#3
「どうした?中澤」
「俺の家は名家でな。本郷言うんやけど。俺は二番目に生まれたんや」
「ああ、裕次の次って入ってるから、次男かなとは思ってたよ」
「賢いの。跡継ぎで問題が起こらんように、別の苗字を与えられて、家からは隔離される。これが次男の定めなんや」
「え?」
俺はよく理解できていなかった
「次男まで産むのが基本決まりなんや。長男が何かあって亡くなった時に困るさかい。」
「…」
「でも、寂しくはないんやで?杏奈も隼人もよお来てくれるし。」
「…」
「なあ、だまらんといてや?暗くなられるとこっちが困るねんなあ!」
「家族と…どれくらい会ってないんだ?」
「最後に会ったのは5歳の誕生日や。全く覚えてへん。やから愛情も何もない。俺はずっと知らない人の元で育ってきた。金もあって何一つ不自由ない生活を送ってきた」
「何一つ…?何一つ不自由ない?んなの嘘だろ…」
「?由貴?」
中澤は驚いていた
「家族と会えない、そんな悲しいことなんかない!」
「俺はそれでいいって思うてんや!口出しすんなや!」
「じゃあ何でこの話したんだよ!?ほんとは寂しいんだろ!?」
「はあっ?!なにいうてん…」
「帰ってきたときに電気が付けっ放しだった!わざとだろあれ」
「!!」
中澤は心の中で昔の自分を思い出していた
『あの家は暗くて帰りたくない。おかえりって言ってくれる人もいないから。電気はつけておこう。そしたら、何かあったかい気がするから。』
「大丈夫だからっ…俺は…中澤をちゃんと、中澤として見てるから…」
由貴は泣いていた
雨でぐしょぐしょな顔と体に涙が拍車をかける
俺も泣いていた
由貴が俺を抱きしめる
「裕次は、裕次だから」
俺は今までの張り詰めていた、何かがプチンと切れた気がした
「ずっと…ずっと…俺は必要ないって思ってて…いくら勉強していい成績とっても褒めてくれなくて…何度電話しても何度あいつらの家のインターフォン押しても!一回も会ってくれなかった!俺は…」
もう中澤には陽気に関西弁を話すいつもの面影はなかった
「必要ない人なんかいない。俺は中澤のおかげでクラスのみんなと話すことができた。矢野目や隼人をうまくまとめたり、クラスのみんなのこと気遣えるのは中澤くらいしかいない」
「…」
「もう悲しいこと言わないで…」
抱きしめる由貴の手が強くなる
柔らかい暖かい
いい匂いがする
落ち着く…
中澤はそのまま寝てしまった
「あれ…?寝ちゃった?風邪ひいちゃう!」
中澤が離してくれなかったのと、自分も泣き疲れて
由貴は目を閉じて眠りについてしまう