観に来るうちの学校は、年々“本格的”になってきている。


 ──もしかして、人生初のキスは舞台ですることになるのか。



  昼休みのミーティングは終わり、部室から出るところで奈々から小声で話しかけられる。

  「放課後少し予習しちゃわない?」

  相変わらず積極的に絡んでくる。髪は腰にとどきそうなくらいロングで、背もそれなりにあり、スタイルが良い。なかなかの美人でドッキリしてしまう。

  小さく「いいぞ」と返事をする。



  放課後━━

 教室練の端の空教室で奈々を待っているが、どうやらホームルームが延びているようでなかなか来ない。

  仕方ないから、壁際まで移動をし外を眺めながらヘッドホンで音楽を聴くことにした。

  暫く経って、後ろの教室の扉が開いたような音がした。奈々だと思って後ろを振り向くとそこには、


  おおっっ!!?


  知らない女子が制服を脱いで着替えをしていた。

  上着のセーラー服は既に床に落ちている。白いフリルの付いたブラジャーの姿が目に飛び込んできた。まだ俺に気付いていないのか、スカートに手をかけ、するりと、床に下ろしている所だった。白いパンツも半分見えてしまっている──

  気配を感じとったのか、こっちを見て「あっ! 」と声を発した彼女と目が合った。

  そして何故なのか、見られて恥ずかしいといった素振りもせず、なんと、ほぼ下着だけの姿でこちらに近寄ってくる。


  俺はたじろいでいながらも、彼女のその柔らかそうでブラジャーから溢れでそうな大きめの胸と白い肌と綺麗なくびれの身体に目が釘付けになる。

 


  俺の数歩前で止まり、彼女は落ち着いている口調で言葉をやっと発する。

  「死神役の! 岸辺君だっけ? はじめまして、片山かすみです。」

  小さな顔で目がはっきりしており、可愛らしい顔立ちをしている。ふわりとウェーブのかかったショートカットが似合っている。雰囲気がとても良い。結構タイプの子だ・・

  差し出して来た右手に答えようとしたが、下着姿の光景が刺激的で顔が熱くなって目をそらす。


  「あっ、えっと・・ ごめんね、こんな格好で・・びっくりさせちゃった? 放課後すぐに舞台の通し稽古があるから、出る前に先に着替えちゃおうと思って。」


  着替えをしていた位置に戻り、衣装である浴衣に手を通している。

  「劇団に居ると、男女交えて皆で着替えるのが当たり前だから、抵抗なくなっちゃってて・・」


  「あ! 片山かすみさんって、明日香の幼なじみだよね? 演劇部の脚本も書いてくれた・・」

「はい、脚本、書いています。結構、あの劇色んな所で好評だったんだよ。岸辺君が主人公を演じてくれたおかげかな〜。」


  浴衣の帯締めに集中している為か、そこで会話が一時途絶える。



  「岸辺君、もしもあなたに会ったら言おうと思ってたんだけどね。」

  着替え終えたようで、また、俺の側へ駆け寄ってくる。

  ピンク色で大きな花柄の浴衣が彼女の可愛らしさを引き立たせているなと俺はまた見とれていると・・・

  大きな瞳が俺を見つめている──




  「わたしが、あなたのヒロイン役をやりたい」



  はっきりと彼女はそう言った。



 

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