コンプレスワールド #1
外を見ると、目の前には壁があった。
無理矢理に上を覗き込むと、小さな空が見えた。
一歩、後ろに下がると、縦に二本、鉄の棒が立っている。
また下がると、等間隔に鉄の棒が立っている。
左右には石の壁がある。
後ろを向くと、また石の壁がある。
等間隔の鉄の棒の向こう側の者は、ここを『地下牢』と言った。
私は、三方の石の壁と、鉄の棒の向こう側に見える通路と、ほんの小さな空。それ以外の場所を見たことはなかった。
いや。そんなことはない――そんなことはないはずだ。ただ忘れてしまった。あまりに変わらない世界に、どんどん記憶の比率が圧迫されていく。私がこの小さな石の世界にこもってからの時間に比べたら、きっとそれより前の時間は限りなく少ない。実際はわからない。でも記憶は、薄れて行くものでもある。だから比率は下がる。比率というのは不思議だ。圧倒的に少ないものは、時として『ゼロ』として扱われる。ないものとして扱われる。
私にとって『世界』の定義は、昔は、もっと昔は、とても広いものだった気がする。
だけど今。私の世界はここだけだ。
ここが世界の縮図ではない。
ここが世界の全てだ。
ここだけで完結している。
ずっと同じ。
この場所で変わるものは、ほんの少しだけ見える空だけだった。
地下なのに、空が見えるのだ。
吹き抜け構造というのか。瀟洒な造りだ。この場所の設計をした人間には感謝しなくてはならない。
おかげで私は、唯一時間が進んでいることを認識する手段を得ることができるのだ。
時間は進んでいる。
そんなことに私は喜びを感じていた。