表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/23

コンプレスワールド #1



 外を見ると、目の前には壁があった。

 無理矢理に上を覗き込むと、小さな空が見えた。

 一歩、後ろに下がると、縦に二本、鉄の棒が立っている。

 また下がると、等間隔に鉄の棒が立っている。

 左右には石の壁がある。

 後ろを向くと、また石の壁がある。

 等間隔の鉄の棒の向こう側の者は、ここを『地下牢』と言った。

 私は、三方の石の壁と、鉄の棒の向こう側に見える通路と、ほんの小さな空。それ以外の場所を見たことはなかった。

 いや。そんなことはない――そんなことはないはずだ。ただ忘れてしまった。あまりに変わらない世界に、どんどん記憶の比率が圧迫されていく。私がこの小さな石の世界にこもってからの時間に比べたら、きっとそれより前の時間は限りなく少ない。実際はわからない。でも記憶は、薄れて行くものでもある。だから比率は下がる。比率というのは不思議だ。圧倒的に少ないものは、時として『ゼロ』として扱われる。ないものとして扱われる。

 私にとって『世界』の定義は、昔は、もっと昔は、とても広いものだった気がする。

 だけど今。私の世界はここだけだ。

 ここが世界の縮図ではない。

 ここが世界の全てだ。

 ここだけで完結している。

 ずっと同じ。

 この場所で変わるものは、ほんの少しだけ見える空だけだった。

 地下なのに、空が見えるのだ。

 吹き抜け構造というのか。瀟洒しょうしゃな造りだ。この場所の設計をした人間には感謝しなくてはならない。

 おかげで私は、唯一時間が進んでいることを認識する手段を得ることができるのだ。

 時間は進んでいる。

 そんなことに私は喜びを感じていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ